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微細化の限界に挑む、Siと新材料の融合で新たな展望もプロセス技術(4/10 ページ)

半導体製品、特にSi(シリコン)材料を使ったトランジスタの歴史を振り返るとき、「微細化」が重要なキーワードであることは間違いない。微細化に伴って、50年あまりの間にトランジスタの処理性能は劇的に高まり、寸法は小さくなった。ところが、2000 年代に入り、状況が変わってきた。

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トランジスタを立体構造に

 短チャネル効果の抑制を目的に、「finFET」や「トライゲート・トランジスタ(Tri-Gate Transistor)」といった立体ゲート構造のトランジスタの開発も進んでいる。これらのトランジスタは、複数のゲートを備えており、現在のMOS FETに比べてゲートのチャネル支配力が高められる。このため、短チャネル効果を抑制できる。

 さらに、Si基板の替わりとして完全空乏層SOI(Silicon on Insulator)基板を使う選択肢もある。埋め込み絶縁層を導入したSOI基板を導入することで、ソース/ドレインと基板の接合容量を小さくでき、リーク電流を抑制できる。高速化にも効果がある。finFETや完全空乏型SOIでは、トランジスタ性能を表す重要な指標であるSファクタの改善も見込める。

図
表1 Si基板上の新材料/新機構の候補 現在提案されているテクノロジ・ブースタをまとめた。重要な点は、Si(シリコン)基板を使って、これまでの製造技術や設計資産を最大限活用しながら、新材料や新機構を導入するという点である。SOI基板やfinFETといったテクノロジ・ブースタを導入することで、トランジスタのスイッチング特性を表すSファクタの改善も見込める。さらに、Sファクタの改善を目的としたMOS FETの新たな動作機構の提案もある。

 Intel社では、「ムーアの法則は少なくとも2022年までは続く」(同社)と見ている。製造技術は今後、22nm世代から、16nm世代、11nm世代へと進む。このような微細化を推し進めるために、今後のMOS FETの開発は、対症療法のように複数のテクノロジ・ブースタを次々と導入することになる。「やりたくないけども、やらざるを得ない取り組み」(東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻の教授を務める高木信一氏)なのだ。表1に現在候補に挙がるテクノロジ・ブースタの特徴と現在の開発状況をまとめた。

新材料融合の動きは加速

 以上に挙げたテクノロジ・ブースタとは全く違った視点から半導体の性能や付加価値を高めようという研究も、現在進んでいる。ロジック回路の世界では今まで使われてこなかった、磁性材料や強誘電体材料を、ロジック回路に導入するものだ。「MRA(Magnetoresistive Random Access Memory)」や「FeRAM(FerroElectric Random Access Memory)」といった次世代メモリーの材料をロジック回路に展開したわけだ。

 磁性材料や強誘電体材料は、今までロジック回路に使われてきた半導体材料にはない性質がある。例えば、磁性材料は、外部磁界の方向を変えることで、内部の磁化方向が変わり、抵抗値が変化する。また、強誘電体は外部から電界を印加することで分極方向が変わる。これらの材料は、内部の状態を変えられて、しかもその状態を保持できることが特長だ。

 用途は主に2つある。1つは、トランジスタのしきい値電圧Vthのばらつきが引き起こす悪影響への対策。Vthの変化に対して、磁性材料や強誘電体材料の状態をうまく合わせることで、Vthの変化の影響を極力抑えようというアイデアである。もう1つは、状態を保持する、すなわち不揮発性であるという特長を生かして、回路全体の消費電力を削減しようというものだ。前者は、微細化を可能な限り続けることを狙ったもの、後者は、微細化に頼らないMOS FETの高付加価値化と位置付けられる。

 ロジック回路とこれらの新材料を融合する際に重要なポイントとして、トランジスタ特性を劣化させないという点が挙げられる。Si材料を使った既存のMOS FETとうまく適合させることが大切だ。そして、高い歩留まりで量産できなければ、商用の製品とはなり得ない。強誘電体や磁性材料は、ロジック回路に組み合わせる材料として、これらの要求事項をクリアできるものと見られている。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が策定した「電子・情報技術分野の技術ロードマップ 2009」には、「スピン・トランジスタ」や「単電子トランジスタ」、「有機トランジスタ」、「光トランジスタ」といった魅惑的なキーワードが並ぶ。こういった新機構のトランジスタは数多くある。しかし、既存のSi 材料トランジスタと適合することや、現実的なコストで既存のSi材料トランジスタと置き換えられること、高い歩留まりで量産できることといった観点から見ると、将来の見通しははっきりしていない。

 第2部では、強誘電体材料と磁性材料の活用事例に焦点を当てる。まず、Vthばらつきの対策に向けた活用例を紹介する。その後、不揮発性という特長を生かして、回路の消費電力を削減しようという研究開発を取り上げる。強誘電体材料や磁性材料のほか、金属イオンの析出/溶解現象を不揮発スイッチに利用した研究開発も紹介する。

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