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ワイヤレス給電の次なる課題、「電源ケーブルが消える日」はくるかワイヤレス給電技術 共鳴方式(3/6 ページ)

数m と長い距離を高効率でワイヤレス給電できる可能性を秘めるのが、「共鳴型」と呼ぶ新技術である。2007 年に初めて動作が実証された後、さまざまな企業や研究機関が開発を活発に進めている。しかし、実用化に向けてはまだ多くの課題がありそうだ。

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基本的な設計指針はほぼ確立

 図2の内容を以下に詳しく説明しよう。まず、(1)の基本的な設計指針の確立の段階については、「共鳴型ワイヤレス給電技術とは何ぞや」という現象そのものの理解が進んでいる。

 ワイヤレス給電システムを構成する最も基本的な要素は、送電側コイルとコイルに電力を供給する高周波電源、受電側コイルと負荷である(図3)。この構成を等価回路でうまく表現することで、各種パラメータの決定指針が定まってきたようだ。具体的には、高周波電源の周波数やインピーダンスをはじめ、送電側/受電側コイルのインダクタンス(L)やキャパシタンス(C)、負荷のインピーダンスを決める方法(計算式)が明確になってきた。

図
図3 MITが提案した共鳴型ワイヤレス給電システムの構成  中央の2つのコイルは「スパイラル・コイル」。高周波電力発生回路(高周波電源)で生成した電力を「ループ・コイル」を介して、送電側コイルに伝える。受電側でも、ループ・コイルを介して負荷に電力を供給する。送電側コイルのインダクタンス成分とキャパシタンス成分で決まる共振周波数は、受電側コイルの共振周波数と一致させることで、高い伝送効率で電力が送れる。

 ところが、(2)の実際の最終機器への実装(システム設計)を考えると、共鳴現象を使うがゆえの技術的な難易度が急に増す。まず、どのような指標が、共鳴型ワイヤレス給電システムの性能を左右するのか説明しよう。

 共鳴型ワイヤレス給電システムの特性を決める重要な指標は「k×Q」と表すことができる。「k」は、送電側コイルと受電側コイルの結合の強さを表す指標(結合係数)。「Q」は、送電側デバイスと受電側デバイス付近に蓄えられるエネルギの指標である。基本的にはいずれも、コイルの形状や寸法、素材(導電率)、利用する周波数などで決まる(表1)。蓄えられるエネルギの指標Qは、コイルを設計した段階で決まるのに対して、結合係数kは、送電側デバイスと受電側デバイスの距離(伝送距離)によって、指数関数的に減少する点が異なる。

図
表1 共鳴型ワイヤレス給電の重要な指標「k×Q」 蓄えられるエネルギの指標Qと結合係数kはそれぞれ複数の要素で決まる。結合係数kは、利用シーンによって動的に変化するのに対して、蓄えられるエネルギの指標Qは利用する周波数を決めた後、コイルを設計した段階で決まる。

 双方の指標を大きくすることで、伝送効率を高められる*3)。伝送距離を伸ばして結合係数kが低くなった状況でも、蓄えられるエネルギの指標Qを高くして、高い伝送効率を維持しようというのが、共鳴型ワイヤレス給電技術の基本的なアイデアである。

*3. 「k×Q>10が良好な伝送特性の目安となる。k×Q>10であれば、82%以上の伝送効率(コイル間)となる」(龍谷大学理工学部の粟井氏)。

所望のQ値をどう得るか

 以上を踏まえた上で、システム実装に向けた課題としてはまず、蓄えられるエネルギの指標Qを高くする、または狙った値のQを得るためのコイルの設計指針が、まだはっきりしていないという点がある。「Qは高い方が良いという議論は多いが、具体的な設計手法の議論はあまりされていない」(龍谷大学理工学部電子情報学科の教授である粟井郁雄氏)と指摘する*4)

 一口にQといっても、複数の要素がある。具体的には、導体の損失に関係した「Qc」や、誘電体の損失に関係した「Qe」、磁性体の損失に関係した「Qμ」、装置付近から外部に放射するエネルギに関係した「Qr」があり、以下の関係が成立する。

 中空のコイルを使ったとき、QeやQμは無視できるので、QcとQrを考慮すればよい。Qcが小さければ、導体での損失が大きく、エネルギが熱となり失われてしまうことを意味する。また、Qrが小さいと外部にエネルギが逃げてしまう。すなわち、QcやQrが大きいコイルを設計する指針をはっきりさせる必要がある。大電力のワイヤレス給電システムを構成するときには、Qrを大きくすることが特に重要になる。

*4. コイルの最適な設計手法についての議論も始まっている。例えば、2010年4月に開催された第1回目の無線電力電送(WPT)研究会では、龍谷大学理工学部の粟井氏が「スパイラル・コイルには、最適ピッチがあることが分かった」と説明した。「共鳴型ワイヤレス電力伝送に用いる共振器の比較検討」と題した発表で明らかにした。

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