iPad向けを目下開発中、村田が電界結合方式のワイヤレス給電を事業化(後編):ワイヤレス給電技術
村田製作所がワイヤレス給電システムに採用した電界結合とは、送電側/受電側が電磁気的に結合しているとき、電界成分による結合が支配的となっている状態を指す。
フレキシブル電極や透明電極も使える
村田製作所がワイヤレス給電システムに採用した電界結合とは、送電側/受電側が電磁気的に結合しているとき、電界成分による結合が支配的となっている状態を指す(図1)。2つの電極を用意しておき、1つを送電側に設置し、もう1つを受電側に設置することで、近接させたときに非接触で電力を送れる(図2)。
この電界結合は、等価回路で表現したとき、結合部がキャパシタンスを介した結合となり、「容量結合」または「キャパシティブな結合」と呼ばれる。これに対して、電磁誘導方式では、コイル(等価回路ではインダクタンス)を介して電磁的に結合するので、磁界成分による結合が優位になる。このため、「誘導結合」または「インダクティブな結合」と呼ばれる。
同社は、電界結合方式を採用した理由について、2つの「自由度」が高いことを挙げた。1つ目は、機器への実装の自由度が高いことである。送電/受電側の電極は、電極として動作すれば基本的に何でも良いので、薄い電極(フレキシブル電極)や、酸化インジウム・スズ(ITO)を使った透明電極も使える。
もう1つの自由度とは、送電側に対する受電側の位置自由度が高いことである。このときの位置自由度とは、送電側から離れる方向(Z方向)の自由度というよりも、送電側デバイスの電極上(XY平面)での設置自由度である。電磁誘導方式のワイヤレス給電システムは、すでに数多くの対応製品が市場に登場しているものの、きっちりとした位置合わせが必要だという弱点がある(図3)。電界結合方式を採用すれば、電磁誘導方式のようにきっちりとした位置合わせは不要で、充電ポイントを気にせずに、手軽に電子機器をワイヤレスで充電できると説明した。
また、複数の機器に対して給電できることも特徴に挙げた(図4)。受電側の機器を時分割で切り替えるだけではなく、複数の機器に同時に給電することもできると説明した。
受電側を監視して、設置自由度を高める
電界結合方式を使ったワイヤレス給電システムの基本技術は、本社を京都に構える技術開発支援企業であるTMMS社が開発したものを使った。TMMS社の基本技術の特長は、送電側デバイスの電極上での設置自由度を高められること。受電側の状態を送電側にフィードバックすることで、受電側の設置位置が変わったときにも、高い伝送効率を保つ。受電側の状態をモニタリングする仕組みは明らかにしていない。また、制御信号をやりとりする場合、その周波数は電力を送るのに使う周波数(数100kHz)と同一かどうか質問したところ、明言を避けた。
TMMS社の基本技術をベースに、村田製作所が回路設計やモジュール化の観点で全面的に協力することで製品化に至ったという。開発は2008年に始めた。TMMS社の基本技術を使ったきっかけは、TMMS社から基本技術の提案があったことに加えて、村田製作所内の新技術を探索をするグループがTMMS社の技術に注目し、発掘してきたことがきっかけだという。なお、村田製作所はTMMS社の基本技術を独占的に利用する契約を結んでいる。
外部への悪影響が無いことを確認済み
村田製作所のワイヤレス給電システムの製品発表会に参加した際、疑問に感じたことが3つあった。
1つ目は外部への電磁界の漏えいについて。送電側/受電側の電極端部には電界が集中する領域ができることが予想される。外部の電子機器に悪影響を及ぼさないのか、また人体への防護指針の基準値を満たしているのかという疑問である。
これについて同社は、現在製品化に向けて想定している伝送電力や利用シーンにおいて、各指針を満たしていると説明した。ここでいう指針とは、総務省の電波防護指針や、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が定めたもの。「当然のことながら、規定値を意識して製品開発を進めてきた」(同社)。EMI(放射電磁雑音)の観点からも、外部の電子機器の対する悪影響がないことを確認済みだという。
伝送距離を重要視せず
2つ目の疑問は、いわゆる「共鳴型」と呼ぶワイヤレス給電技術ではなく、電界結合方式を選択した理由についてである。2007年に米Massachusetts Institute of Technology(MIT)が実証した共鳴型のワイヤレス給電技術は、1mを越えるような長い距離でも比較的高い伝送効率が得られるとして、2008年ころから注目が集まっている。電界結合方式ではなく、共鳴方式を採用すれば、送電側デバイスのXY平面だけではなく、Z方向にも高い設置自由度が得られる可能性がある。
共鳴型ではなく、電界結合方式を採用した理由について同社は、「もちろん共鳴型には有効な用途があると考えている。しかし、携帯型機器での利用を想定したときには、伝送距離を伸ばすことに、そこまで必然性を感じなかった」と説明した。携帯型機器は、可搬性の高い電子機器である。従って、携帯型機器の充電という利用シーンを考えたとき、容易に持ち運べるので、「置く」という動作そのものは手間にならないとの考えである。ただ、手軽に充電するためには、XY平面での設置自由度の高さが重要だと考えた。
仮に送電距離を伸ばそうとすると、伝送効率の低下や不要な電磁放射の発生など、気を配るべきことが増えるというデメリットがある。伝送効率が下がってしまうと、2次電池の充電が完了するまでの時間が伸びる。また、不要な電磁放射を規定のレベル以下にするために、伝送電力を抑える必要が生まれるかもしれない。
電磁誘導方式の研究開発は収束
3つ目の疑問は、同社がこれまで開発を進めてきた電磁誘導方式のワイヤレス給電システムとの関係についてである。同社は2007年以降、セイコーエプソンと協業を進めてきた。例えば、2009年のCEATECでは、電磁誘導方式のワイヤレス給電システムに向けて、超小型の受電側制御モジュールを展示していた。
電磁誘導方式については、「共同での研究開発は完了しており、採用事例はまだないものの事業化の段階に入っている。要望があれば、対応製品を提供可能な状態である」(同社)と説明するにとどまった。
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