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第24回 MOSFETの基本を理解するAnalog ABC(アナログ技術基礎講座)(2/2 ページ)

今回からは、バイポーラトランジスタよりも広く使われている「CMOSトランジスタ」に注目して、特徴や利点、欠点などを紹介していきます。

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回路の動作でドレイン/ソースが決まる

 MOSFETは、以下のような順番で電圧や電流が決まります(図2(a))。


(1)ドレインに電圧が掛かる。

(2)ゲートに電圧を掛ける。

(3)ゲート-ソース間電圧Vgsに応じた電流が、ドレインに流れる。

(4)負荷抵抗(R1)とドレイン電流の値によって、ドレイン電圧が決まる。

図2
図2
図2 MOSFETの動作の順番と構造 (a)は、どのような順番でMOSFETの電圧や電流が決まっていくのか示しました。(b)は、MOSFETの物理構造です。n型のMOSFETでは電圧が低い方がソースになり、一方のp型のMOSFETでは電圧が高いほうがソースになります。これは、回路の動作の状態によってドレインとソースが入れ替わることを意味します。

 ドレインとソースは水道管の入り口と出口に対応し、ゲートはその名のごとく水道管を流れる水を調節するバルブと思えば理解しやすいかもしれません。MOSFETで面白いのは、図2(b)のようにソースもドレインも同じ構造なので、どちらがドレインかソースかどうかは、構造的に決まっていないことです。

 では「誰が」ソースとドレインを決めているのでしょうか。それは、電圧がソースとドレインを決めるのです。つまり、n型の場合は電圧が低い方がソースになり、一方のp型では電圧が高いほうがソースになります。これは、回路の動作の状態によってドレインとソースが入れ替わることを意味します。バイポーラトランジスタでは起こりえないことで、このことを知ったときは衝撃的でした。

 図3(a)に、n型MOSFETのゲート-ソース間電圧Vgsとドレイン電流Idの関係を示しました(ドレイン電圧は5Vで一定)。ある値のVgsから急に電流が増えるグラフの形になります。急に電流が増える地点の電圧は、「しきい値電圧」、または「オン電圧」と呼びます。

図3
図3
図3 MOSFETの基本特性 (a)はゲート-ソース間電圧Vgsに対するドレイン電流Idの変化。(b)は、ドレイン-ソース間電圧Vdsに対するドレイン電流Idの変化を示しました。Vgsを0.7V〜1.3Vの範囲で、0.1V刻みで変化させました。飽和領域と線形領域の境目のVdsは、「Vgs−Vt」となります。

 図3(b)は、ゲート-ソース間電圧Vgsをパラメータとして設定し、ドレイン-ソース電圧Vdsとドレイン電流Idの関係を示しています。ドレイン-ソース電圧Vdsがある一定値以上に増えると、ドレイン電流Idの値がほとんど変わらず一定になっていることが分かります。

 このグラフの形が平坦な領域は、Vdsが変化しても電流値が変わらない電流源として動作しており、「飽和領域」と呼びます。通常は、この飽和領域を使います。逆に、Vdsが低く、Vdsの変化に応じてIdが変化する領域は、「線形領域」と呼びます。本連載の第5回「トランジスタには接続方法が3つ」で説明した、バイポーラトランジスタの「飽和領域」とは、まったく逆なので、要注意です。

 MOSFETを使って増幅器などを設計するときは、バイポーラトランジスタと同じようにVdsが高い飽和領域を使います。これに加えて、バイポーラトランジスタとは異なり、線形領域を使って、MOSFETを可変抵抗として動作させられることが、MOSFETの大きな特徴です。

 ドレイン電流の近似式を、(1)式と(2)式にまとめました。線形領域と飽和領域では当然のことながら、近似式は異なります。線形領域では、以下の(1)式でドレイン電流の変化を近似します。

 飽和領域では、以下の(2)式でドレイン電流の変化を近似します。

  • Vt:しきい値電圧
  • K’:μnCOX:n型MOSの場合
  • K’:μpCOX:p型MOSの場合
  • COX:単位面積あたりのゲート酸化膜容量
  • μn:電子の移動度
  • μp:正孔の移動度
  • λ:チャネル変調効果係数
  • W/L:MOSFETの構造で決まる係数

 飽和領域では、ドレイン電流Idが、ゲート-ソース間電圧Vgsの2乗の関数になっている事に気づいたでしょうか。図3(a)のグラフの形を参考にして下さい。バイポーラトランジスタでは、コレクタ電流Icは、ベース-エミッタ電圧Vbeの指数関数になっていました。これに対して、MOSFETは2乗の関数なので、ドレイン電流Idの変化はバーポーラトランジスタほど激しくありません。このことは、高い利得を得るためには、バイポーラトランジスタのほうが有利であることを示しています。

表1
表1 バイポーラトランジスタとMOSFETの違い

 MOSFETとバイポーラトランジスタとの差異を、表1にまとめました。次回は、MOSFETを使った増幅器を紹介します。

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Profile

美齊津摂夫(みさいず せつお)

1986年に大手の通信系ハードウエア開発会社に入社し、光通信向けモジュールの開発に携わる。2004年に、ディー・クルー・テクノロジーズに入社。現在は、同社の常務取締役CTO(最高技術責任者)兼プラットフォーム開発統括部長を務めている。「大学では電気工学科に所属していたのですが、学生のときにはアナログ回路の勉強を避けていました。ですから、トランジスタや電界効果トランジスタ(FET)を使ったアナログ回路の世界には、社会人になってから出会ったといっていいと思います。なぜかアナログ回路の魅力に取りつかれ、23年目になりました」(同氏)。


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