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BenQの電子ブックリーダー、電気泳動ディスプレイはE-Ink製にあらず製品解剖

エレクトロニクス機器は、時として非線形に進化するように見える。ほとんどの消費者は、電子書籍の専用端末(電子ブックリーダー)を最近になって登場した製品だととらえているだろう。実際には、この製品分野の種はかなり以前にまかれていた。

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 エレクトロニクス機器は、時として非線形に進化するように見える。ほとんどの消費者は、電子書籍の専用端末(電子ブックリーダー)を最近になって登場した製品だととらえているだろう。実際には、この製品分野の種はかなり以前にまかれていた。長い間忘れられていたが、SoftBook Pressの「SoftBook」は最も初期の電子書籍端末の1つで、1998年には米EE Times誌の分解記事でも取り上げている。

 その後8年ほど経つと、2006年にはソニーが電子書籍端末「Sony Reader PRS-500」を米国市場に投入した。ソニーは消費電力の低さと読みやすさを特徴とするE Inkの電気泳動ディスプレイ(EPD)を、市販品として初めて採用した。

 それでも、消費者の電子書籍端末への関心は依然として限定的だった。ただし、大手オンライン書店であるAmazon.comが2007年後半に「Kindle」を投入して市場に参戦すると、電子書籍端末の普及が本格化し始めた。

 Amazon.comはその後の数年間で初代Kindleの改良機を複数発表し、2009年には同社の主要なライバルである大手書店のBarnes & Nobleが自社の電子書籍端末である「NOOK」を投入した。2010年半ばの時点で、電子書籍端末のサプライヤーは増加の一途をたどっている。いくつかのブランドはほかに比べて存在感が増しており、製品を発表した段階のブランドもあれば、すでに出荷を始めているものもある。

 当社(UBM TechInsights)がこれまでに発行した電子書籍端末の分解/分析リポートも参照してほしい。www.ubmtechinsights.comで提供しており、Sony Readerはレポート番号6253、Kindleはレポート番号6305である。

機能面では既存品と重複感

 本稿では、電子書籍市場に新規参入した台湾の家電メーカーBenQの「K60」を見てみよう(図1)。アジア市場を主なターゲットにしており、無線通信機能は無線LAN(Wi-Fi)のみに対応した。

図1
図1 BenQが投入した電子書籍端末「K60」の外観と内部構造 ディスプレイは、電気泳動ディスプレイ(EPD)の上にタッチパネルを重ねた構造を採る。電気回路は1枚のプリント基板にまとめた。

 先行する他社製品との比較は避けて通れない。K60の主な機能は、そのほとんどがすでにAmazon.comやソニー、Barnes & Nobleの電子書籍端末が備えているものだ。K60も、現在ではすっかり普及した電気泳動ディスプレイを採用しており、グレースケール16階調の6.1インチ型を搭載している。電子書籍端末のみならず、ディスプレイをメインに据えたほかの機器でもタッチコントロールの人気が高まっていることを受けて、BenQのK60は電気泳動ディスプレイの上に静電タッチパネルを重ね合わせた。ただし、端末の下部と右側面には機械式のコントロールキーも配置している。

 書籍データを読み込むインターフェイスとしては、USBとIEEE 802.11b/g対応のWi-Fiを搭載した。このほか、microSDカードスロットも備えているが、メモリカード自体はエンドユーザーが用意する必要がある。

部品サプライヤーは大きく異なる

 エンドユーザーの視点から見ると、BenQのK60の主な差別化要素は、Google Booksで見つかる英語の出版物に加え、中国語と日本語の出版物を簡単にダウンロードして購入できることくらいだと思われる。しかし、機器を分解してみると、部品レベルでは状況がまったく異なっていた。つまり、K60の部品を供給するサプライヤーに関しては、電子書籍端末で先行する競合他社との共通点はほとんどないようだ(図2)。

図2
図2 部品サプライヤーはユニークな顔ぶれ K60の内蔵基板である。この基板に実装された部品を供給するサプライヤーの顔ぶれは、先行する競合他社の電子書籍端末とは大幅に異なる。

 現在の電子書籍端末の特徴は、電気泳動ディスプレイを利用した、ほとんどグレアの無い「電子ペーパー」を使っていることだ。そうした電気泳動ディスプレイは、最近までE-Inkがほぼ独占的に供給していた。ところがK60の電気泳動ディスプレイは、液晶ディスプレイの巨大企業であるAU Optronics(AUO)の傘下にあるSiPix Imagingが製造した800×600画素品である。この電気泳動ディスプレイの上に、PIXCIR Microelectronicsのガラス製静電タッチパネルが直接接着されていた。

 AUOのブランドロゴが記載されたモジュールには、PIXCIR Microelectronics製タッチスクリーンコントローラIC「Tango S32」が2個搭載されており、その出力データはアトメルの8ビットマイコン「ATmega168PA」を介してクロックに同期した状態で取り込まれている。一方、電気泳動ディスプレイのドライバは、液晶ドライバICなどを手掛けるOrise Technologyの製品だ。ただし型名は不明である。

