エネルギー分野から輸送、酪農まで――あらゆる用途でPLCに代わる最適解:NIWeek 2013現地リポート
長年、自動制御システムに欠かせない要素であったPLC(Programmable Logic Controller)。汎用コントローラであるため、コスト効率がよいというメリットはあるが、制御の精度を向上したい場合、より高価なPLCを購入するか、カスタム設計で基板を作成するかの選択肢しかない。PLCを置き換え、かつ幅広い用途に適用できる方法はあるのだろうか。
PLC(Programmable Logic Controller)は、数十年もの間、製造ラインや発電設備、公共システムなどの自動制御において主要な役割を担ってきた。ただし、例えば制御の精度を上げたいといったとき、PLCを使っている場合はカスタム設計で基板を作るか、あるいはより高価なPLCを購入するしかない。
こうしたカスタム設計に要する時間とコストを抑える方法の1つが、ナショナルインスツルメンツ(NI)のモジュール式計測/制御用ハードウェア「NI CompactRIO(cRIO)」だ。NI CompactRIOは、プロセッサとFPGA、モジュール式の入出力インタフェース(I/Oモジュール)で構成される「RIOアーキテクチャ」を採用している。システム開発ソフトウェア「NI LabVIEW」でFPGAを書き換えることで、目的に合った制御システムを素早く構築できる点が、PLCと比較したときの最大の利点になる。
このような柔軟性を備えたNI CompactRIOの用途はさまざまだ。自動車、航空宇宙、エネルギー、医療機器、ロボティクスと非常に幅が広い。「NIWeek 2013」では、基調講演や展示会場において、用途の広さを示す事例が多数紹介された。
3万個のセンサーを2000台のNI CompactRIOで制御
日本では、発電インフラ設備の老朽化問題が取り沙汰されているが、こうした事情は米国でも変わらない。
米国では、建設されて30年以上経過した発電所の割合が全体の50%を超える。建設後20年以内と比較的新しいものが多い天然ガスや再生可能エネルギーを燃料に用いた発電所も、発電に用いられる技術が複雑で、故障が起きた際には修理に多大な費用がかかるという課題がある。そのため、発電所の状況を正確に把握することが非常に重要になっている。だが、広い国土に発電所が点在するため、発電設備のモニタリングや診断は膨大なコストと時間を要する作業でもある。
米国の大手電力会社であるDuke Energyは、オハイオ州やインディアナ州、ケンタッキー州など中東部や中西部に電力を供給している。同社の発電機は、石油や天然ガスなど燃料がさまざまである上に導入時期も異なるので、効率的な発電や、発電所の安全性を維持するためには、正確なモニタリングが欠かせない。だが、Duke Energyの発電所は、複数州にまたがって約60カ所に点在する。これらをモニタリングするのは容易ではない。そこで同社は、NI CompactRIOを採用した監視システムを開発した。
発電所のタービンやファン、ボイラー、ラジエータといった1万を超える部品に、温度センサーや加速度センサー、振動センサー、近接センサーといった各種センサーを3万個以上設置し、2000台に上るNI CompactRIOを使ってセンサーからのデータの集録と解析を行うものだ。
このシステムによって、作業員はタービンや制御装置の状態をリモートで監視できる。発電機に異常が発生した場合、リアルタイムで集録されている振動値などを即座に確認できるだけでなく、過去のデータベースから同じような異常値が発生しているかどうかを検索し、異常の要因を特定したり推測したりすることも可能だ。
Duke Energyが導入している発電所のモニタリング/診断システムの概念図 2000台以上のNI CompactRIOがセンサーからのデータを集録し、発電所内のサーバに無線あるいは有線通信によって送信される。データは、モニタリング/診断センターの専用ソフトウェアによって解析される。
Duke Energyによると、今から約20年前までは、発電機のモニタリングは人の手によって行っていたという。作業員が直接発電所に赴いてデータを取り、解析も行っていた。全体の作業時間のうち8割がデータ集録作業だけに費やされ、肝心のデータ解析作業には残りの2割しか充てられなかったという。Duke EnergyのBurnie Cook氏は、「NI CompactRIOを導入したことで、これまでは1カ月に1回しか行えなかったモニタリングの作業を、24時間リモートで行えるようになった」と語る。
電力管理システムを数週間で開発
NI CompactRIOは、電力モニタリングだけでなく電力品質の解析にも採用されている。
電力を高い品質で供給(安定した周波数で供給)することは、あらゆる産業において非常に重要だ。周波数の変動が激しい低品質の電力は、電源やデータストレージにダメージを与える。そうなれば、工場の製造ラインや企業のサーバなどに大きな損害が発生する可能性がある。
