不揮発メモリ新時代(前編):メモリ/ストレージ技術(1/3 ページ)
今後、メモリは全て不揮発になる。機器の機能向上につれて、増えたシステム全体の消費電力を抑えるのに、メモリの不揮発化が役立つからだ。メモリが不揮発化すれば、ほかのメリットも生じる。例えばデジタル家電を瞬時に起動できるようになる。PCの起動やシャットダウン操作が不要になる。
今後、メモリは全て不揮発になる。機器の機能向上につれて、増えたシステム全体の消費電力を抑えるのに、メモリの不揮発化が役立つからだ。
メモリが不揮発化すれば、ほかのメリットも生じる。例えばデジタル家電を瞬時に起動できるようになる。PCの起動やシャットダウン操作が不要になる。現在多用されているDRAMの代わりに不揮発メモリが採用されれば、このような世界が現実になる。
既にHDDを一部置き換えるところまで用途が広がったNAND型フラッシュメモリと同じ用途に向けた次世代の不揮発メモリの開発も進められている。これは書き換え回数の制限や書き換え時に高い電圧が必要といったNAND型フラッシュメモリの欠点を解決したメモリである。
現在のDRAMやNAND型フラッシュメモリの用途に向けた次世代不揮発メモリの候補は4種類ある。FeRAM、MRAM、PRAM、ReRAMだ。ただし、どれか1つの不揮発メモリで全用途に対応することは難しそうだ。これはどの不揮発メモリにも何らかの欠点が存在するからだ。後編では不揮発メモリの用途や各不揮発メモリの性能向上策、技術動向について解説する。
なぜ不揮発化なのか
不揮発メモリの歴史は古い。1970年代初頭には早くも最初のマイクロプロセッサやDRAMと並んでEEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)が開発され、現在ではNAND型フラッシュメモリやNOR型フラッシュメモリがDRAMに次ぐ規模で生産されている。特にNAND型は、SSD(Solid State Drive)向けを中心に2008年から用途が急拡大している。ところが、DRAMとNAND型のいずれも、将来は必ずしも明るくない(表1)。
なぜDRAMではだめなのか
「現在のDRAM技術では、製造技術が30nm世代になる2013年ころに微細化が止まる」(エルピーダメモリで取締役執行役員とCTOを務める安達隆郎氏)。
DRAMは主記憶やキャッシュメモリなどのいわゆる「ワークメモリ」として最も幅広く大量に使われている。その微細化が止まったらどうなるだろうか。エルピーダメモリの危機感は同社だけにとどまるものではない。これまでDRAMは微細化に次ぐ微細化により、10年で約100倍という比率で30年以上にわたって容量を拡大してきた。これが、ほぼ同等の比率で処理性能を向上させてきたプロセッサと相まって、ITの進歩を支えた1つの大きな柱となっている。
DRAMの微細化が止まる理由は単純である。DRAMはコンデンサ(C)とトランジスタ(T)の対(1T1C)によって、1ビットのデータを記録している。データを読み出す際には、コンデンサの電位の違いを検出する。ところが、微細化を進めるとコンデンサの容量が不足する。これまでは材料や形状の工夫を重ねて対応してきたが、これ以上微細化が進むと改良が難しい段階に到達している。30nm世代になると「最低限必要な容量である20fF(フェムトファラッド)が確保できそうにない」(安達氏)。微細化が進むにつれてリーク電流も増えてしまう。
Pt(白金)やRu(ルテニウム)などの貴金属材料をコンデンサ部分に利用するほか、JEDEC(Joint Electron Device Engineering Council)が定める64msに1度という国際的なリフレッシュ規格とは異なる仕様を採用すれば、30nm世代以降のプロセスでも現在の技術でDRAMを製造できる。しかし、DRAMモジュールの価格が1Gビット当たり100円という現在、高価な貴金属の採用は困難である。さらにリフレッシュの独自規格を採用すると、特定の顧客だけにしか納入できず、量産規模の効果が失われる。
同社がもくろむ対応策は、DRAMセルを3次元積層するのに利用するSi(シリコン)貫通電極(TSV:Through Silicon Via)と不揮発メモリだ(図1)。Si貫通電極を利用すれば1パッケージ当たり1Gビットという現在の容量を一気に8Gビットあるいは16Gビットに拡大できるからだ。
図1 エルピーダメモリが想定するDRAMと不揮発メモリの開発ロードマップ DRAMの微細化は、製造技術が30nmに達したところで限界となる。不揮発メモリ(PRAM)とSi貫通電極(TSV)技術が既存のDRAMを受け継ぐ。出典:エルピーダメモリ
一方、不揮発化の目的は消費電力低減よりはむしろ微細化が主である。記憶のメカニズム自体を変えることで、DRAMにまつわる微細化の制約を一気に乗り越える。電荷(や正孔)をこれ以上貯めることができないのであれば、何らかの状態を変えることでDRAMに匹敵するメモリを作れるのではないかという考え方だ。
同社が選んだ不揮発メモリは、相変化によって抵抗値が変わることを利用してビットを記録するPRAM(Phase Change RAM)である。ビット情報が0のときと1のときの抵抗値の比がMRAM(Magnetoresistive RAM)などに比べて大きく取れるのが選択の理由だ。
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