xEVシステムを効率化しトータルコストを削減。電動化を支えるNXPの車載半導体ソリューション:電動化・ECU統合化に対応
自動車業界は、電動化や自動化など「CASE」と呼ばれる4つのメガトレンドに基づき、次世代の自動車開発に取り組んでいる。地球規模で深刻化する環境問題への対応や重大事故を無くすためにも、電動車(xEV)や自動運転車への移行は避けて通れない。本稿では、「バッテリーマネジメント技術」と「ECU統合化を見据えたプロセッシング・プラットフォーム」を中心に、xEVのシステム・コスト削減を可能にするNXP Semiconductorsの半導体ソリューションを紹介する。
環境保護でxEVの開発競争に拍車
「電動化」の動きを加速させているのは、CO2削減に向けた国や企業の取り組みである。全世界で環境保護に向けた法規制などが始まったこともあり、自動車メーカーはxEVの開発競争に拍車をかける。調査会社によれば、2030年までに新車販売台数のほぼ半分がハイブリッド車(HV)を含むxEVになる見通しである。
電動車(以下、xEV)市場をけん引するのは中国で、xEVの普及率向上に国策として取り組む。例えば、新車販売台数に占めるxEVの比率を、2020年には最低でも12%、2021年には14%まで引き上げるよう国が指導する。性能が一定の水準に達しない自動車については販売中止といった強い規制もあるようだ。中国以外の国や地域でも、同様な動きを見せる。例えば、英国やドイツなどでは内燃機関の自動車について、2030年から2040年にかけて販売を禁止する動きが出ている。
xEVは、内燃機関(Combustion Engine)を併用したHVから、完全な電気自動車(EV)まで、駆動方式などによっていくつかに分類されている。HVにも「マイルドハイブリッド車(M-HV)」や「フルハイブリッド車(F-HV)」「プラグインハイブリッド車(PHEV)」などがあり、走行時の電動化比率は徐々に高まっているという。これに伴い、xEVに搭載されるバッテリーも、12V、48V系、さらには400Vを超える高電圧化が進んでいる。
世界的な環境規制を背景に、xEV市場はこれからも拡大する見通しだ。ただ、搭載するバッテリーは高価となり、駆動用モーターなども新たに必要となる。このため、内燃機関による従来の自動車に比べ、xEVのBOMコストは大幅に上昇する。
NXPジャパンで第一事業本部マーケティング統括部車載マイクロコントローラ部の部長を務める山本尚氏は、「内燃機関による従来の自動車に比べxEVの価格は高く、普及拡大のブレーキとなっている。自動車メーカーやTier1サプライヤーは、xEVのコスト削減に直面している」と指摘する。
xEVのBOMコストを約20%も削減可能に
車載半導体のトップメーカーであるNXPは、プロセッサからアナログIC、インターフェースIC、セキュリティICに至るまで、幅広い製品ポートフォリオを用意している。これらを活用し、さまざまなソリューションをワンストップで供給できるのがNXPの強みである。
「電動化」の領域でも、MCUやSBC(System Basis Chip)、通信用IC、ドライバーIC、AFE(Analog Front End)、ソフトウェアなどを組み合わせ、BMS(Battery Management System)やモーター制御(HVインバーター)、HCU(Hybrid Control Unit)などに向けた半導体ソリューションを提供する。
電動化の領域で、半導体需要が最も大きいのはBMSである。2019〜2025年の年平均成長率は22%と予測されている。HCUも、2025年以降に大きな伸びが期待できる分野とみている。
NXPはこれらの成長領域にフォーカスし、BOMコストを低減するための半導体ソリューションを提供していく。特にBMSソリューションでは、バッテリーの効率を高めることでバッテリー・モジュールのコストを削減することが可能となる。具体的には、「xEVのBOMコストのうち約20%を節減することも可能になる」(山本氏)と推定する。
バッテリー・マネジメント・システム(BMS)に注力
