iPod nanoのコピー商品、高機能ながら安いのはなぜか:製品解剖
第2世代の「iPod nano」そっくりの商品「Esolo MP4」を解剖した。実装面ではコストに直結する部品点数の少なさが特筆に値するものの、ユーザーインタフェースには手抜きが見られた。
見た目は単純そうだが、実際には複雑なものが世の中にはある。「Esolo MP4」がそうだった。ある日、高速道路のサービスエリアにあるコンビニエンスストアに寄ったところ、レジ前の棚に載っていたEsolo MP4に目がとまった。米Apple社の「iPod nano」、それも第2世代の製品とよく似ていたからだ。どう見ても商品デザインを「コピー」しているEsolo MP4だが、内部はどうなっているのか。気前よく40米ドルも払って買ってきた。いざ分解してみると、部品の製造メーカーがはっきりしないばかりか、ある部品が実際にはどの型番の部品に相当するのかすらはっきりしない。調べれば調べるほど謎が深まった。好奇心に導かれるまま、構成を確認していくとしよう。
同社のWebサイトによると、Esolo MP4は、米テキサス州ヒューストンを拠点とする米Esolo Digital社が輸入販売する製品であり、中国の100社以上と提携して、工場から直送しているという。通常の「当社について」ページとはかなり内容が異なる「愉快な」文面である。
外見はiPod nanoそっくり
Esolo MP4は付属品やケースからしてiPod nanoをまねている(図1)。USBケーブルやヘッドフォンのデザインはほぼ同じ。本体などを収めたアクリルケースやシリコーンラバーケースもそっくりだ。ただし、iPod nanoの標準付属品ではないものも少しはあるが。Esolo MP4のUSBコネクタは標準的なミニUSBコネクタであり、iPod nanoとは異なる。Esolo MP4の外見上の品質は、USBコネクタがいくぶんねじれて付いている点以外、問題ない。
図1 Esolo MP4の分解結果 液晶パネルやユーザーインタフェースの一部表記以外はiPod nanoとよく似ている。(a)全体像、(b)プラスチックのトレーに載った液晶パネルと2枚の基板を筐体から引き出したところ、(c)基板の裏面、(d)基板の表面。
分解は簡単だった。アルマイト処理されたアルミニウム製のケースから基板をスライドして取り出すには、プラスチック製の「ふた」を留めていた2本の小さなねじを取り外すだけでよかったからだ(図1(b))。iPod nanoでは、Apple社のロゴなどがケースの背面にエッチングされている。Esolo MP4でも同じだ。
ポリイミド製フレキシブルケーブルで接続された2枚の回路基板は、アルミニウムケース内に収まっていたプラスチックのトレーに接着されていた。ディスプレイを支えている方の基板は、背面に主要な電子部品が実装されている。5個の入力ボタンが実装された方の基板は、入力時の圧力に耐えるためか、4本のネジでプラスチックトレーに固定されていた。二次電池は入力ボタンの裏に配置されている。
Apple社のユーザーインタフェースとは異なる部分もある。iPod nanoにあったスクロールホイール機構がEsolo MP4には欠けていた。代わりにクリック感のある5個の入力ボタンで全てを操作しなければならない。この他、筐体上部にある電源用スライドスイッチや底面にあるUSB端子、ヘッドフォン端子もiPod nanoのものとは異なる。液晶パネルも違う。iPod nanoの輝度の高いTFT液晶パネルは筐体に空いたディスプレイ用の窓全面にわたっている。Esolo MP4に付いている1.4インチ型のカラーSTN液晶パネルは筐体の窓よりも小さく、幅広の黒いわくが見える。安いなりの理由があるということだ。
少ない部品で高機能
Esolo MP4は、電圧3.7Vのリチウムイオン二次電池を1個内蔵している。仕様書によれば容量は150mAhである。電池を納入したのはHenry Technology社だ。「CS213」と同等の電池保護回路が付いているが、正確には何という部品なのか特定できなかった(特定できなかった部品はこのあとにも出てくる)。安全面に配慮した何らかの充電制御を実行しているようだ。
