大画面ながらも色むら無し、エプソンが有機EL用成膜技術を開発:LED/発光デバイス 有機EL(1/2 ページ)
有機ELディスプレイの普及には大型化が必要不可欠だが、大型化はなかなか進んでいない。これは、大型化に向けて乗り越えるべき課題がいくつかあったからだ。
有機ELディスプレイの魅力は多い。バックライトを使わないため、消費電力が低く、薄くて軽量なディスプレイを作れる。高精細で画質も良い。現在は11インチ型のテレビ受像機が販売されているものの、出荷量の6〜7割は携帯電話機向けである。「有機ELディスプレイの普及には、大型化が必要不可欠」(セイコーエプソンの技術開発本部コア技術開発センターの部長である宮下悟氏)とするものの、大型化はなかなか進んでいない。
これは、大型化に向けて乗り越えるべき課題がいくつかあったからだ。主な課題は、ディスプレイの色むらを抑えることと、比較的長時間利用する大型ディスプレイに適した有機材料を開発すること、大型ディスプレイに適した駆動回路を開発することの3つである。これらを解決した上で、製造コストを低く抑えなければならない。
2009年6月、3つの課題のうち、色むら解消に向けた技術に大きな進展があった。セイコーエプソンが、インクジェット技術を使った均一成膜手法を開発したのである*1)。実際にこの均一成膜手法を使って、14インチ型で解像度が60ppiの有機ELディスプレイを試作したところ、従来は50%だった発光強度のばらつきを、4.7%に削減できることを確認した(図1)。
R(赤)とG(緑)、B(青)の発光層と中間層、正孔輸送層の3層をインクジェット技術で成膜した。発光輝度のばらつきの原因は、インクの吐出量のばらつきである。最大6%だったインクジェット・ヘッドのノズルごとの吐出量ばらつきを、最大0.4%に抑制したことで、発光輝度の均一化に成功した(図2)。
図1 インクジェット技術で有機ELディスプレイを試作 (a)は試作した14インチ型の有機ELディスプレイである。色むらがないことを訴求する。インクには高分子型を採用した。(b)は、利用したインクジェット・ヘッド。工業分野向けに使われている積層タイプで、180個のノズルが2列に実装されている。密度は180dpi。1mPa〜20mPaの粘度のインク液を、数kHzの頻度で吐出可能である。出典:(b)はセイコーエプソン
図2 均一成膜技術の効果は顕著 (a)はインクジェット・ヘッドのインク液の吐出ばらつきを補正していない場合、(b)は補正した場合である。(a)の縦方向の暗い部分が、(b)には表れていないことが分かる。中央部の黒い水平方向の2本線は、あらかじめ評価用ディスプレイに作られたもの。横方向にうっすらといくつも見える色むらは、モアレによるものである。出典:セイコーエプソン
開発した均一成膜技術の意義について宮下氏は、「有機ELディスプレイの大型化に向けた最大の課題を解決できたと考えている。これまで、大型化は難しいのではないだろうかという停滞感が業界にはあったものの、次世代テレビはやはり有機ELテレビだと業界に示せたのではないか」と語った。
残された2つの課題のうち、大型ディスプレイに適した有機材料の開発については、今後の見通しがはっきりしているようだ。新たな有機材料を開発する最も大きな目的は、インク中の発色材料の長寿命化である。現在、材料メーカーと協力して、インクに使う有機材料の開発に取り組んでおり、2010年ころには最大の課題とされている青色発色材料の寿命(輝度半減時間)を1万時間程度に伸ばせるとする。現在の5〜10倍に相当する。「これまでの開発推移から、いけるという見通しを得ている。1万時間あれば、テレビ向けには、それほど短いとは言えない」(同氏)。有機材料をインク化するプロセス技術も、インクの長寿命化には重要である。これについては、寿命を短くする要因が分かってきたと説明した。
残された課題は、大型の有機ELディスプレイに適した駆動回路の開発である。試作した14インチ型ディスプレイには、LTPS(低温多結晶Si)-TFTを採用した。ただし、これは大型化には向かない。しかも、大型液晶ディスプレイに使われているa(アモルファス)-Si TFT方式はそのままでは使えないとする。ただ、これについてもゆくゆくは解決できると考えており、「2012年ころにインクジェット技術を使った大型有機ELテレビが量産されても、何らおかしくはない。コストは、画面サイズが同じ液晶テレビに比べて、同等以下になるだろう」(同氏)という見通しを示した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.