NXPは、12V系をはじめ、マイルドHVなどに搭載される48V系、ハイボルテージHVなどに向けた400V系、あるいはそれ以上のリチウムイオン電池を対象にしたBMSを提供している。既に、BCC(Battery Cell Controller)は、主要なメーカーに採用されているという。
その理由について、NXPジャパンで第一事業本部マーケティング統括部アドバンスド・オートモーティブ・アナログ部の担当部長を務める玖村直樹氏は、「BCCに関してNXPは後発メーカーでありながら、エージング(1000時間)後の精度保証や、優れたコストパフォーマンスが自動車メーカーやTier1サプライヤーに高く評価された」と分析する。
BMSの中でもとりわけ注力するのがF-HVやPHEV、ピュアEVなどに採用されているハイボルテージ向けBMSである。BCCは、各バッテリーセルの電圧と近傍の温度計測を行い、バッテリーセルのバランシング機能も備えている。バッテリーセルごとに測定したバランシングに関するデータは、デイジーチェーンと呼ばれる方式で、BMSの上位コントローラに送られる仕組みだ。
ローボルテージ向けBMSやBJB(Battery Junction Box)には電流監視ICも用意している。電流だけではなく電圧測定も可能なため、従来のホール素子に代わるソリューションとなる。
ここで、BMSについてNXPが提唱するソリューションと従来システムとの違いについて、代表的な事例で確認しておく。従来システムでは、カスタム化されたBCCを用いる、または市販のBCCとMCUを組み合わせたりしてCMC(Cell Monitoring Circuit)を構成している。カスタムBCCではシステムの最適化は可能となるが、膨大な開発費や、2ndソースを探すことが困難である。また、市販のBCCを用いた場合、BCCの調達は容易となるが、CAN通信などを行うために新たなMCUが必要となる。これらの事由により、複雑なソフトウェアの準備やBOMコストが上昇するという課題があった。
これに対し、NXPが提唱するソリューションは、BCC「MC3377x」と、CAN対応の通信用IC「MC3366x」を組み合わせてCMCを構成することにより、複雑なソフトウェアを用意する必要はない。そのため、BMUとCMCを搭載したバッテリーパックの組み合わせを比較的容易に変更することができる、といった特長がある。
新たに開発したBCCは、バッテリーセル間の通信をサイン波で行う。一般的に用いられる矩形波(パルス)に比べ、EMCノイズへの耐性に優れている。また、全チャネル同時に放電することができる。この技術はNXPの特許となっており、迅速なセルバランスを可能とした。「万が一、事故などで電源系にトラブルが生じた場合でも、全てのバッテリーセルを速やかに放電させることで、危険な状態を回避することができる」(玖村氏)。
さらに、デイジーチェーンの一部が断線した場合、ループバック方式により通常とは逆回りのルートで、接続されたBCCとの通信を行うことができる。
なお、BMU向けには汎用MCUの「S32Kシリーズ」を提供している。現行モデルは「Arm Cortex-M0+/M4F」コアや容量128k〜2Mビットのフラッシュメモリ、セキュリティ・エンジンなどを内蔵したシングルコアのMCUである。BMUの処理を実行するための十分な性能を持つが、OTA(Over The Air)対応、セキュリティを強化した次世代製品を開発中で、近くサンプル出荷を始める。ロックステップ動作も可能であり、ASIL-Dにも対応させる。
さまざまなニーズに応えるワイヤレスBMS
BMSにおいては、新たな動きもある。Bluetooth Low Energy(BLE)技術をベースにしたワイヤレスBMSへの移行である。複数のBCC間をワイヤレス化することで、さまざまなメリットを享受できる。「バッテリーパックのアセンブリが容易」「気密性に優れたシーリングが行え、湿気などからバッテリーを保護できる」「コストセービングが可能」などである。
一方で、ワイヤレスBMSの課題も指摘されている。「ICを追加する必要がありコストアップにつながる」「消費電流が増加し小型バッテリーでは課題となる」「サイバーセキュリティへの対応は万全か」などである。こうした理由で、ワイヤレスBMSの採用に慎重な自動車メーカーもあるという。
