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コラム

超音波を使った触覚ディスプレイ、夢は空気ステアリングディスプレイ技術

触覚ディスプレイは、触覚に刺激を与え、物体の形状や文字情報を伝達する装置である。東京大学の篠田氏が開発した「空間超音波フェーズドアレイによる触覚ディスプレイ」では、超音波の放射圧を用いて触覚を刺激した。

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 触覚ディスプレイは、触覚に刺激を与えることで、物体の形状や文字情報を伝達する装置である。中には、手や指の位置検出機能や入力機能を備えるものもある。

 現在のコンピュータや各種機器のユーザーインタフェース(UI)は主に視覚に頼っており、眼精疲労などさまざまな問題を生んでいる。「高齢化が進む中、例えば触覚のような視覚以外の感覚をUIに応用できると考えている。触覚は、対象によってはむしろ視覚よりも鋭敏である。例えば自動車用の鋼板は、塗装前に触覚による検査が欠かせないほどだ」(東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻の准教授である篠田裕之氏)。

 触覚は視覚の代替として使えるだけではない。UI自体の考え方が変わる可能性もある。例えば、実際に物に触れなくても触覚を人工的に刺激できれば、手の位置や動きを検出するセンサーと組み合わせることでボタンやタッチパネルが不要になる。例えば携帯電話機の表面に実際のボタンを用意する必要がなくなる。「自動車用ステアリング(ハンドル)を触覚ディスプレイ技術を用いて実体化することも応用例として考えられる」(篠田氏)。

 触覚ディスプレイはすでに実用化されている。例えば板の表面に剣山のように高密度でピンを配置し、個々のピンを上下に動かすことで文字や物の形を利用者に伝達できる。点字を高密度にしたようなものだ。しかし、この手法では、ピンの駆動装置の実装や制御が難しい上に、オン状態とオフ状態がはっきり分かれた感覚だけしか再現できない。例えば素材表面の微妙な風合いなどは表現できない。

図1
図1 試作した触覚ディスプレイ ノートPCの画面に表示された3次元エアーホッケーゲームに触覚ディスプレイを接続したところ。手の動きを検出する位置センサーを組み合わせて、圧力を発生させ、ホッケーの玉が手に当たった感覚を生む。

 篠田氏が開発した「空間超音波フェーズドアレイによる触覚ディスプレイ」では、超音波の放射圧を用いて触覚を刺激した(図1)。音波には非線形効果があり、エネルギ密度(振幅の2乗)に比例した放射圧が反射面に生じる。エネルギ密度の高い音波に手をかざすと、手を押し戻そうとする圧力を知覚できる。圧力の強さや発生点を細かく制御するような、触覚ディスプレイを試作した。

試作機では、直径10mmの超音波発振子を18行×18列に等間隔で配置した。発振子の駆動波形は、振幅24Vpp、周波数40kHzの矩形波である。

 発振子が1つだけでは複雑な形の物体を触ったときの感覚を再現できない。特定の点(焦点)だけに力を伝えられないからだ。発振子を324個と多くした理由は2つある。まず当初の目標とした約1gfの力を生むためである。次に偽りの触覚を抑えるためだ。例えば、発振子が2つしかない場合、触覚を刺激したい点、すなわち圧力が生じる点が焦点の両側に2カ所出現する。単位長さ当たりに配置する発振子の数を増やすことで抑制した。

 焦点の位置は発振子の上方200mmの位置に固定した。各発振子が発する超音波の位相を変えることで、この平面内にある触覚ディスプレイ上の任意の狭い位置にのみ圧力を発生できる。位相を制御するフェーズドアレイ方式を採ったため、発振子自体を固定でき、首振り動作を不要とした。面感覚を生むためには、焦点を走査すればよい。1回の走査時間は約1msである。物体がコツンと当たったような知覚を与える場合であっても、1msごとに圧力を更新すれば再現できるという。

 超音波の周波数の最適値は用途によって変わる。2つの焦点間の最小距離は周波数と反比例するため、周波数が高ければ高いほど好ましい。例えば試作機に採用した40kHzの場合、最小の焦点間距離は音速から逆算して約8mmに決まる。一方、音波の圧力がほぼ半減する距離は大気中では周波数の2乗に比例する。周波数が低い方が遠くまで届く。40kHzの場合は約10mと長い。一方、100kHzでは1m、1MHzではわずか1cmとなる。

 圧力の強度は、波形をPWM制御することで変えた。デューティ比を0〜50%の範囲で8段階に離散制御している。駆動波形の振幅を変更するよりも回路構成が単純になるためだとした。

 試作機の問題点は、ポンポンと100Hzの柔らかくたたくような感覚を中心に再現していることである。実際の感覚に近い刺激を与えるためには、複数の超音波発振子をまとめてオン/オフ制御するなどの手法が必要だとした。

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