EUV露光機用CNTペリクルのトレードオフに突破口、透過率維持しつつ耐久性は最大66倍へ:「最大の課題」解消へ大きく前進
極端紫外線(EUV)露光用ペリクルの主流候補とされているカーボンナノチューブ(CNT)ペリクル。最大の課題は「耐久性と光透過率の両立」だが、この解消に向けた大きな一歩となる技術をリンテックが開発した。同社は産業技術総合研究所(産総研)の先端半導体研究センターとの共同研究により、90%と高い光透過率を維持しつつ、CNTペリクルの耐久性を大幅に向上させることに成功した。また、産総研つくばセンター中央事業所内に同CNTペリクルの量産設備を導入。「つくばイノベーティブクリエーションセンター」として2026年内を目標に、「EUVペリクルプロダクト」の本格生産開始に向けた取り組みを推進していく。
CNTペリクル「最大の課題」解消へ大きく前進
最先端の半導体製造に欠かせない極端紫外線(EUV)露光。EUV露光装置では、回路の微細化が極限まで進む中、スループットや解像度を向上させるため、光源出力を高めた次世代機が開発されているが、そこで課題になっているのが、EUV露光用ペリクル(ペリクル)の性能だ。
ペリクルは、回路の“原版”であるフォトマスク(レチクル)に異物が付着するのを防ぐ、薄い保護膜である。レチクルから数ミリメートル離れて貼られるので、ペリクル上に異物が付着してもEUV光の焦点が合わず、ウエハー上に結像しない。そのため、パターン欠陥が発生しないという仕組みだ。現在はポリシリコンをコア材料としたペリクルが使われているが、EUV露光では光透過率や高温環境下における耐久性で課題が出ていることから、今後はカーボンナノチューブ(CNT)を用いたペリクルが主流になるとみられている。
一方でCNTペリクルには、耐久性と透過率がトレードオフになるという大きな課題がある。リンテックは、産業技術総合研究所(産総研)先端半導体研究センターとの共同研究により、約90%の透過率を維持しながら耐久性を大幅に向上させたCNTペリクルの開発に成功。CNTペリクルの最大の課題ともいえるトレードオフの解消に向け、大きな前進を遂げた。
従来とは異なる特性が求められるEUVペリクル
ペリクルには基本的に、光透過率と耐久性の両立が必要になる。特にEUV露光装置では、EUVの波長が非常に短く物質に吸収されやすい上に、光がペリクルを通過する回数も増えるので透過率が落ちやすい。リンテック アドバンストマテリアルズ事業部門兼事業開発室 課長の田村和幸氏は「EUVペリクルの透過率は90%以上、最近では95%に近い数字が求められている」と説明する。
もう一つの重要な特性が耐熱性(耐久性)だ。EUV露光装置では光源出力が大きくなることで発熱量が増加し、ペリクルがさらされる温度も上昇する。現在も300〜400℃、500℃と上昇し続けているが、この先数年で800〜1,000℃に達するとされている。「これだけ高温になると、現在のポリシリコンベースのペリクルでは、耐熱性とその他の物性のバランスを取ることが難しくなってくる。CNTペリクルの開発が進められてきたのは、そうした背景からだ」(田村氏)
CNTペリクルのトレードオフ
一方で、CNTペリクルは前述した通り「耐久性と透過率がトレードオフになる」という課題がある。EUV露光は真空中で行われるが、ミラーへの異物付着を防ぐ目的で装置内には水素が導入されている。これにより発生する大量の水素プラズマは、CNTペリクル自体をエッチングし、ペリクルを劣化させてしまう。エッチングを防ぐためにCNTペリクルを金属薄膜でコーティング(キャッピング)する方法もあるが、今度は光透過率が下がってしまう。このトレードオフをいかに解消するかが、CNTペリクルの実用化における最大の障壁だった。
新規コーティング技術で耐久性が10倍以上に
リンテックはCNTの研究開発を長年にわたり手掛けているメーカーだ。CNTをはじめとするナノ材料については、2013年に設立した米国テキサス州の拠点を中心に研究開発を行っている。CNTを網の目のように配置させ、空隙を制御してCNT密度を調整することで、光透過率が高く耐久性のあるCNTペリクルの実現を目指してきた。
今回開発したのは、現行の低中出力EUV露光(光源の出力が250〜500W)向けに、キャッピングを施したCNTペリクルである。具体的には、水素プラズマによるCNTペリクルのエッチングを防ぐ無機コーティングの材料および新規処方を確立。これをCNTペリクルに適用して評価したところ、キャッピングされていないCNTペリクルに比べて10倍以上の耐久性を実現することを確認した。
キャッピングは従来提案されていた技術だが、リンテックの強みはコーティングの材料と手法(コーティング処方)にある。「キャッピングはCNTを束ねた繊維(バンドル)の表面を均一にコーティングすることが重要になる。コーティングにムラがあると、その部分からCNTの劣化が始まるからだ。われわれは、バンドルの表面をスムーズにして、均一にコーティングできる材料、プロセス技術を開発した」(田村氏)。コーティングと透過率はトレードオフの要素だが、リンテックは両者のバランスを調整しながら材料と処方技術を最適化し、90%の透過率を維持しながら、耐久性の大幅な向上に成功した。
