データセンター省エネ化の立役者になるか GaNデバイスがサーバ用電源を変える:TIが性能向上とコスト低減にまい進
小型で高効率な電源システムを実現できるGaNパワーデバイスの採用領域は、データセンターや自動車に広がりつつある。特に省電力が喫緊の課題となっているデータセンターでは、GaNに大きな期待が寄せられている。日本テキサス・インスツルメンツは、2025年7月に開催された「TECHNO-FRONTIER」で登壇し、データセンターにおけるGaNの活用について語った。
民生機器以外でも採用が始まるGaNパワーデバイス
次世代パワーデバイスの代表的な候補の1つである窒化ガリウム(GaN)パワーデバイスは、民生機器をはじめ、車載やデータセンターなど他の領域でも少しずつ採用が広がりつつある。日本テキサス・インスツルメンツ(日本TI)のフィールドアプリケーションエンジニアである野見山 介氏は「TECHNO-FRONTIER 2025」(2025年7月23〜25日、東京ビッグサイト)の主催者セミナーに登壇し、GaNパワーデバイスを取り巻く市況や活用事例と、TIのGaNパワーデバイス製品について講演した。セミナーには150人を超える聴講者が集まり、GaNに対する関心の高さがうかがえた。
GaNは、シリコン(Si)よりもバンドギャップが大きく、熱伝導率や電子移動度が高いなど、半導体として優れた物理的特性を持つ。そのため、既存のSiパワーデバイスを用いる場合に比べて、小型化、軽量化、高効率化、高温での動作など、電源システムに大きなメリットをもたらす。
GaNパワーデバイスは、まずPC用のACアダプターなど民生機器で採用が広がった。大幅な小型化を実現したアダプターが発売されるなど、GaN採用のメリットが広く認知されるようになった。民生機器に続き、今後大きく成長するとみられているのが、テレコム/インフラと自動車の分野だ。テレコム/インフラでは、通信機器向けのAC/DC整流器やサーバ/ネットワークの電源装置、UPSなどで、自動車ではオンボードチャージャー(OBC)や高電圧DC/DCコンバータ、低電圧DC/DCコンバータなどで採用が進みつつある。この他、今後採用が広がる可能性のあるアプリケーションとして、野見山氏は人型ロボットを挙げた。
「特に、100kHz以上のスイッチング周波数と、10kWまでの電力の領域ではGaNが向いている。高速スイッチングや高電力、高効率が必要になる用途では、今後ますますGaN採用の検討が進むだろう」(野見山氏)
野見山氏は、TIのGaNパワーデバイスの採用検討事例を幾つか紹介した。Chicony PowerはノートPC用電源アダプターで、LITEONはハイエンドサーバ電源で、Delta Electronicsは電気自動車(EV)用OBCで、GaNパワーデバイスを採用すべくTIと協業している。「Chicony Powerでは50%小型化でき、効率も94%を達成したと聞いている。LITEONは今まさに採用いただいているアプリケーション。Delta Electronicsは車載機器での採用を見据えて設計から協業体制を築いている」と語り、市場が着実に広がっていることを強調した。
ゲートドライバーを統合したTIのGaN製品
TIはこの15年、GaNへの投資を強化してきた。TIのGaN製品で特徴的なのが、GaN FETとゲートドライバーを1パッケージ化した製品をそろえている点だ。統合するメリットとして、GaN FETとゲートドライバー間の寄生インダクタンスの低減や、実装面積の削減が挙げられる。一例では、ディスクリートで構成した場合に122mm2だった実装面積を、約半分となる58mm2まで削減できた。各種保護機能やLDOの出力機能、GaN FETの電流をセンシングして電圧を出力する機能なども追加できる。さらに、GaNは通常ノーマリーオンなので、オフにする際は負電圧が必要になるが、1パッケージ化することで、その負電圧を生成する回路を統合できるという利点もある。
TIは、主に定格電圧650V品のラインアップをそろえる。GaN FETとゲートドライバーを統合した製品の他、ハーフブリッジ品として、ハイサイドおよびローサイドのGaN FETとゲートドライバーを統合した品種もある。パッケージ仕様では放熱のタイプが異なる品種を用意する。裏面にサーマルパッドを持たせて放熱するタイプと、上面に放熱板を持たせて放熱するタイプがある。基板での放熱のみで十分という場合は前者が、ヒートシンクなどを使って放熱性能を高めたい場合には後者が適していると野見山氏は説明する。
ディスクリートの他、750V GaN FETを内蔵した疑似共振フライバックコンバータ「UCG2882x」などもリリースしている。「通常、600Vまで耐圧を持たせてフライバックコンバータを構成する場合、フライバックコントローラーで外付けのFETを駆動するというのが一般的だが、UCG2882xは750V GaN FETを内蔵しているので、直接600Vを入力でき、かつシステムを小型化できる」
講演では、システムを小型化した事例として、ブラシレスDCモーター向けのIPM(Intelligent Power Module)「DRV7308」も紹介した。DRV7308はGaN FETを6個搭載していて、従来品に比べて大幅に小型化できる。高効率で駆動できるのでヒートシンクも不要だ。DRV7308により、プリント基板(PCB)の面積を最大65%削減できる。
「TIのGaN製品のロードマップとしては、GaNゲートドライバーICの他、GaN FETを内蔵したフライバックコンバータやモータードライバーなどを増やしていく」
低耐圧品のラインアップ拡充とコスト低減の取り組み
