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役割増すTV用音響DSP、薄型化するスピーカの音質を維持オーディオ処理技術 スピーカー(2/5 ページ)

テレビ映像の高画質化の進展とは対照的に、音作りの難しさが増している。その最大の原因は、テレビの薄型化に伴って、スピーカを薄くしなければならなくなったことである。

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第1部 スピーカに起因した3つの課題

 「薄いスピーカを使いながら音質劣化をいかに低減するか、どうにもこうにも困っている。大画面化するテレビ受像機の映像に負けないように、高音質を目指さないといけないのに……」。デジタル家電/電子部品に関するある展示会の会場で、テレビの音響設計を担当する複数の設計者はこのように現状を吐露した。

 テレビ映像そのものの技術進展は著しく、高画質化の取り組みは活発に進められている。例えば、1080pの高品位(HD)映像に対応させた「フルハイビジョン」や、映像の切り替え周波数(駆動周波数)を120Hzに高めた「倍速駆動」、超解像技術など、新たな高画質化技術がテレビに次々と搭載されている。

 このような高画質化に向けた取り組みとあまりにも対照的なのが、テレビの「音作り」である。これまでと同等の音質を維持することすら難しい状況だ。音作りにかけられる開発期間が短いことや部品コストの削減といった複数の要因があるものの、最大の要因はスピーカが薄型化していることにある。「音楽や音声を再生する機器にはホーム・オーディオやカー・オーディオなどいくつかのタイプがあるが、スピーカの問題はテレビ独特のものである」(ルネサスソリューションズで、オーディオ機器向け半導体部品の開発に携わる大井眞澄氏)*1)

*1. 第一応用技術本部のMSIG応用技術部 AV1グループでグループマネージャを務めている。

テレビの薄型化が要因

 スピーカが薄くなった理由は、高画質化の取り組みと並行して進んできたテレビの薄型化の進展にある(超薄型テレビに向けたスピーカ技術については、別掲記事「超薄型テレビには平面スピーカが有効か」を参照)。

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図1 テレビの薄型化が進展 厚みが10cmを切るテレビ受像機を各社が製品化している。これに伴って、テレビに組み込むスピーカがさらに薄型化している。現在テレビを製品化している国内各社の動向を公開情報を基に本誌がまとめた。各メーカーの、最も薄い機種の厚み(メーカー標準値)を記載した。プロットの色はメーカーの違いを表す。

 テレビの薄型化の進展には、これまで2つの段階があった(図1)。1つは2002年〜2003年ころで、ブラウン管テレビから液晶テレビまたはプラズマ・テレビへの変化によるもの。もう1つは、ここ最近の2007年〜2008年の変化である。「2007年までの開発トレンドは画面の大型化だったのに対して、2007年からは薄型化に向けた開発合戦が始まった」(三菱電機AV機器製造部設計グループの専任である川勝かがり氏)と説明する。日立製作所が2007年10月に、ディスプレイの厚み(最厚部)が3.9cmの「Wooo UT」シリーズを発表したのを皮切りに、これまでの10cm程度の厚みを大きく下回る薄型テレビを各社が市場に投入した。

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図2 外観優先でスピーカを配置 最近のテレビ受像機では外観を優先させてスピーカを配置している。(a)は、ディスプレイの下部のわずかなスペースに細長いスピーカを配置した様子。さらにスピーカの開口面が視聴者ではなく地面を向いた機種も製品化されている(b)。

 スピーカ開発者の多くは、「テレビの厚みが10cmを大きく下回って5cmを切る段階に入ると、何の工夫も施さずに薄型化したスピーカをそのまま使うと、とても『聞ける音』にはならない」と指摘する。多くの視聴者に音質が劣化していることが分かってしまうのである。さらに、スピーカをテレビの下部に設置したり、ディスプレイの縁の幅を狭くするためにスピーカを下向きに設置したりという最近の傾向も、高音質を目指した「音作り」の難しさに拍車を掛ける(図2)。

 具体的に、薄型化したスピーカや、不自然なスピーカ配置が音質に与える悪影響を分類すると、(1)スピーカの周波数特性の劣化、(2)低い周波数領域が再生できなくなること、(3)音の定位がはっきりしなくなることの、3つに分けられる(図3)。

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図3 スピーカに起因した音質への悪影響 スピーカの薄型化やスピーカ配置の変化は、スピーカの周波数特性や低音成分の再生能力、音の定位に悪影響を与える。

 スピーカの周波数特性とは、周波数に対するスピーカの出力音圧の変化である。理想的にはある特定の周波数範囲で一定でなければならない*2)。ところが、スピーカが薄くなったり、スピーカの周囲に何らかの障害物があったりすると周波数特性が一定にならず、特定周波数の出力が大きくなったり(ピーク)、小さくなったり(ディップ)する。また、低周波数領域(低音)が再生できないと、音の「迫力」が得にくくなる。

 3つ目の音の定位感を損ねる原因は、スピーカをテレビの下部両端に設置し、さらにこれまで視聴者に向けて設置していたスピーカの面を下に向かせるというスピーカ配置の変化である。音の定位とは、視聴者が感じる音源の位置で、これがはっきりしないと話者が語っている内容が聞き取りにくくなったり、音楽が明瞭(めいりょう)ではなくなったりといった現象を引き起こす。

*2. 入力されたオーディオ信号をそのまま空間に放射させるという点で、平たんな周波数特性は理想的である。実際には、音に特徴を持たせるために意図した周波数特性に開発者が調整する。

 音の好みは個人によって異なり、評価の良しあしは、必ずしも一致しない。ただ、以上で説明した3つの現象は、大多数の視聴者が悪いと感じてしまうものだ。「音の好みについては、その人がこれまでどのような音楽を聞いてきたかなどで評価が分かれる。ところが、あるしきい値を下回って、音がひずんだり、低音や高音が再生できていなかったり、音声が明瞭(めいりょう)ではなかったりといった『悪い音』は、特殊な訓練を受けていなくても判別できる」(九州大学大学院の芸術工学研究院の音響部門で教授を務める岩宮眞一郎氏)という。

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