リチウム資源に依存しない二次電池を開発、ナトリウムで高容量を確保:エネルギー技術 二次電池
電気自動車向けのリチウムイオン2次電池には課題が2つある。エネルギ密度がガソリンに比べて低いことに加え、コスト高であることだ。
リチウムイオン二次電池の性能改善が進んでいる。体積・重量当たりに蓄えられるエネルギー量が多く、携帯型機器や電気自動車など、機器の体積や重量をなるべく小さくしなければならない用途に適しているためだ。
電気自動車向けのリチウムイオン二次電池には課題が2つある。エネルギ密度がガソリンに比べて低いことに加え、コスト高であることだ。コスト高になる理由は複数ある。まず、Li(リチウム)の産出地が南米などに偏っており、高品位な資源の量が少ない。加えて電池の正極材として用いるCo(コバルト)も希少だ。電気自動車の生産台数が増えるにつれて、より事態が深刻になっていく。
そこで、リチウムイオン二次電池の開発では、CoではなくNi(ニッケル)やMn(マンガン)、Fe(鉄)などを正極材に用いることで性能を維持しつつ、コストを低減する研究が続いている。しかし、Liを代替できる材料は見つかっていなかった。
Naでは動かない
東京理科大学理学部第一部応用化学科の准教授である駒場慎一氏は、Liを使わず、Na(ナトリウム)を用いた「ナトリウムイオン二次電池」を開発し、コスト低減の可能性を示した(図1)。Naは食塩を構成する元素であり、地球上で6番目に多く、安価だ。
図1 開発した二次電池の内容 正極と負極の電位差が3Vのナトリウムイオン二次電池を作成した。上から、円筒セル、円筒セルの内容、正極シートとセパレータ、負極シート、電解液、巻き取り前の円筒セルの内容である。
東京理科大学科学技術交流センター技術移転部門でコーディネーターを勤める川原隆幸氏は「リチウムイオン二次電池では負極材を塗布する母材として銅箔が必要だが、新電池ではより安価なアルミニウム箔が利用できる。これもコスト削減に役立つ」という。
周期表上では、NaはLiのすぐ下にあり、性質が似ている。NaをLiの代わりに使おうという発想はそれほどとっぴなものではない。しかし、Naにも課題がある。まず、Naの密度(比重)は、Liよりも約80%大きい。ただし、二次電池の重量はNaだけでなく、正極材や有機溶媒などによっても決まる。二次電池自体の重量が、Liに比べて80%重くなるわけではない。「Naの重量を計算に入れても、理論値ではリチウムイオン二次電池の7割から8割の性能が出せる」(川原氏)という。
問題なのはNa+(ナトリウムイオン)のイオン半径だ。Li+(リチウムイオン)と比べてNa+のイオン半径は約30%大きい。リチウムイオン二次電池は、Li+が負極材であるグラファイト(黒鉛)と正極材であるLiCoO2(コバルト酸リチウム)などの間を相互に移動し、それぞれの材料の分子間に移動するインターカレーション現象を起こすことで充放電する。グラファイトは層状の分子構造を採る。層間の結合力が弱く、Li+が出入りしやすい。さらに、Li+の出入りによってグラファイトの構造が破壊されることがない。グラファイトは優れた負極材料であり、理論上372mAh/gのLi+が吸蔵できる。
一方、Na+はイオン半径が大きく、グラファイト層間に進入できない。東京理科大学の実験では、5mAh/gという低い値になったという。これでは二次電池としては使えない。
そこで炭素を高温で焼成し、結晶構造が少ないハードカーボンを負極材に用いたところ、240mAh/gを達成できた。90サイクル時の電池容量の低下も10%以下だったという(図2)。
図2 グラファイトとハードカーボンの違い それぞれの物質の構造(左)とナトリウムイオン二次電池の負極材にそれぞれの物質を用いた場合の電池容量と変化(右)。ハードカーボンを用いることで、性能を大幅に改善できたことが分かる。
ナトリウムイオン二次電池を作り上げるには、負極材以外にも適切な正極材と有機溶媒を開発する必要がある。東京理科大学では、NaNi0.5Mn0.5O2(ニッケルマンガン酸ナトリウム)を用いることで、容量122mAh/gを実証した。この材料は、LiCoO2と同じ層状構造になっており、LiCoO2の150mA/gに近い値を実現できた。
ナトリウムイオン二次電池のサイクル寿命は、正極材と負極材の間に満たす有機溶媒にも依存する。実験の結果、C4H6O3(炭酸プロピレン)がサイクル寿命に優れ、C3H4O3(炭酸エチレン、EC)とC5H10O3(炭酸ジエチル、DEC)の混合物がそれに次ぐ。いずれも既存の材料であり、低価格で入手できる。有機溶媒にNaPF6(ヘキサフルオロリン酸ナトリウム)を溶かして利用する。
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