第6回 エミッタ接地回路の定数を決める:Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/3 ページ)
前回は、トランジスタには3つの接地方式があることを紹介しました。今回はそのうちの1つ「エミッタ接地回路」を取り上げます。
最も重要なバイアス点設定
負荷直線を使って、実際にバイアス点を決める作業に入りましょう。1Vppの信号を出力することが目的でした。100Ωの負荷抵抗(Rc)で1Vppを出力するので、Icの変動幅はオームの法則から1Vpp/100Ω=10mAppとなります。そこで、図2(a)の負荷直線上の「どの部分を使って」、変動幅が10mAppのIcを流すか(つまり、バイアス点)を次のような手順で見付け出します。
当初設定した目標では、入力は10mVppと定めました。この情報を使います。つまり、入力電圧の変動幅が10mVppのときに、変動幅が10mAppのIcが流れるように設定すればよいのです。このとき、図2(b)に示したベース-エミッタ間電圧(Vbe)とIcの関係(Vbe-Ic曲線)を活用します。
図2(b)を見ると、Vbeが大きくなるにつれて傾きが大きくなっているのが分かります。この曲線上で、入力電圧の差が10mVのときに、Icの差が10mAとなる部分を探し出せば良いのです。この作業は、計算式を使って簡単に進められます。IcとVbeの関係式は以下になります。
Isは飽和電流で、Vbeが0VのときのIc値となります。通常、10−10〜10−16と非常に小さい値です。また、上式の中括弧内の「−1」の項は無視できます。Vtは熱電圧で、27℃ではVt=26mV程度になります。ここで、熱電圧VtはKT/q[V]となり、Kはボルツマン定数(1.38×10−23[J/K])、qは素電荷(1.602×10−19[C])、Tは絶対温度[K]です。nは補正値で、一般に1〜2の値をとりますが、以降の計算では簡単のためn=1として進めます。
この数式をVbeで微分すると、Vbe−Ic曲線の傾きが得られます。
IcとVtから、Vbe-Ic曲線の傾きが決まることが分かります。(2)式中の熱電圧の影響は、トランジスタの内部で、エミッタにIcとVtで決まる抵抗Rvtが付いているとイメージすると分かりやすいかもしれません(図3)。ベースとエミッタの間には0.7V程度の固定電圧源が入っていると考えてください。そうすると、ベース電圧が10mVpp変化すると、エミッタ電圧もそのまま10mVpp変化します。この10mVppがRvtにかかるので、流れるエミッタ電流Ie=10mVpp/Rvtになります。Ie≒Icなので、図2(b)のグラフの傾斜は1/Rvtに相当し、Icを増やすと1/Rvtは大きくなります。
(2)式から、10mV幅で10mA幅の変化に必要なコレクタ電流Icは、Ic/Vt=10mA/10mVを解いて、Ic=26mAと計算できます。従って、Icのバイアス点は26mAで、これを中心にして±5mAを使えば、10mVppを入力したときに10mAppのコレクタ電流が得られます。そして、このときのバイアス点のコレクタ-エミッタ間電圧Vceは、図2(a)の負荷直線から2.4Vと求まり、これを中心に±0.5Vになることも分かります。この様子を図2(a)上に赤矢印で示しました。以上で、4段階の設計作業のうち2段階までを終えました。
ベース電圧決める最終段階
続く第3ステップでは、コレクタ電流Icを基にベース電流Ibを算出します。前回説明したように、「Ic=電流増幅率β×Ib」の関係があります。βはトランジスタごとに決まる定数で、ここでは100と仮定しましょう。従って、Icが26mAであれば、Ibは260μAになります。
最後の第4ステップでは、所望のベース電圧Vbとなるように、抵抗R1とR2の値を決めます。ここで注意しなければならないのは、260μAのベース電流による電圧降下の悪影響です。ベース電流が無ければ、R1とR2に流れる電流値は同じです。従って、電源電圧と2つの抵抗の比でベース電圧は決まります。しかし、ベース電流が流れると、R1に流れる電流の方がR2より増えて、抵抗比で決めた電圧よりベース電圧が下がります。これが電圧降下の悪影響です。
このベース電流による電圧降下は、設計者それぞれの考えや経験で決めることが多いです。ここでは仮に「130mV」と決めます。電源電圧5Vに対して2.5%程度となり、許容できる誤差の範囲と言えるでしょう*3)。ベース電流による電圧降下を130mVとすると、ベース電流は260μAですので、抵抗成分は130mV/260μA=500Ωとなります。また、図2(b)からベース電流が260μA、すなわちコレクタ電流が26mAのときのベース-エミッタ間電圧Vbeは860mVと読み取ります。
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