LTEから4G、その先へ……止まらない無線通信規格の進化に対応する方法とは:NIWeek 2013現地リポート
CDMAを利用した第3世代通信から第4世代のLTE、さらに次世代のLTE-Advancedへと、無線通信規格の発展が進む中、RF開発の複雑さは増す一方だ。NIは、NIWeek 2012において、そうした複雑さに柔軟に対応するための解決策として、RF開発の概念を変える「Software-Designed (ソフトウェア設計型)のRF計測器」であるベクトル信号トランシーバを発表した。2013年は、その機能をさらに強化している。
スマートフォンやタブレット端末の普及や、モノのインターネット(IoT:Internet of Things)、M2M(Machine to Machine)向けの技術開発が進む中、無線通信にはかつてないほど注目が高まっている。通信速度の向上や帯域幅のひっ迫といった課題を解決するため、次世代無線通信規格への移行も確実に進んでいる。無線LAN規格は、現在主流のIEEE 802.11nは、IEEE 802.11acへ、携帯電話の通信規格は3G(第3世代)から第4世代のLTEへと移行している。さらに、LTEの次世代規格となるLTE-Advancedや、5G(第5世代)の研究開発も活発に行われている。
こうした次世代規格では、変調方式や信号処理アルゴリズムが複雑になり、それに伴って無線機器の設計や開発の難易度が増す一方になっている。従来の計測機器では測定が難しい評価指標も増えてきた。ナショナルインスツルメンツ(NI)のAutomated Test(自動テスト)プロダクトマーケティング部門でシニアグループマネージャを務めるLuke Schreier氏が「ユーザのニーズの変化は速い」と指摘するように、測定対象や評価指標によって、計測機器が求められる性能は大きく変わってくる。
このようなニーズの変化や無線開発の課題に応えるため、NIは2012年に、これまでの無線開発の概念を変える新しいコンセプトを打ち出した。それが、「RF計測器のさまざまな機能を、ユーザ自らがソフトウェアで設計する」というものだ。このコンセプトに基づくRF計測器として「ベクトル信号トランシーバ」を発売した(関連記事:26年ぶりに“計測を再定義”、新コンセプトのRF計測器をNIが発表)。
ベクトル信号トランシーバの構成とメリット ベクトル信号トランシーバは、ベクトル信号発生器とベクトル信号アナライザの機能を統合し、さらにFPGAを搭載したRF計測モジュールだ。このモジュールをPXIe規格に対応する筐体(シャーシ)およびCPU/メモリ/SSDを搭載したコントローラと組み合わせて使用する
RF・無線分野のソリューションの強化に取り組むNIはそれまでも、ベクトル信号発生器やベクトル信号アナライザといったRF計測器を個別のモジュール製品として提供してきた。2012年に発表したベクトル信号トランシーバは、これらベクトル信号発生器とベクトル信号アナライザの機能を統合したモジュールである。2台の機能を統合したことで機器を小型化できるというメリットがある。加えて、モジュールにFPGAを搭載したことで、NIが提供するシステム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」を使ってFPGAを書き換え、RF計測機能を“設計(カスタマイズ)”できるようになっている。例えば、無線通信の特定のプロトコル処理を内蔵し、そのプロトコルを考慮したRFテストを実行できる装置や、RFデバイスのフィールドテスト向けに、無線通信チャネルをリアルタイムにモデリングするシステムを構築できるといった具合だ。
さらに、さまざまな信号処理を実行するハードウェア回路をFPGAに実装できるので、プロセッサを用いてソフトウェアで同じ処理を実行する場合に比べて、処理速度が大幅に向上する。
Qualcomm Atherosが、IEEE 802.11acに対応した無線LANチップの特性評価にベクトル信号トランシーバを採用したところ、計測スループットが10倍以上に向上したという。なお、ベクトル信号トランシーバの仕組みやアプリケーションについては、「測れないものは設計できない ―― RF開発の変わらぬ課題、その新たな解決策」で詳しく説明している。
FPGAが使えなかった!?
