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テレビ放送波から電力を回収、インテル社がエネルギ・ハーベスト技術を披露エネルギー技術 エネルギーハーベスティング

米Intel社の研究部門であるIntel Researchのシアトル研究所でプリンシパル・エンジニアを務めるJoshua Smith氏を中心とした研究チームは、周囲環境に存在するRF(高周波)から電力を回収して電子デバイスを駆動するエネルギ・ハーベスティング(環境発電)技術の詳細を明らかにした。

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 米Intel社の研究部門であるIntel Researchのシアトル研究所でプリンシパル・エンジニアを務めるJoshua Smith氏を中心とした研究チームは、2009年1月18日〜22日に米サンディエゴで開催された「IEEE Radio and Wireless Symposium(RAWCON)」で、周囲環境に存在するRF(高周波)から電力を回収して電子デバイスを駆動するエネルギ・ハーベスティング(環境発電)技術の詳細を明らかにした。この技術を使えば、4.1km離れた場所にあるテレビ塔が放射する電波から、液晶ディスプレイ付きの電子温湿度計を十分に駆動できる60μWの電力を回収できるという。

図1
環境電波を利用するエネルギ・ハーベスティングの実験装置 図左下のプリント基板がエネルギ・ハーベスティング回路で、これに対数周期アンテナがつながっている。ハーベスティング回路の出力は8kΩの抵抗と電圧計に接続されている。出典:Experimental Results with two Wireless Power Transfer Systems, Alanson Sample and Joshua R. Smith, Intel Research Seattle, University of Washington

 周囲環境に存在するエネルギ源としては現在、振動や太陽光、熱などが利用されている。同研究チームが「Wireless Ambient Radio Power(WARP)」と名付けた今回の技術は、環境発電のエネルギ源の選択肢を大きく広げる可能性を秘めている。

 WARPは、センサーや演算処理に向けたプラットフォームとして同社が開発済みの「Wireless Identification and Sensing Platform(WISP)」向け技術の1つとして発表されたものだ。RAWCONで発表された論文「Experimental Results with Two Wireless Power Transfer Systems(2つの無線電力伝送システムの実験結果)」の共同著者であり、シンポジウムで発表者も務めたSmith氏によれば、「WISPは、基本的にはマイコンを搭載したRFIDタグである」という。具体的には、米Texas Instruments(TI)社の低消費電力マイコン「MSP430」を搭載しており、一般的な市販のUHF帯RFIDリーダーから電源を供給し、データを読み出せる。WISPの消費電力は1個当たり2μ〜2mWと低く、リーダーから数m離れた位置でも動作可能である。

 こうした説明を聞くと、WISPは最先端技術のように聞こえるかもしれない。しかし実現の鍵を握るのは、高度な回路設計でも、物理学的なブレークスルーでもないという。Smith氏によれば、半導体チップの集積密度が2年で2倍になるとする「ムーアの法則」のおかげである。つまり、ムーアの法則に沿って、デジタル回路の集積密度の増加と消費電力の低減が進んだことで、環境発電によって回収した単位エネルギ当たりの機能性が向上したのだという。

 Smith氏は、「周囲環境に存在する一定量のRFエネルギによって電子デバイスを駆動できる範囲は、4年ごとに2倍に増える」と予測する。ムーアの法則のRFエネルギ・ハーベスティング版として、独自の法則を見いだしたというわけだ。

 WARP技術を採用したWISPの構成は以下の通りである。すなわち、アンテナとインピーダンス整合部品、RF信号から電力を回収するハーベスティング回路、RFIDリーダーからWISPに送られたデータを抽出する復調器、WISPからRFIDリーダーへとデータを送信する後方散乱方式の変調器、電圧レギュレータ、マイコン(MSP430)から構成されており、さらにオプションとして外部センサーが付属する。ハーベスティング回路そのものは、4段のチャージ・ポンプ回路からなる。WARP技術の詳細や関連データについては、論文を参照いただきたい(参考リンク:技術論文のダウンロード・サイト)。

図2
環境電波から回収した電力だけで、液晶ディスプレイ付き温湿度計を駆動している様子 出典:Experimental Results with two Wireless Power Transfer Systems, Alanson Sample and Joshua R. Smith, Intel Research Seattle, University of Washington

 これまでIntel社は、WISPの応用として、加速度計や温度計、歪みゲージ、静電容量計、カスタムメイドの脳波用増幅器(ニューラル・アンプ)など、さまざまなセンサーを示していたが、テレビ放送のRFエネルギから電力を得るという応用が提案されたのは、今回のRAWCONが初めてである。

 同研究チームは、シアトル研究所のバルコニーに実験機材を設置し、4.1km離れたテレビ塔が射出した電波から電力を生成した。このテレビ塔は、674M〜680MHz帯(48チャネル)で960kWの実効放射電力を出力している。方向を人手で調整した利得5dBiのテレビ向け広帯域対数周期アンテナと、エネルギ・ハーベスティング回路を使って、エネルギを回収した。このエネルギ・ハーベスティング回路は、基本的にはWISPと同じ設計で4段のチャージ・ポンプ回路を利用しているが、フロントエンド部については特定のチャネルに同調させている。

 このハーベスティング回路の出力に8kΩの負荷抵抗をつないだところ、0.7Vの電位差が測定できた。すなわち約60μWの電力を回収できたことになる。Smith氏によれば、これはセンサーを搭載したWISPを十分駆動できる電力だという。今回の実験では、液晶ディスプレイを備える温湿度計を駆動した。

 同氏は、RFIDとテレビ放送波を組み合わせるエネルギ・ハーベスティング技術には、かなり広い応用範囲が期待できるという。例えば、環境電波を電源とし、RFIDリーダーが読み取るまでデータを収録し続けるようなセンサー端末である。エネルギ・ハーベスティング技術によって、電池を使うことなく、高頻度のセンシングを実現できるとする。

【翻訳:松永恵子、編集:EE Times Japan】

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