これらの動きに対し、NXPはあらゆるワイヤレス通信に対応できる半導体ソリューションを用意している。BLEベースのソリューションを始め、NFC(近距離無線通信)やUWB(超広帯域無線)通信などである。セキュリティに対する知見も豊富である。
ECU統合化を見据えた「S32プロセッシング・プラットフォーム」
NXPは、車載システム向けのMCU/MPUを一新した。2017年10月に発表した「S32プロセッシング・プラットフォーム」(以下、S32)である。現在の車載電子システムは、機能ごとに最適化したECUを分散する「機能分散型」のアーキテクチャが採用されている。
これに対し自動車メーカーは「機能ドメイン集約型」アーキテクチャへの移行を急ぐ。これは、パワートレインやボディなど、各領域(ドメイン)ごとにECUを設け、ドメインごとに各種センサーやスイッチ類を階層的に管理する仕組みである。
さらに次世代以降の自動車開発では、自動車内の物理的位置を考慮した「ゾーン型」のアーキテクチャが検討されているという。S32プラットフォームは、これらの動きに対応するもので、膨大となるソフトウェア開発の期間短縮やハードウェアの拡張性などを見据えて開発された。
その1つが「S32S」で、シャシー部のECU統合を狙いとしたドメインコントローラである。これに対し、パワートレイン部のドメインコントローラ向け「S32x」を開発中である。S32xの詳細は今後明らかにされるが、S32Sとは内蔵するアクセラレーターやメモリ容量に違いがあるという。
例えば、S32xは電費を30%改善できる「マス・コプロセッサ(Maths co-processor)」を搭載する。実際に走行する路面の状況を判断して、ドライブモードを自動で設定することができる。具体的には、走行している路面が平たんであるか凸凹であるかなどを車両が判断し、「エコモード」や「ダイナミックモード」に自動で切り替えることを可能にする。これによって、走行時の電力効率を大幅に改善することができ、走行距離の延伸あるいはバッテリーの小型化が可能になるという。従来のように運転手が路面状況に応じ、手動で切り替える必要はない。
S32Sとの共通仕様として、Arm Cortex-R52コアを採用し、ハイパーバイザー機能により最大16個のアプリケーションを同時処理することができる。また、セーフティコアを採用しているため、特定のコアに不具合が生じると、それを検知して不具合の発生したコアのみを個別に動作を停止させることができるという。
次世代EV/HEVの早期開発を可能とする自動車電動化開発プラットフォーム「GreenBox」も用意した。モーター制御機能とバッテリーマネジメント機能をサポートする「EV向けGreenBox」と、従来のエンジン制御機能とEV機能をサポートした「HEV向けGreenBox」の2種類がある。GreenBoxを活用して、ハイパーバイザー機能の動作検証などを事前に行うことができる。
次々世代を見据えたセントラル・ブレイン・プロセッサ
NXPではS32シリーズとして、「S32S」、「S32K」に加え車載ネットワークプロセッサ「S32G」も用意し、既にサンプル出荷を始めている。S32プラットフォームの共通仕様に加え、データ送信時にCANやイーサネットといった通信プロトコルに変換するためのハードウェア・アクセラレーターを集積しており、ドメイン・アーキテクチャにおいて、ゲートウェイの役割を果たす製品である。 2030年以降にはゾーン・アーキテクチャの中核部を担うセントラル・ブレインにはゲートウェイのみならずボディ系、およびパワートレイン、またLevel 2クラスの自動運転機能も集積化される傾向がある。NXPではこのトレンドに対応するべく、次世代のS32プラットフォームにTSMCの5nmプロセス技術を用い、高度な集積化と、より高いパフォーマンスを実現させる。また、IPを共通化することにより、最大の課題となりうるソフトウェアの開発に対しても柔軟に対応できる見込みだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連リンク
提供:NXPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2020年11月11日