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振動発電装置の試作相次ぐ、環境から微少電力を取得可能エネルギー技術 エネルギーハーベスティング

振動を電気エネルギーに変換するエネルギーハーベスティング装置の開発が進んでいる。圧電式、電磁誘導式、静電式の3種類の方式があり、得られる電力の大きさや製造の難しさなどがそれぞれ異なる。小型化には静電式が向いている。

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 環境に存在する微少エネルギを集めて電力として出力する「エネルギーハーベスティング技術」は、電子機器の消費電力が下がるにつれ、応用範囲が広がってきた。同技術は電磁波から機械的振動までさまざまなエネルギを対象とする。中でも機械的振動を対象とする振動発電機の発表が相次いだ。例えば、2008年11月、三洋電機†1)は人体の歩行動作による振動から40μWの電力を、オムロンは橋の自然振動から10μWの電力を得る発電機をそれぞれ試作した。

†1)Yohko Naruse, et al.,"Electrostatic micro power generator from low frequency vibration such as human motion," Proceedings of PowerMEMS 2008, pp.19-22.

 振動発電機の原理は3種類に分かれる。(1)圧電式(ピエゾ)、(2)電磁誘導式、(3)静電式である。圧電式は材料が振動によって変形する際に発生する電位差を電力として回収する。発電量が少なく、材料の変形による劣化が欠点だが、製造が容易であるため、大面積化に向く。例えば、圧電式素子を用いた高速道路向け発電機などの開発も手掛ける音力発電はJRなどと共同で、「発電床」の実証実験を推進している。2008年12月には、渋谷区と共同でJR渋谷駅前での実証実験を開始した。数十cm四方の板の上を体重60kgの歩行者が通行することで1秒当たり1Wの電力が得られるとした。2011年末までに発電機を4000基設置する計画である。

 電磁誘導式は回転式発電機などを用いる*1)。ワット単位の発電量が得られるものの、機器の小型化が難しい。2008年10月にはNTT環境エネルギー研究所が小型の水力発電機を内蔵した「発電靴」を試作している。つま先とかかとの2個所に可塑性の水タンクを配置し、パイプで結んだ構造を採る。歩行時の体重移動で水タンクが変形すると水流が発生し、1.2Wの出力が得られるとした。

*1)電磁誘導式は歴史が古く、1988年にセイコーエプソンが開発した発電機能を搭載した腕時計「KINETIC」は、エネルギーハーベスティング技術として最も成功した事例である。なお、クオーツ式腕時計の消費電流は約1μAである。

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図1 静電式振動発電機の原理 帯電したエレクトレットに引き寄せられて対向電極に電荷がたまる。ここで振動が加わるとエレクトレットが移動し電流が発生する。下部ガラス基板は省略した。出典:三洋電機

 静電式の発電機は、2つの平面状の基板が互いに向かい合った構造を採る(図1)。片方の基板には電荷を半永久的に帯びた「エレクトレット」と呼ばれる材料をくし状に配置し、もう片方の基板には、やはりくし型の対向電極を置く。振動によって、エレクトレットと対向電極の位置関係がずれることで起電力が生じる仕組みだ。

 3種類の振動発電機は利用する振動の周波数、出力電力、機器寸法が異なる。静電式は100Hz以下の振動を利用する。構造が単純であるため、機器を小型化しやすく、耐久性に優れるが、出力電力は小さい。

人の振動を利用する

 振動発電機の対象となる振動は数Hzという人の動きから、建物の振動のような数十Hz〜100Hzの領域、車の振動や工場の振動などのような1kHzに達する領域などに分かれる。三洋電機は人の振動を対象とした。

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図2 三洋電機が開発した振動発電機と万歩計 発電機の外形寸法は23mm×42mm×6mm。体積は5.8cm3。液晶パネルを備える万歩計を動作させた。

 「機器が小型であることから、人が携帯する機器の電力源に向くと考えた」(三洋電機研究開発本部アドバンストデバイス研究所ナノデバイス研究部で課長を務める鈴木誠二氏)。三洋電機は、振動周期が2Hzで、加速度が0.4gという歩行時の振動から40μWの出力を得て、液晶パネルを搭載した万歩計の試作機を動作させた(図2)。

 特定の振動数下において静電式振動発電機の発電量を増やすには、エレクトレットの電位を高める他、エレクトレットの配線密度を高める(細線化する)、エレクトレットと対向電極の距離を狭める、2枚の基板間の摩擦を減らすなどの方策が有効である。例えば、発電量はエレクトレットの電位の2乗に比例する。三洋電機は以上の4点を全て改善した。

 同社はコロナ放電を用いて電子をエレクトレットに打ち込んだ。エレクトレットの配線密度を高めると、打ち込み時に電子が反発するため、幅を100μm程度に細線化すると、ほとんど帯電しなくなるという欠点があったという。そこでエレクトレットをくし型に配置するのではなく、逆に平面状のエレクトレットの上にガード電極をくし型に配置した。このような構造を採ることで、エレクトレットを200μmに細線化した場合でも500V以上の帯電電位を得ることができたという。

 摩擦の低減には、ボールベアリングを用いた。長方形の基板の長辺と平行に2本の溝を形成し、直径320μmのベアリングを配置した。これにより、電極間の距離を狭く一定に保ったまま約2.5cmのすべり距離を確保できたとする。

無線センサーと組み合わせる

 オムロンは工場の機械、自動車、橋など自然界に存在する数十Hz以下の低周波を対象とした振動発電機を開発した(図3)。さらに、旭硝子やネクスコ東日本エンジニアリングと共同で、無線センサーネットワーク向けの電源としての応用例を見せた(図4)。約100m間隔で橋などに設置したセンサーに電力を供給し、同時に振動発電機自体を振動センサーとして用いて地震情報を走行中の自動車に送信するために利用できる。この他、道路に設置したITS(高度道路交通システム)対応機器の電力源としても利用できるとした。

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図3 オムロンが開発した振動発電機 寸法は20mm×20mm×8mm。

 「小型車の交通量が多い第三京浜でも数Hzの振動条件下で10μWの発電量が得られることが分かった。既存の発信器を用い、5〜6年の動作寿命を持たせようとすると、電池では1時間に1回しか送信できなかったが、振動発電機と組み合わせることで1秒間に1回の送信が可能になった」(ネクスコ東日本エンジニアリング 技術開発部で研究主幹を務める藤原博氏)。道路標識への設置も考慮しているという。

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図4 オムロンと旭硝子が開発した振動発電機システムを高速道路に設置したモデル 橋の裏面にセンサーと発電機を一体型にした正方形のユニットを設置し、無線機から429MHz帯の信号を出力する。自動車側では旭硝子が開発した窓ガラスに配置するガラス・フィルムアンテナで信号を受信する。80km/時で走行中であってもセンサー出力信号を受信できるとした。発電機に加わる振動周期が20Hz、加速度が1Gの場合、10μWの発電能力がある。

 発電機の原理は三洋電機と似ており、2枚の基板の上に対向電極と旭硝子が開発したエレクトレットをくし型に配置した。「既存のボタン電池を置き換えることを想定する。試作品の寸法は20mm×20mm×8mmであるため、さらに厚さを1/2に薄型化する」(オムロン 技術本部コアテクノロジーセンターの正木達章氏)とした。

 摩擦を低減する方法は明らかにしていないが、基板間隔を0.07mmに保ったまま、すべり距離2.6mmを実現したという。電位を高めるために、アモルファスフッ素樹脂を用い、700Vの電位を実現したとする。

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