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活用始まる人体無線網、ヘルスケアから新市場が立ち上がる無線通信技術 BAN(5/8 ページ)

わざわざ操作しなくても、身の回りにあるさまざまな機器が人間の要望にきちんと応えてくれる…。運動量や体温、心拍数といった生体情報を活用すれば、そんな生活が可能になるかもしれない。

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第2部 低消費で高信頼性の要求が強い

 人体の情報伝達網の1つが神経であるならば、人体無線網(BAN)で神経に相当するのは「無線」だろう。

 前述したように、BANで使う無線通信方式には、まず消費電力の低さが重要である。それだけではなく、医療や見守り(監視)といった分野に向けては、データをやりとりする際に高い信頼性や遅延時間(latency)の短さが求められる。これらの分野では、例えば病院や宅内で患者の状態を常時モニタリングするというように、生体に関して重要な情報を扱う場面が想定されるからだ。

 すでに、低消費電力を特徴とする無線通信方式が複数規格化されており、それぞれに対応した無線チップが市場にある。さらに、低消費電力の方式であるBluetoothやZigbeeの普及促進を図る業界団体では、ヘルスケアや医療分野に向けた取り組みを強化している。BANに向けた新方式も現われる。現在策定が進む国際標準規格「IEEE 802.15.6」は、ヘルスケアのみならず、医療や見守り(監視)といった中心的用途となる分野に十分対応できるように、人体周辺でデータをやりとりすることに起因した技術課題を解決したものになる見込みだ。

業界団体が動く

 表1に低消費電力を訴求する無線通信方式をまとめた。BluetoothやZigbeeのほか、カナダDynastream Innovations 社が開発した無線通信方式「ANT」などがある。具体的な消費電力値は、出力強度(伝送距離)や個別のアプリケーションによって異なるために一概に言えないものの、BluetoothとZigbeeを採用した無線チップはそれぞれ数十mW程度、ANTに関しては「データ送信時のピーク電流は12m〜13mAで、BluetoothやZigbeeより低消費電力になる」(ANT対応の無線チップを手掛けるNordic Semiconductor社の山崎氏)とする。

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表1 低消費電力を特徴とする無線通信規格をまとめた 消費電力は数十mW以下と、ほかの無線通信規格に比べると大幅に低い。

 図1には、さまざまな無線通信方式の中での、低消費電力の無線通信方式の位置を示した。これらの方式では、基本的にデータ伝送距離やデータ伝送速度を抑えることで低消費電力化を図っている。

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図1 さまざまな無線通信規格 さまざまな無線通信規格の中で、BANで使われるZigbeeやBluetooth、IEEE 802.15.6の位置を示した(図中の緑色)。これらの方式では、基本的には、データ伝送距離やデータ伝送速度を小さく抑えることで低消費電力化を図る。

 Bluetooth方式の普及促進を図る業界団体「Bluetooth SIG(Special Interest Group)」は、「インテリジェント・スポーツ」を含むヘルスケア用途で使う心拍数計や血圧計などを対象にした無線通信方式「Bluetooth Low Energy」を策定中である。消費電力は、現行の1/10に相当する数mWレベルになる見込みだ。データを伝送するとき以外は、無線の出力を低く抑える「間欠動作」で実現する。データ伝送速度は最大300kビット/秒程度になる。

 英CSR社は、このBluetooth Low Energy規格に向けた無線チップ「BlueCore 7」をすでに発表済みである。同社では、「戦略的なマーケットとして、ヘルスケア分野に注力していく」(CSR社の日本法人であるシーエスアールでジャパンセールスディレクターを務める深田学氏)という。Nordic Semiconductor社もまた、Bluetooth Low Energy規格に対応した品種のサンプル出荷を2009年夏ころに開始する予定だ。

 一方、Zigbee方式の普及促進を図る業界団体である「Zigbee Alliance」では、宅内や医療機関での健康管理に向けた詳細仕様(アプリケーション・プロファイル仕様)の策定を進めている。データを収集するコーディネータ(同Allianceはデータ収集ユニット(DCU)と呼ぶ)や心電位計、脈拍計、血圧計などが対象機器である。

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図2 温度/加速度センサー搭載の無線モジュール 富士通コンポーネントが開発した。外形寸法は44mm×48 mm×7.5mmと小さい。同社独自のUWBアンテナをプリント基板上に実装することなどで小型化を図った。今回採用したIR(Impulse Radio)−UWB方式は、消費電力が小さいことや、対象物までの距離を測定できることが特徴だ。

 ANTに関しては現在、Nordic Semiconductor社が対応する無線チップ「nRF24AP1」を市場に投入している*1)。これの次世代版を2009年中に製品化する。次世代品では、データ伝送速度を現行の1Mビット/秒から2Mビット/秒に高める予定である。このほか、富士通コンポーネントは、「IR(Impulse Radio)−UWB」と呼ぶ無線技術を採用したモジュールを開発した(図2)。

*1. ANTを基にした無線通信方式「ANT+」もある。PHY層から、無線端末の種類ごとに最適化したアプリケション層までを規定する。

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