機能面では、Esolo MP4がiPod nanoに間違いなく勝っている。FMラジオ受信機能と音声録音機能が付いているからだ。しかし、ソフトウエアは良くない。互換性の問題を抱えており、ユーザーインタフェースにも魅力がない。
実装面では部品点数の少なさが特筆に値する(図2)。2006年に私が分解した第2世代のiPod Nanoでは、部品点数が多いことや、基板の構造から、製造コストが高いことが分かった。
Esolo MP4では全てのマルチメディアデータの処理と制御を単独のASICが担っている。ASICのパッケージには「AK1025」と刻印されていた。AK1025について調べてみると、関連Webサイトが迷路のようにリンクで結びついていた。ファームウエアの書き換え(ハッキング)について議論しているものが多い。あるWebサイトでは、AK1025を中国Actions Semiconductor社の定評のあるマルチメディア処理用SoC「ATJ2091」と同じものであると見なしていた。中国の知的財産は複雑な状況にある。Actions Semiconductor社は、同社が保有する知的財産の一部を無断で利用されている可能性がある。同社の刻印とAK1025上にある刻印は類似点があるとはいえ、明らかに異なるからだ。正規品にせよ、コピー品にせよ、3.6mm×3.9mmという小さなパッケージの中にMP3とMPEG-4用再生回路に加え、JPEG、オーディオ、液晶パネル用ドライバ回路が詰め込まれている。誰がこのチップを開発したのかは分からないが、これはかなり高度なことだ。
次のチップは明らかにFMラジオ機能に関連している。FMラジオ機能を実装するときによく見られるように、小さなドーターボード上に実装されている。パッケージ上の「RD2008」や「4708」といった刻印は意味があいまいだ。たぶん数字は日付を表しているのだろう。中国RDA Microelectronics社のパッケージと見間違う「RDA5800」と表記されたり、中国Comlent Technlogy社の「CL6010」と表記されている場合もあった。両社ともFMラジオチップを製品化しており、Esolo MP4に実装されているパッケージと形状も同じだ。「CS1000A」と刻印されていた場合もあった。これがヒントになった。2007年に上海に設立された中国CreSilicon Technology社は「CS1000」というFMラジオ受信LSIを製造しており、オランダNXP Semiconductors社の「TEA5767」との端子互換性とソフトウエア互換性を有していると主張している。以上のようなややこしい刻印が違法コピーを隠蔽するためかどうかは、はっきりとは断定できないが。
韓国Samsung Electronics社の16GビットNANDフラッシュメモリチップ「K9LAG08U0B」は、刻印からして純正部品だ。2つのメモリチップを積層しており、容量は合計2Gバイトである。ここに中小企業の製品はもちろん、偽造品が使われていないことには理由があるのだろう。高密度なNANDフラッシュメモリの製造は難しく、利ざやも少ない。
部品が実装された基板に印刷された文字やマーキングポイントから、基板の製造元はODM(Original Design Manufacturer)ベンダーである中国ShenZhen B kee star Technology社(深セン市金星奇科技)なのだろう。しかし、基板を製造したのは同社ではなく、何らかのコピー品なのかもしれない。ソルダーレジストも同社製であることの証拠にはならない。
読者の皆さんにも部品レベルの複雑怪奇なサプライチェーンの様子を理解いただけたかもしれない。Apple社の製品はデザインによって高価なものとなっているが、Esolo MP4では部品構成が値段を決めている。Esolo MP4にせよ、他のMP3プレーヤにせよ、Apple社の勢いに水を差すことはできないだろう。だが、低価格なおもちゃを製造する違法すれすれの会社が繁栄し続けることは間違いない。
David Carey氏は、電子機器の解体/分解リポートを提供する市場調査会社の米Portelligent社でプレジデントを務めている。同社のホームページアドレス。
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