屋内でも位置情報取得を可能に、GPS関連技術の開発進む:センシング技術 IMES測位(1/2 ページ)
「GPSの泣きどころ」であるこの弱点の克服に向けて、現在さまざまな取り組みが着々と進んでいる。例えば日立製作所は、屋内での測位を可能にするとうたうGPS送信モジュールを開発した。
GPS衛星から出力された信号を受信して位置情報を得るGPS機能。携帯電話機に広く普及しつつあるものの、地下街や建物の内部では位置情報が得にくいという大きな弱点がある。「これが屋外や屋内といった場所を問わないシームレスな位置情報活用サービスの普及を阻害する要因である。例えば、屋外では動作していたのに、地下街に入るとうまく動作しなくなるのでは、利用者は困ってしまう」(日立製作所システム開発研究所ユビキタスネットワーク研究センタの主任研究員である江端智一氏)。
「GPSの泣きどころ」であるこの弱点の克服に向けて、現在さまざまな取り組みが着々と進んでいる。例えば日立製作所は、屋内での測位を可能にするとうたうGPS送信モジュールを開発した。「IMES(Indoor MEssaging System)」と呼ぶ方式に対応したもので、GPS信号の互換信号(「屋内GPS信号」と呼ぶ)を送信する。携帯端末ではこの屋内GPS信号を受信することで、建物内部や地下街でも位置情報が得られる。
IMES信号を受信するために必要な携帯端末の設計変更は、ごくわずかだという。「GPS機能の利用シーンは屋外よりも屋内の方が多い。屋内で確実に測位可能とすることは、重要度が非常に高い項目だ」(同氏)。
機器への組み込みが可能に
そもそもIMES方式とは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が考案したもので、GPS信号と同じデータ構造を使う。周波数帯も同じである。GPS信号は、衛星が出力した時刻情報を含んでいるのに対して、IMES信号では送信モジュールにあらかじめ設定しておいた座標などの情報を受信端末に送る仕組みである。GPS衛星それぞれに「PRN」と呼ぶ識別コードが1〜32の範囲で付いているのと同様に、IMESを利用する送信モジュールにも173〜182の識別コードを付与する。
図1 日立製作所が開発した組み込み型のGPS送信機モジュール 宇宙航空研究開発機構(JAXA)が考案した屋内向けの位置測位方式「IMES」に対応する。建物内部の照明器具や非常灯、無線基地局に組み込みやすいように、小型化と低消費電力化を図った。出典:日立製作所
これまで進められてきたIMES方式の実証実験などによって、「技術的にはほぼ完成しており、実用化段階に入った」(日立製作所の江端氏)とする。ところが、これまでに開発した試作機は、実装面積がA4判大で厚みが5cmと大型、しかも筐体に収めたタイプだったという(図1)。「設置するには工事が必要で、新たに電源やイーサネット・ケーブルを引き回したりする必要があった」(同氏)。これでは、実際に建物や地下街へ設置を促すには障壁が高い。
そこで同社は、屋内の無線基地局や非常灯、照明器具といった既存の機器に比較的容易に組み込めるようモジュール・タイプに変更するとともに、小型化や低消費電力化を図った品種を開発した。実装面積は6cm×3cmで、従来に比べて電源部を含めた体積を1/20に削減した。消費電力の具体的な値は明らかにしていないものの、従来比では1/30程度、単3型乾電池で25時間程度稼働させられるレベルだという。
小型化と低消費電力化を実現できた理由について同社は、「これまではハードウエアで演算していた部分を、ソフトウエアで処理可能なように工夫した」と説明した。また、屋内GPS信号の処理に独自の変調方式を採用した。その上で変調して得られたデジタル信号のうち、利用頻度の高いデータをあらかじめ作成しておくことで、使用するメモリー容量と演算負荷を1/1000にまで低減したという。これらの工夫で、FPGAとプロセッサを複数個使っていたものが、1つのプロセッサで処理できるようになった。このほか、高周波(RF)回路部の部品点数を削減したことも小型化に寄与した。
ただし、建物や地下街に設置する際の課題はまだ残っており、主に2つある。1つは、送信モジュールを設置した後、どのように管理するかという点である。具体的には、モジュール設置後に送信出力を調整したり、座標情報やID情報を書き込んだりする機能を組み込む必要がある。これについては、例えば近距離無線通信方式の1つである「IEEE 802.15.4」の無線機能と組み合わせることで実現する計画である。もう1つの課題は、信号の強度である。送信モジュールを使った場合でも、屋外でのGPS信号の受信強度と大きく変わらない、強過ぎないレベルの信号強度を安定して実現する必要がある。屋内と屋外の中間領域での、GPS信号と屋内GPS信号の干渉を防ぐためだとする。
2009年度中に、実際の利用シーンを想定した実証実験を行い、これら2つの課題解決を図る。利用シーンとしては、駅構内での道案内や店舗での広告配信などを想定している。提供開始の時期は、現在検討中として明らかにしていない。送信モジュールをSoC(System On Chip)化することも検討している。
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