アジレントがモジュール計測器に本格参入、NIと直接競合せずシェア獲得狙う:テスト/計測 モジュール式計測器
計測器メーカー大手のアジレント・テクノロジーが、モジュール型計測器に本格的に参入する。デジタイザ(A-D変換モジュール)や任意波形発生器、オシロスコープ、ベクトルシグナルアナライザ(VSA)など、機能が異なるモジュール合計47機種を2010年9月14日に一挙に発売し、出荷も即日開始した。
計測器メーカー大手のアジレント・テクノロジーが、モジュール型計測器に本格的に参入する。デジタイザ(A-D変換モジュール)や任意波形発生器、オシロスコープ、ベクトルシグナルアナライザ(VSA)など、機能が異なるモジュール合計47機種を2010年9月14日に一挙に発売し、出荷も即日開始した(図1)。
これまで同社の計測器事業はワンボックス型の単体計測器が中心で、モジュール型は各種のワンボックス型を主力製品とするそれぞれの事業部が個別に開発しており、機種数も限定的だった。そのため従来のモジュール型は、「売り上げ規模の具体的な数字は公表していないが、当社にとってあまり大きなビジネスではなかった。市場シェアについても、数%(1けた台)の真ん中くらいにとどまっていた」(同社の電子計測本部 マーケティングセンタでマーケット・ディベロップメント・マネージャを務める犬飼 清氏)という。今回の本格参入では、全モジュール製品を一手に担う新事業部を設立するとともに、前述の通り豊富な機種を取りそろえた。同社は今後も製品の拡充を進め、モジュール型の市場シェアを「5年後に最低20%まで高める」(同氏)ことを目指す。
アジレントは、モジュール型への本格参入を決断した理由を次のように説明する。「電子計測器全体の市場は、年間成長率が5〜10%と穏やかで、すでに成熟している。これに対しモジュール型は、PXI(PCI規格をモジュール計測器向けに拡張した仕様)対応機の市場が同20〜30%と、成長著しい。実際に、この市場の『巨人』であるナショナルインスツルメンツは、2000年度まで24年間連続で売上高の2けた成長を遂げている」(同社 代表取締役社長の梅島正明氏)(図2)。こうした成長市場に、適切な製品を投入できれば、売り上げ規模の拡大が期待できるというわけだ。
NIとの直接競合を避ける
ただしアジレントも認識している通り、モジュール型の市場では現在、ナショナルインスルツメンツ(NI)が圧倒的なシェアを握っている。PXI市場でのNIのシェアは6割程度に達するという市場調査もある(上の図2を参照)。しかもNIは、モジュール型の計測ハードウエアのみならず、それらのハードウエアを組み合わせて計測システムを構築する際に不可欠なソフトウエア開発環境として、「NI LabVIEW」も提供しており、すでに広く普及している。こうした状況で、モジュール型への本格的な取り組みでは後発となるアジレントがNIからシェアを奪うのは簡単ではない。
これに対しアジレントは、モジュール型の計測ハードウエアについては、「高性能」を特徴として打ち出し、NIとの製品分野の重複を避けて差別化を図る(図3)。計測ソフトウエア開発環境については、「当社独自の製品を投入するのではなく、市場ですでにデファクトスタンダードとして受け入れられているソフトウエア開発環境をオープンにサポートする」(犬飼氏)という方針だ。
図3 アジレントとNIが供給する製品群の比較イメージ 縦軸は「性能」、横軸は「製品種類の幅」である。アジレントによれば、「ナショナルインスツルメンツ(NI)の方が製品は多い。当社もモジュール製品を投入するが、完全に競合するわけではなく、マイクロ波分野など、異なった分野もターゲットにしている」という。
モジュール型計測ハードウエアの新規格に対応
計測ハードウエアの差別化としては、次の3点で高性能を訴求する。