自社で設計した水素プラズマエッチング装置で、実際の露光機に近い環境で評価できることも強みだ。今回は、同装置を用いて、ペリクルの表面温度が300〜400℃になる低中出力領域において耐久性向上を確認した。つまり、現行のEUV露光とほぼ同等の環境で「10倍以上」という耐久性を実現できたことになる。
周辺部に厚みを持たせる「Dual-density」構造
さらに、光源が600W以上になる高出力EUV露光装置向けに、ペリクルの周辺部に厚みを持たせる「Dual-density」タイプを開発し、量産技術を確立した。
将来的にEUV光源は、600〜1,000Wの高出力になるといわれている。こうしたハイパワーのEUV露光装置では、CNTペリクルの表面温度が大幅に上昇すると予想されている。「800〜1,000℃に達するというシミュレーション結果を得ている」(リンテック 研究所 副所長 近藤健氏)
これまでは、表面温度が上がるほどCNTペリクルのエッチングが進むと考えられてきた。しかしリンテックの分析により、この理解とは異なる結果が得られた。
レーザー照射による加熱下では、CNTペリクルがエッチングされる速度(エッチングレート)は300〜400℃で最大になる。これは、現行のEUV露光装置で達する温度だ。つまり、現在はCNTペリクルが最もエッチングされてしまう環境になっているといえる。
近藤氏によれば、高温の領域ではエッチングが急激に抑制されるという。「われわれの実験では800℃を超えるとエッチングレートが急速に低下し、900℃以上では、エッチングがほとんど進行しないことが分かった」
ただし、それはレーザーが照射される部分のみで、ペリクル外周部はエッチングが進む。そこでリンテックは、外周部のCNTの厚みを厚くしたり、CNT密度を上げたりすることで耐久性を上げる「Dual-density」構造のペリクルを開発。量産技術も確立した。
キャッピングの有無とDual-densityの有無を変えた条件でEUVペリクルを評価した結果、水素プラズマ環境において以下のような耐久性の向上を確認した。いずれも比較対象は「キャッピング無し+Single-density(Dual-densityではないもの)」のCNTペリクルである。
- 室温:キャッピング有り+Single-densityで、耐久性は24倍
- ペリクル表面温度が400℃:キャッピング有り+Single-densityで、耐久性は38倍
- ペリクル表面温度が965℃:キャッピング有り+Dual-densityで、耐久性は66倍
Dual-densityにする領域(CNT膜に厚みを持たせる領域)は、顧客のEUV露光プロセスによって変わる。「顧客の要望を聞きながらカスタマイズで対応する計画だ。EUV露光装置の使用条件に合わせ、キャッピングとDual-densityを柔軟に組み合わせて、次世代以降のEUV露光技術も見据えたトータルソリューションとして提案していく」(近藤氏)
「異物ゼロへ」 パーティクル管理も強化
異物低減にも力を入れる。リンテックは直径10μm以上の異物の数を、フルサイズのペリクル1枚当たり数個レベルに抑えることにも成功した。装置内部のクリーン度を高め、ペリクルの製造プロセスを最適化することによって実現した。リンテックはこれらをさらに改善し、顧客のサンプル評価に向けてゼロを達成する見込みだ。ペリクルの量産適用で重要になるパーティクル管理の面でも、実用レベルに近づいている。
2026年内に国内で量産開始へ
リンテックはCNTペリクルを自社で設計しているだけでなく、量産設備や評価機器も自社で開発している。産総研つくばセンター中央事業所内に設ける新たな拠点「つくばイノベーティブクリエーションセンター」に、自社開発のCNTペリクル生産設備および関連設備などを導入し、量産に向けた取り組みを急ピッチで進めている。「EUV露光機用ペリクル」の提供を、2026年内にも開始する計画だ。
リンテックは、半導体の実装工程で使用される特殊粘着テープや装置、積層セラミックコンデンサ製造に欠かせない剥離フィルム、光学ディスプレイ用の機能性フィルムの粘着加工など、粘着テープやフィルムなどに強みを持つメーカーだ。半導体事業では後工程向けの製品が主力だったが、CNTペリクルによって前工程分野への進出に攻勢をかける。
「近年の国際学会でもEUVペリクルに関する専用セッションが設けられ、CNTペリクルの発表が増加している。各サプライヤーもCNTについて活発に議論しており、次世代EUVペリクルの主流としてCNTペリクルが使用されるという流れは、ほぼ変わらないだろう。われわれは十数年にわたるCNT研究のノウハウを生かし、CNTペリクルの量産体制確立をマイルストーンとして、全力で取り組んでいる」(近藤氏)
リンテックがCNTペリクルにおいて成し遂げたブレイクスルーは、EUV露光技術の進展と、最先端の半導体製造に大きく貢献するはずだ。
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提供:リンテック株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2026年6月25日



