コグニティブ無線実用化へ大きな一歩、NICTが大規模な実証実験を開始:無線通信技術 コグニティブ無線
2010年9月1日、このコグニティブ無線通信技術の実用化に向けて、大きな弾みとなるであろう新たな取り組みが始まった。情報通信研究機構(NICT)が社会実証実験を開始し、藤沢や茅ヶ崎に設置した合計500台のコグニティブ無線ルータを、一般利用者に開放する。
利用する無線通信方式をその時々の無線端末の状況に合わせて動的に変える「コグニティブ無線通信技術*1)」…。電波資源のひっ迫という今後避けられない課題を解決する切り札とされている。
2010年9月1日、このコグニティブ無線通信技術の実用化に向けて、大きな弾みとなるであろう新たな取り組みが始まった。情報通信研究機構(NICT)が社会実証実験を開始し、藤沢や茅ヶ崎に設置した合計500台のコグニティブ無線ルータ(図1)を、一般利用者に開放する。
コグニティブ無線通信に関する要素技術の研究開発は、着実に進んできた。しかし、基礎的な実証実験はあったものの、規模の大きな社会実証実験は実施されていなかった。これまで、規模の大きなコグニティブ無線通信システムを稼働させた前例がないことが、コグニティブ無線通信システムを実用化する上で、障壁になっていたのである。
図1 コグニティブ無線に対応したルータ コグニティブ無線ルータを設置用ボックスに格納した様子。中央部の機器が無線ルータ。右側は、USB接続の無線通信モジュールである。NTTドコモの携帯電話通信網または、イー・モバイルの携帯電話通信網、ウィルコムのPHS通信網を使って、インターネットに接続する。
実証実験では、構築したコグニティブ無線システムが安定して稼働することを確認する。例えば、コグニティブ無線システムを稼働させたことで、既存の携帯電話通信網に悪影響を与えないことや、逆に既存の携帯電話通信網から影響を受けないことを検証する。さらに、コグニティブ無線システムを事業化してサービスとして運用するとき、重要となる項目を見つけ出す取り組みも進める。
「これだけ規模の大きな実証実験は世界初。将来、仮想移動体サービス事業者(MVNO)などがコグニティブ無線システムを事業化することを見据え、我々が前例を作る」(NICTの新世代ワイヤレス研究センターユビキタスモバイルグループのグループリーダーである原田博司氏)と語った。
管理サーバがルータを最適制御
今回構築したコグニティブ無線通信システムは、藤沢市などに設置した500台のコグニティブ無線ルータと、神奈川県横須賀市のNICT新世代ワイヤレス研究センター内に設置した管理サーバで構成した(図2、図3)*2)。
一般利用者は、PCやゲーム機など無線LAN対応機器を、コグニティブ無線ルータを介してインターネット接続できる。コグニティブ無線ルータは、NTTドコモの携帯電話通信網と、イー・モバイルの携帯電話通信網、ウィルコムのPHS通信網に接続可能で、その時々の電波環境に合わせて、最適な方式を選びインターネットに接続する。
最適な無線通信方式を選ぶ際に活躍するのが管理サーバである。コグニティブ無線ルータは、データのスループットや、周囲との干渉状況といった情報を収集する*3)。一方の管理サーバは、コグニティブ無線ルータが収集した情報を集約し、解析する。コグニティブ無線システム全体のスループット向上や、周囲の無線端末との相互干渉の抑制といった観点で、それぞれのルータを最適制御する仕組みだ。「最適制御には、NICTが開発したアルゴリズムを使っている」(同グループの専攻研究員である石津健太郎氏)という。
コグニティブ無線が秘めた可能性
前出の原田氏は、「コグニティブ無線通信システムが広がれば、産業構造をがらりと変える可能性を秘めている。仮想移動体サービス事業者が、通信事業者(キャリア)を選ぶ時代がくるかもしれない」と語った。
コグニティブ無線システムは、次世代の無線通信インフラの候補であると同時に、災害時に仮設する無線通信インフラとしても有効である。アクセスが集中した通信回線の負荷を自律的に分散するような仕組みになっていることに加え、無線ルータの設置作業が容易だからだ。前述のように、コグニティブ無線システムは複数の無線通信方式の中から最適な方式を選ぶ。このため、従来のように無線基地局やルータの設置場所を厳密に検討して決める「置局設計」は不要だという。
実証実験は、2012年3月31日に終了する予定である。終了後は、コグニティブ無線システムを事業化する企業に、技術移転することも検討している。また、大学などの研究機関にも蓄積した情報を提供する。
なお現在、NICTは実証実験への参加希望者を広く募集している。NICTのウェブサイトに必要情報を登録することで参加できる。参加費用や通信費用は無料である。
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