米IBM社のT.J. Watson Research Centerは2008年12月18日(米国時間)、炭素(C)材料の1種である新たな半導体材料「グラフェン(graphene)」を使って、遮断周波数が26GHzと極めて高いFETを開発したと発表した。グラフェンによるFETとしては「世界最高速だ」(同社)と主張する。
同センターの研究者は、グラフェンによるトランジスタは、炭素の高い電子移動度を活用することで、将来的には100GHzの領域を超えて、シリコン(Si)によるトランジスタでは到達不可能なテラヘルツ(THz)領域の動作を実現できると予測する。
IBM社のフェローでNanometer Scale Science and Technology Groupのマネジャーを務めるPhaedon Avouris氏は、「今回、開発に成功したグラフェン・トランジスタは、150 nmのゲート長で26GHzの遮断周波数を達成した。現段階では世界最速のグラフェン・トランジスタだ。ゲート長を短縮すれば、最大周波数を高められることが分かっている。つまり、ゲート長を約50 nmにまで短縮すれば、テラヘルツ帯で動作するグラフェン・トランジスタの実現も夢ではない」と話す。
米IBM社が開発したグラフェン・トランジスタの構造と周波数対電流利得特性である。グラフェンは、炭素原子がハニカム格子状に並んだ単原子層からなる炭素材料である。今回は、トップ・ゲート構造のトランジスタを作製し、150nmのゲート長で26GHzの遮断周波数を達成した。これまでに報告されたグラフェン・トランジスタとしては最高周波数だという。出典:米IBM社
グラフェンは、カーボン・ナノチューブと同様に、炭素原子が六角形の「ハニカム(蜂の巣)格子」を形成した炭素材料である。ただしカーボン・ナノチューブは、ハニカム格子によってナノスケールのチューブを形成する必要があり、製造が難しい。これに対しグラフェンによるトランジスタは、炭素原子を薄膜として堆積させることで作製でき、従来のリソグラフィー・ツールによってパターン形成可能である。
IBM社はすでに、細いリボン状のグラフェンをトランジスタのチャネルとして利用する際に問題になる雑音を、グラフェンを二層化することで解決する技術を発表済みである。さらに同社の最新の成果によれば、ミリ波帯の通信回路に必要なテラヘルツ領域の動作を、グラフェン薄膜によって実現することも可能であるという。
同社は今回、SOI(Silicon on Insulator)ウエハーを使って、トップ・ゲート型のグラフェン・トランジスタ群を作製し、ゲート電圧やゲート長がさまざまな値で異なる場合の高周波動作の特性を評価した。その結果、グラフェン・トランジスタも周波数が高まるとともに電流増幅率が低下し、その周波数応答カーブが従来のFETに近いことが分かった。また、グラフェン・トランジスタの遮断周波数がゲート長の2乗に反比例することも確認したとしており、今回は前述の通り150nmのゲート長で26GHzの遮断周波数を達成したという。
この研究の一部は、米国防総省国防高等研究事業局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)のプロジェクト「Carbon Electronics for RF Applications(CERA)」から資金提供を受けている。同プロジェクトはミリ波帯を利用する通信技術の開発を目指しており、最終的な目標として、8インチ以上のウエハー上に形成したグラフェン薄膜トランジスタによって、100GHzを超える周波数で動作するW帯(90GHz超帯)の低雑音アンプを実現することを掲げている。
IBM社の研究チームは今後、テラヘルツ帯で動作するRF回路の実証に向けて、ゲート絶縁膜の改良に取り組むという。
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