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有機半導体で従来比10倍のキャリア移動度を達成、東京大熱振動を大幅に抑えることで実現

東京大学の研究グループは、有機半導体単結晶において100cm2V-1s-1を超えるキャリア移動度を実現した。有機半導体分子の熱振動を大幅に抑えることで従来の10倍となる高移動度を達成した。

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分子構造の最適化で、量子エレクトロニクスなどへの応用も

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授、古川友貴大学院生、高柳英明特任教授らの研究グループは2025年10月、有機半導体単結晶において100cm2V-1s-1を超えるキャリア移動度を実現したと発表した。有機半導体分子の熱振動を大幅に抑えることで従来の10倍となる高移動度を達成した。分子構造を最適化して熱振動を抑えれば、移動度をさらに高めることができ、高性能電子デバイスや量子エレクトロニクスなどへの応用が期待できるという。

 有機半導体単結晶は、分子同士が弱いファンデルワールス力で結合している。このため、無機半導体に比べると熱振動が大きく、電荷キャリアの移動を妨げる主な原因にもなっている。実際に室温環境だと有機半導体単結晶のキャリア移動度は10cm2V-1s-1程度だという。

 研究グループはこれまで、厚みが数分子層という柔軟性に優れた有機半導体単結晶薄膜を、広い面積に形成するための手法を開発してきた。作製した単結晶薄膜は、フレキシブルな支持基板を一方向から曲げることで分子の熱振動を抑制でき、従来に比べキャリア移動度を最大1.7倍に向上させていた。

 今回は、有機半導体単結晶「C8-DNBDT」を用いた電気二重層トランジスタ(EDLT)を作製。EDLTの支持基板を一方向から押し曲げて、C8-DNBDTに3%の圧縮ひずみを加えた。その上で、C8-DNBDTに最大4分子当たり1電荷(1014cm-2相当のキャリア)を誘起させてホール効果を測定し、低温環境におけるキャリア輸送特性を調べた。


C8-DNBDTデバイスと二次元正孔ガスの概略図[クリックで拡大] 出所:東京大学

 この結果、180K(−93℃)におけるキャリア移動度は20cm2V-1s-1以上となった。同程度のキャリアが注入された有機半導体単結晶の移動度に比べほぼ4倍の大きさである。キャリア移動度は、温度の減少に伴って上昇し、ひずみを導入した有機半導体の移動度は、2K(−271℃)で最大117cm2V-1s-1となった。


熱振動を抑制し100cm2V-1s-1を超えるキャリア移動度を達成[クリックで拡大] 出所:東京大学

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