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番外編 基板から不可解な音が聞こえる、コンデンサが震えていた理由は…Analog ABC(アナログ技術基礎講座)(3/3 ページ)

事件は、工場の職長さんからの電話で始まりました。「おい美齊津くん、君が設計したモジュールにはセミでも入っているのか?」。「セミですか? そんなもの、入れていません」。「だって、恒温槽の中でモジュールがビービーと鳴いているぞ!」。

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位相特性を詳細に解析

 仕方なく、位相特性の1次傾斜の状態を詳細に解析することにしました(図2)。半導体レーザーの温度は、ペルチェ素子を使って変え、温度変化はサーミスタ素子を使って検出します。ペルチェ素子とは電流を流すと素子の両端に温度差が発生する素子。サーミスタ素子とは温度変化によって、抵抗値が大きく変化する素子です。ですので、ペルチェ素子の電流変化と、サーミスタの抵抗値変化という伝達関数を測定することになります。

図2
図2 利得特性と位相特性それぞれの設計値と実測値の比較 利得特性と位相特性を詳細に実測したところ、利得が0dBのときの位相はほぼ0度になっており、位相余裕がまったく無いことが分かりました。これが、温度制御回路が発振してしまっていた理由です。

 

 測定する周波数範囲は、0.1Hz〜100kHz付近まで。0.1Hzというとほぼ直流です。当時は、これほど低い周波数の特性を測定できるネットワークアナライザーはありませんでした。データロガー(ロール紙の上にペンで特性変化の軌跡を書くもの)が必要になり、社内のいろいろな部署を回って何とか調達しました。

 入力した波形の振幅と位相に対して、出力波形の振幅と位相がどのように変化しているかを、紙の上に描かれた正弦波を正確に読み取ってグラフにしました。このようにグラフ化した結果、10Hz程度までは位相特性の実測とシミュレーション結果が一致しているのに対して、10Hzを過ぎた付近から2次傾斜の要素が出てきました。400Hz付近では、利得特性が2次傾斜になってしまっていました。これでは、振幅が0dBになる前に位相が反転し、発振してしまいます。

「セミ事件」が教えてくれたこと

 現象が分かれば、対策できます。2次傾斜になる100Hz付近に効果を発揮する位相補償回路を追加することにしました。もうセミは鳴かなくなりましたが、なぜ400Hz辺りで利得特性が2次傾斜になってしまったのか、今でも謎のままです。恐らく、温度が変化してから、サーミスタの抵抗値が変わるまでに、時間が掛かるためだと考えています。

 電子回路以外のサーミスタ素子やペルチェ素子といったデバイスの動作や時定数も面倒を見なくてはいけないということと、周波数が低すぎるとかえって測定が難しくなることを教えてくれた「セミ事件」でした。

「Analog ABC(アナログ技術基礎講座)」連載一覧

Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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