検索
ニュース

Mobius社がCMOS発振器を製品化、水晶発振器に「終わり」を告げるか電子部品 タイミングデバイス

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena

 米Mobius Microsystems社は2008年4月3日(米国時間)、水晶発振器の置き換えを狙うCMOS発振器技術「CMOS Harmonic Oscillator(CHO)」の実用化を発表した(技術発表はすでにISSCC 2008で行っている、関連記事)。同社は「開発した技術を使って一般的なCMOSチップに発振器を集積することで、電子回路を構成する素子の中で、最後まで残されていた可動デバイスを取り除けるようになる」と主張する。同社でマーケティング・ディレクタを務めるTunc Cenger氏は、「今回発表した製品『MM8511』は、これまでに開発されたCMOS発振器の中で、最も精度が高いものだ。水晶発振器に比べると精度は劣る。しかし、当社独自の補正回路を組み合わせることで、幅広い用途への適用を可能にした」と話す。

 圧電材料で構成する水晶発振器は、一般的な発振回路を組み合わせることで、水晶片の機械的な振動から、信頼性の高い基準信号を作り出す。水晶片とPLL(Phased Locked Loop)回路を使えば、最大でも25ppmという極めて小さい周波数偏差が得られる。現在では、MEMS発振器も実用化されている。これは、水晶発振器と同じ原理を利用しており、違いは水晶片を超小型の音叉素子に置き換えた点にある。一方、Mobius社のCMOS発振器は、周波数偏差が現時点で100ppmと高いため、用途はこうした偏差を受け入れられる機器に限定されるが、機械的に振動する素子とPLLチップを使わない点がメリットとなる。

 米国の市場調査会社であるIn-Stat社でコントリビューティング・アナリストを務めるSteve Cullen氏は、「発振器から可動部をすべて排除した点で、Mobius社の発振器はMEMS発振器に比べて、一歩先を進んでいるといえる。これで、オールCMOSソリューションの提供が可能になる。競合他社にとって強敵となるに違いない。ただし問題は、水晶発振器ほどの高い精度を備えていないため、すべての用途に適用できるわけではない点だ」と指摘する。

 すでにMobius社は、CHO技術の売り込み先として、(100ppmの周波数偏差を問題としない)大量生産機器市場を複数検討しているようだ。具体的には、PCI Expressを利用した周辺(ペリフェラル)バスや、USB対応機器、シリアル・インターフェースを備えたハード・ディスク装置(SATA)、フラットパネル・ディスプレイ、プリンタなどの基準(タイミング)信号源である。こうした用途で水晶発振器の代わりに、CHO技術を適用した発振器チップを採用すれば、電子機器メーカーは部品コスト(BOM:Bill of materials)を削減できるとする。In-Stat社のCullen氏は、「Mobius社は、CMOS発振器でも問題ない大量生産機器市場、つまり100ppmの周波数偏差を問題としない用途をうまく選択した」と評価する。

 Mobius社が最初に製品化するMM8511は、すでに競合他社が実用化しているスペクトラム拡散PLLチップとの端子互換性を備える。ただし、水晶振動子を接続する必要はない。同社のCenger氏は「MM8511は、水晶振動子とPLLチップを置き換えるものだ」と主張する。今後同社は、水晶発振器の市場をさらに奪う計画を立てている。その一方で、CHO技術が、すべての基準信号源にとって最良の選択肢にはなり得ないことも認めている。同氏は、「基準信号源(タイミング)チップ市場から、水晶発振器のニーズが無くなることはないだろう。しかし性能という点では、CMOS発振器は水晶発振器を大きく上回る」という。

 Cullen氏は「最終的には、水晶発振器とMEMS発振器、CMOS発振器という3つの技術が市場を分け合うことになるだろう。水晶発振器は、高い精度を求める用途、例えば温度制御機器などに適していると考えられる。超小型のMEMS発振器は、その大きさを生かした用途がさまざま考えられる。そしてMobius社は、求められる精度が比較的低い機器に向けて、極めて安価で、可動部がないCMOS発振器を提供することになるだろう」と分析する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る