一方で、100V以下や200V以下という低耐圧品の拡充にも力を入れる。3相ブラシレスDCモーターの制御や人型ロボットの分野では、60Vや48Vの耐圧で十分なことも多い。そうした領域では耐圧650VのGaN製品はオーバースペックになり、コスト的にも見合わなくなる。「Siパワーデバイスは耐圧65V品が多い。低耐圧のGaN製品を開発すれば、Siが主流の市場にもGaNを訴求しやすくなる。低耐圧でも高速スイッチングなどのメリットは変わらないので、外付けインダクタンスの小型化や基板サイズの削減に貢献できる」
さらに、ウエハーの大口径化やプロセスの改良によるコスト削減にも取り組む。2024年には会津工場(福島県会津若松市)で200mm GaNウエハーの製造を開始。これにより、TIのGaN製造能力は4倍に増強された。300mmウエハーでのGaN製造のプロセス開発も既に試験運用に成功している。300mmウエハーに全面的に移行できれば、大幅なコスト削減を期待できる。プロセスでは、アセンブリコストの低減につながるモノリシック統合機能を開発中だ。「現在は確かにSiパワーデバイスの方が安価だが、コスト削減の取り組みを進めつつGaNの採用が広がれば、価格のギャップは少しずつ縮まるのではないか」
プロセス改善による特性オン抵抗(Rsp)の削減も進める。Rspが低くなれば、さらに高い効率で駆動できるようになるからだ。2025年には200mm 650V GaNの認証済みプロセスを改善し、RSPを25%削減した。2026年には、さらに25%削減することを目指す。
700V以上の高耐圧GaNパワーデバイスも開発中だ。「Siウエハー上でのGaNエピタキシャル成長で、さまざまな素材や厚みを試している。テスト段階ではあるが、耐圧900Vを実現できることを確認済みだ。耐圧1000Vまで実現できれば、SiCパワーデバイスが使われている領域にもGaNを適用できる可能性が出てくる」。併せて、40Vや60Vの低耐圧品の開発も進める。
データセンターで期待されるGaN活用
TIがGaN製品の開発に注力する背景の1つに、電力需要の増加がある。生成AIの普及でデータセンターやAI半導体の需要が急速に高まっていることから、データセンターや半導体工場の新増設が進んでいる。これにより、電力需要は急増すると予測されている。電力広域的運営推進機関の予測によれば、2034年度の国内電力は、2024年度に比べ465億kWh(5.8%)増加するという。
野見山氏はTIによる試算も紹介した。それによると、2024年、米国におけるデータセンターの消費電力は1日当たり約540kWhだった。米国の電力コストを約0.1米ドルとすると、1日当たり約1.9億円のコストがかかったことになる。「データセンターの電源装置の効率が1%改善すれば1日当たり188万円、2%の改善では376万円のコスト削減につながる。わずか1〜2%の効率改善がデータセンターの消費電力削減に大きく貢献することが分かる」
データセンターの電源アーキテクチャは、主流の12V系から48V系へと移行する過渡期にある。現在のデータセンターにおけるAC配電では、まずはAC480VからAC208Vへ降圧し、AC/DC変換で400Vまで昇圧し、そこからDC/DC変換で12Vに降圧してサーバに供給している。48V系ではAC入力の電圧は変わらないがDC/DC変換の出力が50Vになる。これにより効率を5%改善できると野見山氏は説明する。
「最新の議論では、AC/DC変換の出力を800Vまで上げる話も出ている。それをDC/DC変換で50Vに降圧してサーバに電力を供給する。このような高電圧のDC配電は、まさに今、議論が始まったところだ」。こうした動きを見据え、TIは2025年5月、データセンターサーバ用の800V高電圧DC配電システムにおけるパワーマネジメントおよびセンシング技術を開発すべく、NVIDIAとの協業を発表した。
野見山氏は「サーバ用電源へのGaN搭載は、電源電圧が上がるにつれて、どんどん増えていくのではないか」と話す。AC入力をDC400Vまで昇圧する部分と、400VからDC/DCで12Vに降圧する部分で、GaNパワーデバイスの採用が増えていくとTIはみている。TIが作成したPFC(力率改善)段のリファレンスボードでは、GaNを使うことで、180W/in3を超えるピーク電力密度を実現した。GaNを使っていなかった10〜20年前のPFC段ではピーク電力密度はわずか10W/in3や100W/in3だったという。PFC効率は、出力85V〜265V/出力385Vの条件において98.5%を実現した。
TIが幅広いマイコン製品群を手掛けていることも、GaN製品を提供する上で強みになる。GaN FETは構造的にボディダイオードを持たないので、Si MOSFETを使う場合よりもデッドタイムの設計がシビアになるが、これはマイコン制御で解消できるからだ。TIのリアルタイムマイコン「C2000」などを使うことで、高度な制御方式を実装できる。
データセンターサーバをはじめ、GaNの採用領域は確実に広がっている。「TIは、GaNパワーデバイスの性能向上とコスト低減に継続的に取り組み、GaNの普及に貢献する。高耐圧や高電力、高効率といったキーワードで設計/開発する際は、Siパワーデバイスだけではなく、GaNパワーデバイスも選択肢の一つとして検討してほしい」と講演を締めくくった。
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提供:日本テキサス・インスツルメンツ合同会社
アイティメディア営業企画/制作:EE Times Japan 編集部/掲載内容有効期限:2025年9月24日