1つ目は、高性能ハードウエアの新たな標準規格「AXIe(AdvancedTCA Extensions for Instrumentations and Test)」に対応するモジュールを業界で初めて製品化したことだ。AXIe規格は、通信機器のハードウエア規格「AdvancedTCA」を計測器向けに拡張したもので、2010年7月に最初の規格が業界団体「AXIeコンソーシアム」によって承認された。「旧来規格であるPXIは電力容量が低いため、消費電力が大きい計測機能はモジュール型で提供できなかった。当初は低い周波数を扱う用途に向けて策定された規格なので、電磁的なシールド特性が低いという課題もある」(犬飼氏)。
AXIeでは、PXI規格およびPXIe規格(PXIの拡張版)との互換性を維持しながらも、こうした課題を解決し、さらに高性能の計測機能を実現できるという。例えば、モジュールを収容するシャーシの1スロット当たりの電力供給能力がPXIe規格では30Wにとどまっていたのに対し、AXIeでは200Wを確保した。AXIeに対応した具体的な製品としては今回、2スロットシャーシの「M9502A」と5スロットシャーシの「M9505A」のほか、PCI Express Gen3向けのシグナルアナライザ・モジュール「U4301A」を投入した(図4)。
2つ目は、NIなど各社が豊富な製品をすでに供給し、市場で広く普及しているPXI対応モジュールの分野で、バックプレーンの伝送技術にPCI Express Gen2を採用したことだ。ホストコンピュータに接続するスロット(システムスロット)との間のデータ転送速度は8Gバイト/秒、計測モジュールを収納するスロット(周辺スロット)は同4Gバイト/秒と高い。今回アジレントが発売した製品は、PXIe対応の18スロットシャーシ「M9018A」である。全18スロットのうち16スロットについては、PXIe対応モジュールとPXI対応モジュールをどちらでも収容できる、いわゆるハイブリッドスロットである。「16個ものハイブリッドスロットを備えたシャーシは業界初だ。計測システムの拡張性を高められる」(同氏)という。
3つ目は、アジレントがワンボックス型で得意とするマイクロ波計測の技術を、モジュール型にも生かしたことだ。具体的には、測定周波数が最大26.5GHzと高い、変調解析機能搭載スペクトラムアナライザ(ベクトルシグナルアナライザ)「M9392A」を用意した(図5)。機能が異なる5個のPXIモジュールを組み合わせることで、ベクトルシグナルアナライザの機能を実現している。アッテネータ/プリセレクタ、ローカル発振器、RFダウンコンバータ、マイクロ波ダウンコンバータ、IFデジタイザの5個のモジュールを単一のシャーシに格納したマルチモジュール機だ。
「単一のメーカーとして、これらのモジュールをすべて提供するのは当社が初めて。これまでは例えばNIのモジュールに一部他社のモジュールを組み合わせなければ、26.5GHz対応ベクトルシグナルアナライザを構成できなかった」(同氏)という。さらに今回のベクトルシグナルアナライザでは、250MHzと広い解析帯域幅も実現した。掃引には対応していないものの、帯域幅については「ワンボックス型も含む当社のスペクトラムアナライザで最大」(同氏)である。
LabVIEWもMATLABもオープンにサポート
計測ソフトウエア開発環境については、アジレントのグラフィカル開発環境「Agilent VEE」に加えて、NIのLabVIEWや「LabWindows/CVI」のほか、マスワークスの「MATLAB」や、マイクロソフトの「Visual Studio」など、他社が提供し、すでに広く普及しているソフトウエア開発環境をサポートする(図6)。ユーザーはこれらの開発環境を使って、アジレントのモジュールを利用した計測アプリケーションソフトウエアを作成できる。アジレントが旧来からワンボックス型の計測に向けて提供していた計測/解析アプリケーションソフトウエアも利用可能だ。
さらにアジレントの計測モジュールは、IVI-CやCOM、.NET、LabVIEW Gドライバといった、他社のモジュール機器に向けて提供されているドライバ群もサポートするという。他社のモジュール機器で構成する既存の計測システム向けに作成したアプリケーションソフトウエアを、アジレントの計測モジュールを使った計測システムに流用しやすい。
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