東芝は、SiC(シリコン・カーバイド、炭化ケイ素)材料で製造したショットキ・バリアー・ダイオード(SBD)に、Si(シリコン)材料を使った一般的なIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子を組み合わせて3相インバータ駆動モジュールを構成し、エレクトロニクスの総合展示会「シーテック ジャパン 2008(CEATEC)」(2008年9月30日〜10月4日に幕張メッセで開催)で実際に車載用モーターを駆動してみせた(図1、図2)。Siを使うPIN(p-intrinsic-n)構造のダイオードにSiのIGBTを組み合わせる場合に比べて、「インバータの電力損失を30〜40%低減できる」(同社の説明員)とする。同社はこれまでも、SiCによるSBDや接合型FET(JFET)を研究開発成果として各種展示会に出品していたが、単体素子としての展示にとどまっており、インバータ駆動モジュールのような応用システムを構成してみせるのは今回が初めてだという。
図2 インバータ・モジュールの拡大写真である。3相それぞれのハイサイド側とローサイド側に、SiのIGBT(比較的大きいチップ)とSiCのダイオード(比較的小さいチップ)が1枚ずつ実装されているのが見える。
SiC材料を使うパワー半導体は、Si材料による旧来のパワー半導体を置き換える次世代技術の1つとして注目を集めている。Siに比べてオン抵抗を大幅に低減できるほか、耐電圧が高い、高温動作が可能など、数多くの利点がある。
東芝は今回、インバータ駆動モジュールのほかに、SBDとJFETをそれぞれ作り込んだ2インチ型SiCウエハーや、このSBDをTO-220パッケージに封止したものも展示した(図3)。これらの製品化時期については、「現時点では明言できないが、国内の自動車メーカー各社はハイブリッド自動車や電気自動車に向けて次世代パワー半導体の採用を急ぐと表明しており、これに対応できるようにしたい」(同説明員)とした。
次世代パワー半導体の普及に向けた障壁の1つとされているコストについては、「現在、3インチ型ウエハーを使って試作を進めている。すでに4インチ型ウエハーも入手可能な状況だ」(同説明員)とし、今後コスト低下が進むとの見通しを示した。「将来的には、チップ単体の価格でSi品の数倍程度にまで下がるのではないか。しかしシステム・レベルで見れば、SiC品を採用することで、チップ単体の価格差を補って余りある大きなコスト削減が見込める」(同説明員)という。例えば、SiC品はSi品に比べて高温で動作できるため、「Si品のインバータ・モジュールを使う現行のハイブリッド車では、エンジン用の90℃の冷却機構のほかに、Siパワー半導体に向けて65℃の冷却機構を搭載しているが、SiC品のインバータ・モジュールを使えばこれが不要になり、エンジン用の冷却機構だけで済む可能性がある」(同説明員)。
同社は今後、SiCを使ったMOS FETを実用化し、SiのIGBTを置き換えることで、インバータ回路をすべてSiC化する考えだ。開発済みのJFETは、原理的にノーマリ・オン型であり、インバータ回路において一般的なゲート駆動回路を構成しにくい。このためノーマリ・オフ型を比較的容易に実現できるMOS FETが本命視されている。SiCを使ったMOS FETについては、すでにロームがサンプル出荷を始めており、東芝も実用化を急ぐとみられる。「ダイオードとスイッチング素子(トランジスタ)の両方にSiC品を使ってインバータ回路を構成すれば、いずれもSi品を使う場合に比べて、電力損失を約80%も低減できる」(同説明員)。
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