チェコの電力機器メーカーであるELCOMは、電力品質の評価システム「ENA(ELCOM Network Analyzer)」を提供している。ENAは、周波数や電圧レベル、高調波スペクトル、THD(全高調波歪)などを測定するハードウェアと、解析/評価用のソフトウェアで構成される。ENAのハードウェアの1つである「ENA450」は、NI CompactRIOをベースに開発されたものだ。高電圧計測用アナログ入力モジュール「NI 9225」と電流入力モジュール「NI 9227」を組み合わせている。ENAの最大の特徴は、これらを用いたことで生まれる柔軟性である。IECやIEEEが策定する電力品質評価の国際規格が変更されて、新たな計測項目が加わったとしても、モジュールを追加するだけで即座に対応できるからだ。測定結果をPCなどに無線で転送したいといったニーズにも、無線モジュールを付け足すだけで応えることができる。
さらに、ELCOMは、NI CompactRIOを用いてPMU(Phase Measurement Unit:位相計測装置)をわずか数週間で開発したという。同社は、このPMUをENA450に統合する予定だという。
たった3人のエンジニアチーム、30分で不具合を検出
航空宇宙や防衛、交通システムなどの分野のシステム開発を手掛けるThales UKは、“仮想的な列車”に見立てて、列車制御システムCBTC(Communication Based Train Control)のテストを行う興味深い事例を紹介した。
CBTCは、指令センターと列車を無線通信で接続し、列車の位置検出やポイント制御、列車間の制御などを行う。欧米を中心に導入実績があり、開発や試験運用も進んでいる。だが、CBTCのテストは時間とコストを要する複雑なものだ。実際の列車、鉄道施設を使用してテストを行うので、その間、鉄道は営業できないことになり、鉄道利用者だけでなく周辺の商業施設や公共施設などにも影響を与える。
Thales UKが開発した「Virtual Test Train」は、このような問題を解消するためのものだ。具体的には、NI CompactRIOを搭載したコントローラを載せた台車を列車に見立て、CBTCの指令センターと通信しながらレール上を走らせる。NI CompactRIOは、指令センターとの通信の他、台車に取り付けたセンサーからのデータ集録も行う。
Thales UKは、このテストをたった3人のエンジニアで行った。さらに、ある区間のテストで問題を発見した際、Virtual Test Trainを導入するまでは2週間テストを繰り返しても原因が分からなかったが、Virtual Test Trainで30分間テストを行っただけで、その要因を突き止めることができたという。
温度の徹底管理でミルクを腐らせない
電力の供給が不安定なインドにおいて、ミルクを腐らせずに管理するシステムを開発したのはPromethean Power Systemsだ。同社は、発展途上国などで冷蔵システムの開発を手掛けている。
インドは、毎年約4億リットルの牛乳を生産する世界有数の牛乳生産国である。だが、冷蔵設備が整っていない上に高温多湿という環境から、牛乳を安全に保管して配送することが難しい。この状況を改善するため、Promethean Power Systemsは、サーマル電池を使った冷蔵システムを開発した。同システムの中心になっているのが、NIの「NI Single-Board RIO(シングルボードRIO)」だ。NI Single-Board RIOは、NI CompactRIOと同様の機能を1枚のプリント基板で実現したものになる。冷蔵システム全体の制御の他、温度のモニタリングやデータロギングも担っている。
Promethean Power Systemsは、インドで10カ所にこのシステムを構築した。その後、同システムで保存/管理されている牛乳が腐ることはなくなったという。
「PLCに代わり、次世代のシステム制御を担う」
「NI CompactRIOは、PLCに代わって次世代のシステム制御を担う」 NIのEmbedded Control & Monitoring Marketing Program, Senior Group Managerを務めるAhmed Mahmoud氏は、このように主張した
このようにNIWeek 2013では、NI CompactRIOのさまざまな用途が紹介された。
NIのEmbedded Control & Monitoring Marketing Program, Senior Group ManagerのAhmed Mahmoud氏は、「NI LabVIEWとNI CompactRIOで構成するプラットフォームこそが、次世代の複雑なシステム制御の実現に最適であると確信している」と強調する。「製造ラインなどの組み込み制御システムでこれまでPLCが果たしていた役割を、今後はNI CompactRIOが果たしていく」(Mahmoud氏)。
I/Oモジュールを追加し、FPGAを書き換えるというRIOアーキテクチャが生み出す柔軟性は、エネルギー分野から産業機器、輸送機器といった分野まで、より幅広い分野におけるシステム開発を容易にし、PLCに代わるシステム制御を実現する“最適解”となるだろう。
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提供:日本ナショナルインスツルメンツ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2013年9月30日