強誘電体SRAMやスピンMOS FETが開発、新材料や新機構で微細化限界打ち破る(前編):プロセス技術(2/2 ページ)
Si(シリコン)以外の新たな材料や、新たな動作機構を採用することで、先が見えつつある微細化の限界を引き延ばそう、または乗り越えていこうという研究開発が進められている。
しきい値電圧がSRAMの安定度高めるように動的変化
強誘電体をゲート電極に使うことで得られる最大の利点は、データの書き込みや読み出し、スタンバイといったSRAMの各動作が安定するように、MOS FETのしきい値電圧Vthが自動的に変わる点である。ゲート電極に印加する電圧が「High」または「Low」という状態に応じて強誘電体の分極状態が変わり、結果、しきい値Vthが0.1V程度変わる(図3)。
仮に、n型MOS FETの場合にゲート電極が0.5V(High)のとき、p型ウエハーのグラウンド電圧が0V(Low)だとする。このとき、強誘電体中では、ゲート電極側に負電荷が帯電するように、一方のチャネル側には正電荷が帯電するように分極する。結果、チャネル中には負電荷が引き寄せられ、しきい値電圧Vthが下がるという仕組みである(図4)。
これまで、基板にバイアス電圧を印加することで、基板上のMOS FET全体のしきい値電圧を変える試みはあった*3)。ただ今回のように、MOS FETのそれぞれのしきい値が変わるデバイスは、従来のSi材料のみを使ったMOS FETでは現実的ではない。強誘電体という新材料を使ったからこそ、なしえたことなのである。
Vwindowが30mVから137mVへ
以上のように、しきい値電圧Vthが変わる効果は顕著である。例えば、p型MOS FETがオンするときにはVthが下がってオンしやすいようになり、n型MOS FETがオフするときにはVthが上がってオフしやすいようになるからだ。「単純な構造だけれど、SRAMの動作が安定するように、すべてのつじつまが合っている」(竹内氏)。
この結果、SRAMの動作安定性を示す静的雑音余裕(SNM:Static Noise Margin)や、しきい値電圧のばらつきの許容値(Vwindow)を大きく高められる。これは、電源電圧を今よりも引き下げた場合でも、安定して動作させられることを意味する(図5)。
竹内氏の研究グループでは、計算機シミュレーションと実際に試作した強誘電体SRAMセルを使って、強誘電体SRAMの動作を解析した。しきい値電圧Vthの変化幅が0.1Vで、電源電圧が0.5Vの条件のとき、Vwindowは30mVから137mVに広がった。これは、電源電圧をおよそ0.11V下げられることを意味し、これに伴って動作時消費電力を32%削減可能だとする(図6)。
「現在、材料はそのままに製造プロセスを改善することで、Vwindowを100mVから110mVへ広げることに各メーカーがしのぎを削っている。ゲートの材料を変えるだけで、Vwindowが劇的に変わる意義は大きい。電源電圧が現状の1.2Vの場合は、今回の技術のインパクトは薄いかもしれないが、電源電圧を0.4Vや0.5Vにまで下げる必要に迫られたとき、生きてくる」(竹内氏)。例えば、電源電圧が0.5VのときのSNMは、0.12Vから0.19Vに広がる。
さらに、リーク電流の抑制や動作速度の高速化にも効果があるとする。試作したSRAMセルで実測したところ、しきい値電圧を0.1V幅で変えることで、リーク電流を42%削減可能であることを確認した。
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