メインプロセッサはサムスン製

 K60のアプリケーションプロセッサは、サムスン電子の32ビット/16ビットARM9プロセッサ「S3C2416」だ。この電子書籍端末の回路は1枚のプリント基板にまとめられており、サムスンのプロセッサチップも当然その基板に実装されている。

 プロセッサの周辺には、ハイニックス・セミコンダクターのDDR2 SDRAMパッケージ「H5MS1G62MFP」と、サムスン電子が同社のスマートフォン「Samsung Wave」にも使っているMLC NAND型フラッシュメモリ「KLM2G1DEDD」がそれぞれ別のパッケージで搭載されていた。

 Wi-Fiは、Universal Scientific Industrial(USI)のモジュール「WM-G-MT-03」のようだ。このドロップインタイプのサブシステムには、メディアテックのIEEE 802.11b/g対応Wi-Fiチップ「MT5921」が採用されている。メディアテックのこのシングルチップ品は、中国の携帯電話機で使わることが多いため、BenQ製の電子書籍端末での採用はさほど驚くことではない。また、このWi-Fiチップには、Silicon Storage Technologyのパワーアンプ「SST12LP14E」と、ルネサス エレクトロニクスのGaAs(ガリウムヒ素)SPDTスイッチIC「μPG2158」、セイコーインスツルのシリアルEEPROM「S-93L66A」が組み合わされている。

FPGAでASIC開発の負担を回避

 AUOブランドの電気泳動ディスプレイコントローラ「AUO-K1900」には、SiliconBlue Technologiesの低消費電力FPGAが内蔵されていた。新型のディスプレイに対応するコントローラを、カスタムASICを設計せずに実現するために、FPGAを採用したとみられる。なおSiliconBlueは、モバイル機器とコンシューマ機器の市場に注力する新興のFPGAベンダーである。このディスプレイコントローラにはこのほか、Macronix Internationalのシリアルフラッシュメモリ「MX25L8005M2C」「MX25L4005A」と、Etron TechnologyのSDRAM「EM686165」も組み込まれていた。

電源回りはTIが独占

 次に、アナログ部品について見てみよう。電源管理の主な部品を提供しているのはテキサス・インスツルメンツ(TI)だ。2次電池の充電は、同社がリチウムイオン2次電池向けに提供する1.5A出力の充電IC「BQ24075」を使ってUSBポート経由で行われ、主な電源系統の供給は同社のシステム電源IC「TPS650240」が担う。

 内蔵スピーカーとステレオヘッドフォンジャックは、リアルテックのオーディオコーデック内蔵ステレオパワーアンプIC「ALC5624」に接続されている。BenQグループの勢力範囲を考えると、台湾企業を中心としたこの部品構成は当然であり、サプライチェーンに関しては米国や日本を拠点とする大手メーカーとの重複が少ないことが分かる。

価格はまだ引下げの余地あり

 最後に、価格について検証しよう。K60の店頭価格は約250米ドルで、第3世代携帯電話網への接続に対応していない欧米の標準的な端末よりも若干安いが、ソニーなどが販売するUSBのみに対応する端末とさほど変わらない。

 もちろん、最近になって大手ブランドが比較的低価格で市場に参入してきている状況は、BenQにとっては悩ましいだろう。ただ、筆者が推定するK60の製造コストはハードウエアに限れば100米ドル以下なので、販売価格をさらに引き下げる余地はまだ残されていると思われる。

 ハードウエア部品の中では、当然ながらSiPix Imagingの電気泳動ディスプレイとPIXCIR Microelectronicsのタッチパネルを組み合わせたモジュールが最もコストが高い。電気泳動ディスプレイでのコスト削減に加えて、可能な限り標準部品を使うという方策や、ASICの代わりにFPGAを使うなど、コストを低く抑える工夫は随所に見られる。

 特に最近のiPad主導の「タブレット」現象を踏まえると、世界の消費者がタブレットとは別に電子書籍端末を求めているかどうかについては議論の余地があるが、今のところ、BenQは少なくとも局地的には成功するように見える。

 電子書籍端末全般について考えてみると、この種の端末は目に優しい電気泳動ディスプレイを採用するなど、「書籍を読む」という目的に向けて専用に作られた端末である。用途を絞った比較的性能が低い機器なので、コスト構造は本質的に低い。この点はタブレットとは大きく違う。

 とはいえ、電子書籍端末の業界は今、全体的に重要な岐路に立っていると言えそうだ。このように用途を絞った機器は、そのニッチな市場を、比較的高価だが柔軟性があるタブレットの立ち上がりの波から守ることができるのだろうかどうか。現時点ではまだ分からない。

Profile

David Carey氏

UBM TechInsightsの技術情報部門担当バイスプレジデント。電子機器の分解/分析や、半導体デバイス情報、関連産業調査のプロデューサーを務めている。同社WebサイトのURLはhttp://www.ubmtechinsights.com/。


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