炭素はどこまでシリコンに取って代われるか、3種類の材料が商用化に向かう:材料技術(3/5 ページ)
シリコンはエレクトロニクスを支える半導体として大規模に利用されている。その一方で、炭素だけからなる材料が注目を集めている。現在のメモリやプロセッサがそのまま炭素材料に置き換わるのだろうか。そうではない。ではどのように役立つのだろうか。
ダイヤモンド微細結晶を用いる
ADTとsp3は、多結晶ダイヤモンド膜をウエハー規模で成長させることによって、単結晶カーボン膜が直面するドーピングとスケーリングという2つの問題の回避に成功した。sp3が「微結晶ダイヤモンド」、ADTが「超ナノ結晶ダイヤモンド」(UNCD)とそれぞれ名付けた多結晶ダイヤモンド膜には、20〜30個の炭素原子から成る、直径5nmと小さい結晶(幅は炭素原子10個程度)が使用されている。
Carlisle氏は「ナノ結晶ダイヤモンドを使用することで、単結晶ダイヤモンドの欠点だったドーピングとスケーリングの問題を2つとも解決することができた。ナノ結晶ダイヤモンドもまだ完璧な材料とは言えないものの、単結晶ダイヤモンドの欠点を取り除いた上で、おおむね優れた特性を示すようにできたと考えている。具体的な事例を挙げると、当社の研究所では、300mm(12インチ)のウエハー上にナノ結晶ダイヤモンドを蒸着することに成功した。その結果、現在では、ダイヤモンド膜をCMOS半導体スタックのどこにでも挟み込める(インタリーブ)階層構造の形成が可能になった」と説明する。
導電性を容易に高められる
ADTのUNCDは自然に絶縁状態となるが、N(窒素)によるドーピング処理を施すことで導電性を高めることができる。また、外来原子をカーボン結晶格子上ではなく、ナノ粒子間に挿入することで、結晶性カーボンがグラファイトへと変化するのを抑制できる。UNCD膜の導電率は、ドーパントの添加と蒸着プロセスの変更によって、8けた(1億倍)以上改善できる。
同社はまた、DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)との契約の下、MEMS用途に向けたダイヤモンドの開発も進めている。同用途では、ダイヤモンドを採用することで、周波数性能をGHzレベルに拡張できるほか、長期耐久性も保証できるようになる。なお、Siを用いたMEMS素子の周波数性能は、MHzレベルにとどまっている。
ADT社のCarlisle氏は、「ダイヤモンドはMEMS用途に要求される特性を全て持ち合わせている。例えば、ダイヤモンドは非常に剛性が高いため、極めて高い周波数で共振できる。しかも表面が化学的に安定しているため、酸化の影響を受けない」と話す。
DARPAは2009年7月、ADTの超ナノ結晶プロセスでダイヤモンド膜を生成するHERMIT(Harsh Environment Robust MIcromechanical Technology)プログラムを評価した。過酷な環境に向けた研究開発である。HERMITプログラムは米Argonne National Laboratoryで完成を迎えたが、DARPAプログラムマネジャーを務めるAmit Lal氏は、同プログラムの実施に伴い3社に協力を求めた。その3社とは、ADTのダイヤモンドを利用してMEMS素子を作成した米Innovative Micro Technology(IMT)と、RFスイッチを設計した米MEMtronics(図2)、SOS(シリコンオンサファイア)ウエハー上にCMOS技術を用いたドライバ回路を製造した米Peregrine Semiconductorである。
図2 ダイヤモンドとSiをシングルチップ化する ダイヤモンドRF MEMSスイッチ(左図)はSiよりも高い周波数で動作する。さらに、同スイッチを駆動するCMOS回路(右図)と同じダイの上に形成でき、ダイヤモンドとSiを組み合わせたシングルチップとして機能する。
DARPAに向けたRF位相シフターの開発に成功したことで手応えを感じたADTらは現在、CMOS上に形成したダイヤモンドを構成要素に含むMEMS素子を、一般消費者に向けた機器用RFモジュールとして利用できるよう、独自に開発を開始した。
Carlisle氏は、「われわれの目標は、複数の異なるRF発振器やフィルタ、スイッチをシングルチップソリューションとして統合し、スマートホンやスマートブックなどの携帯型無線端末機用に製品化することだ」と語った。現在は、「30社のサプライヤから個別に部品の供給を受けて製造しており」、同社の手法が優れていることを強調した。
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