NIのマーケティング担当バイスプレジデントであるEric Starkloff氏によれば、ベクトル信号トランシーバは、採用されたアプリケーションの分野や出荷量において大きな成功を収めた製品となった。
だが、ベクトル信号発生器やベクトル信号アナライザなど、NIの既存のRF計測器を使っていたユーザがベクトル信号トランシーバに移行したい場合、問題があった。それが、「従来のプログラムのままでは、ベクトル信号トランシーバに搭載されているFPGAを使えない」ということだ。
既存のRF計測器を動かすには、ドライバソフトウェアが必要になる。アナライザ用に「NI RFSG」、発生器用に「NI RFSA」と2つのドライバをインストールすることで、NI LabVIEW上で発生器やアナライザを操作する関数群(API:Application Programming Interface)を使用できるようになる。
NI RFSG/NI RFSAは、ベクトル信号トランシーバも動かすことができるので、ベクトル信号トランシーバに移行したい場合、これらのドライバソフトウェアで作成したプログラムを流用することができる。ただし、既存のRF計測器はFPGAを搭載していないので、流用したプログラムにはFPGAを使用するための記述が含まれておらず、従ってFPGAを使用できないことになる。当然、より高速に信号処理を行えるというFPGAの恩恵は受けられない。
NI RFSG/NI RFSAの代わりに、FPGAを搭載したモジュールを動作するためのドライバソフトウェアである「RIOドライバ」を使用すれば、ベクトル信号トランシーバのFPGAを使えるようにはなる。ただしこの場合は、RF計測用のプログラムを最初から書き直さなければならないというデメリットが発生する。
このボトルネックを解消する手段として用意されたのが、NI LabVIEWのドライバ拡張ソフトウェア「FPGA Extensions」だ。FPGA Extensionsをインストールすることで、NI RFSG/NI RFSAで作成したプログラムを流用できるだけでなく、FPGAを使った処理もプログラミングできるようになった。
NIWeek 2013の基調講演では、FPGA Extensionsを採用したことで、処理が高速化した事例として、Hittite MicrowaveのLTE向けRFフロントエンドICのテストが紹介された。競合他社の製品を使った場合は70秒かかったテストが、ベクトル信号トランシーバ(FPGAは使用していない)を用いると6秒以内に完了した。これだけでも大幅にテスト時間が短縮しているが、FPGA ExtensionsによってFPGAが使えるようになると、テストは1.2秒で終了し、処理速度は競合他社品を用いた場合に比べて約60倍に向上している。
Hittite MicrowaveのLTE向けRFフロントエンドICのテスト 競合他社の製品を使った場合(Competitive Box Instrumentsと表示)と、ベクトル信号トランシーバ(FPGAは不使用:Vector Signal Transceiverと表示)を用いた場合、FPGA Extensionsを用いた場合(+FPGA Extensionsと表示)のテスト時間を比較している(クリックで拡大)
さらに、デモで用いた計測システムには「NI PXIe-8383mc」というアダプタモジュールが使われている。同モジュールは、「PXI MultiComputing(PXImc)」と呼ばれる技術を採用したものだ。PXImcは、同じルートコンプレックスを持つPCI Expressに対応した複数のシステムを、PCI Express経由で接続する技術である。CPUの処理を分散して高速化することができる。FPGA Extensionsに加え、NI PXIe-8383mcのモジュールを追加したシステムでテストを行ったところ、テストは0.65秒で完了し、FPGA Extensionsの採用のみに比べて処理速度がさらに2倍になった(+FPGA Extensions+PXImcと表示)。
なお、2012年には発表されたベクトル信号トランシーバである「NI PXIe-5644R」に続き、2013年3月には「NI PXIe-5645R」が投入されている。搭載するFPGAや周波数範囲、帯域幅、位相ノイズといった基本性能は変わらないが、NI PXIe-5645Rはベースバンド信号の入出力部が追加された。NI PXIe-5644RはRF信号の入出力部しか備えていなかったので、ベースバンド信号を取り込むには専用のモジュールが別に必要だった。NI PXIe-5645Rは、RF信号とベースバンド信号の両方のテストが行えるようになっている。
28 nm FPGAの採用
冒頭で述べた通り、携帯電話の通信規格は、3GからLTEへ移行するとともに、さらに次世代の技術開発も進んでいる。NIも次世代通信技術の開発に積極的に取り組んでいて、2012年5月には、ドイツのドレスデン工科大学と協力して5Gの無線システム用の技術を開発すると発表した。
NIWeek 2013の基調講演では、その成果の1つとして8×8 MIMO(Multi-Input/Multi-Output)のデモを行った。MIMOは複数のアンテナを使うことで通信速度を上げる技術だ。LTEでは2×2 MIMOと4×4 MIMOが規定されていて、LTE-Advancedでは8×8 MIMOが追加される。
8×8 MIMOのテストを可能にしたのが、NIのFPGAモジュール「NI FlexRIO」の新製品「NI PXIe-7975R」である。28 nmプロセスを適用したXilinxのFPGA「Kintex-7」を搭載した点を最大の特徴とする。Kintex 7は、28 nmプロセスを採用したFPGAである「Xilinx 7シリーズ」の1つで最大47万8000個のロジックセル、34 MビットのブロックRAM、1920個のDSPスライス、12.5 Gビット/秒のトランシーバを32個搭載している。NI PXIe-7975Rの通信速度は1.6 Gバイト/秒で、XilinxのFPGA「Virtex-5」を搭載した従来品に比べて2倍になっている。オンボードRAMの容量は4倍、DSPスライス数は2倍になった。
次世代通信規格の要となるMIMO技術のデモ 基調講演では、28 nm FPGA「Kintex-7」を搭載したNI FlexRIOの新製品「NI PXIe-7975R」を使用し、8×8 MIMOのデモを行った。通信速度は1 Gビット/秒(クリックで拡大)
ベクトル信号トランシーバの最大の特徴は、FPGAを搭載し、それに実装するロジック回路をNI LabVIEWで書き換えることでユーザが機能を設計できる点だ。一方のNI FlexRIOは、最先端の28 nm FPGAを採用したことで1.6 Gバイト/秒の通信速度を実現するなど、性能が向上している。
このようにFPGAは、ベクトル信号トランシーバをはじめNIの制御/計測用ハードウェアにおいて柔軟性や性能の向上を生み出す要となっている。
通信規格の世代が進むにつれて複雑さを増す無線機器。その開発で求められる評価指標の変化などに柔軟に対応するためには、最先端のFPGAを搭載したモジュール型のRF計測器や、ソフトウェアで設計可能なRF計測器が1つの答えとなるだろう。
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