顧客をわくわくさせる魅力的な高性能アナログICを引き続き、提供していく・・・。リニアテクノロジーは、2010年12月17日に報道機関向け事業説明会を開催し、高性能アナログICの製品群で、産業/計測と無線通信インフラ/ネットワーク機器、自動車という3分野に注力していくことを、あらためて強調した。
登壇したのは、同社のExecutive ChairmanのBob Swanson氏と、CEOを務めるLothar Maier氏、日本法人の代表取締役である望月靖志氏である(図1)。
CEOのMaier氏は、「ファースト」という言葉を使いながら、「競合他社がまだ製品化していない特色ある高性能アナログICを、他社に先駆けいち早く市場に投入し続ける」ことを強調した。ここでいう「特色」とは、競争力のある価格といった観点ではなく、顧客の課題を解決するという観点に基づく。例えば、消費電力が小さいことや、外付け部品を大幅に減らせること、実装面積を削減できることといった視点である。
同社が注力する3分野では、さまざまな新市場が立ち上がりつつある。事業説明会では、新たな顧客要求に応える高性能アナログICについて、具体例を挙げながら特徴を説明した。
設立当初から高性能アナログに集中
リニアテクノロジーのExecutive ChairmanであるSwanson氏は、同社を設立した1981年当時にさかのぼり、同社のアナログICの歴史を振り返った。
1980年代は、デジタル技術の夜明けと言われていた時代だった。デジタルICがゆくゆくはアナログICを置き換えていくと考えられていて、アナログ技術の未来に疑問符がついていた時代なのだという。このような状況にもかかわらず、Swanson氏を含む創立者は、「先進的なアナログICが不可欠になる時代が来ることを確信していた」(Swanson氏)と語った。さまざまな電子機器のシステム全体の中で設計が特に難しいのがアナログICのブロックであり、ここに集中することで競合他社と差別化できると考えたからだ。
現在の全世界の半導体製品の市場規模は2800億米ドルで、アナログICの市場規模は420億米ドル(図2)である。同社が対象としている高性能アナログICの市場は、そのうちの100億米ドル〜140億米ドル。この市場で確固たる立ち位置を確立しようというのが、設立当時から変わらない同社の戦略である。
図2 リニアテクノロジーが注力する高性能アナログIC市場
現在の全世界の半導体製品の市場規模は2800億米ドルで、アナログICの市場規模は420億米ドル。同社が対象としている高性能アナログICの市場は、そのうちの100億米ドル〜140億米ドルである。
電気自動車やエネルギーハーベスティングの市場に期待
前述の通り、リニアテクノロジーは現在、産業/計測と、無線通信インフラ/ネットワーク機器、自動車という3つの分野に焦点を当てている(図3)。産業/計測や無線通信インフラ/ネットワーク機器という分野の市場規模の伸び幅は、民生機器の分野に比べると小さいように思える。しかし、3つの分野ではさまざまな新たな市場が立ち上がっており、同社の高性能アナログICが活躍する用途が数多くあるという。
まず、産業/計測分野の新市場として、エネルギーハーベスティング(環境発電)技術を応用したセンサーや、可搬型の医療機器を挙げた。同社は、エネルギーハーベスティング技術を採用したワイヤレスセンサーに向けた電源ICを、業界で初めて量産している。
一般に、産業/計測分野では、寸法が小さく消費電力の小さい電源部品の要求が強い。機器の多機能化と小型化という相反する仕様を満たす必要があるからだ。このような要望に向けては、1つの機能を実現するために必要な半導体部品や受動部品を1つのパッケージに詰め込んだ「μModuleシリーズ」を開発した。現在、40品種を製品化しており、今後も継続して新品種を市場投入する計画である。
図3 リニアテクノロジーの売上高比率
2010年会計年度(2009年5月〜2010年6月)の売上高割合である。産業/計測分野が36%と最も大きく、その次に無線通信インフラ、ネットワーク機器と続く。今後は、自動車の分野の伸びに期待しているという。
次に、無線通信インフラ/ネットワーク機器分野では、スマートフォンやタブレットPCといったモバイル機器の普及が、無線通信インフラ/ネットワーク機器の市場を伸ばすという。新興国では3G携帯基地局を構築する需要が高い。しかも今後は世界各国で、4G/LTEに対応した無線基地局が広がる見込みだ。この市場に向けては、前述のμModuleシリーズや、高速のA-D変換器IC、D-A変換器ICなどを用意した。
最後に、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)という新市場を対象に、例えば、最大12個のバッテリ・セルを個別に監視可能なモニタIC「LTC6802」などを製品化した。LTC6802の次世代品の開発も進めており、間もなく発表する予定だ。このほか、バッテリーセルモジュールからより多くの電力を取り出すことができる「ACB(Active Cell Balancing)」技術の開発も進めているという。
競争力の源泉は「アナログ・エキスパート」
「魅力的な高性能アナログICを開発する源泉は、アナログ設計者の質と発想力だ。決して、頭数ではない」。リニアテクノロジーのCEOを務めるLothar Maier氏は語る。将来の市場ニーズを把握する力と、把握した市場ニーズに応えるアナログICを生み出す力の両方が、アナログ設計者には欠かせないのだという。
将来の市場ニーズを把握するのは、簡単なことではない。アナログICを採用する顧客の側が、明確な要求を持っているとは限らないからだ。ぼんやりとした市場ニーズをいかに形にするか・・・。同社では、300人のアナログ設計者のうちわずか10%のアナログ・エキスパートそれぞれが、ひとりで10社を超える顧客を訪問し、それぞれの課題を聞く。その上で、各企業の課題を集約し、汎用アナログICで共通して解決可能な部分を見つけ出す。このとき、「帯に短し、たすきに長し」という汎用アナログICにならないよう、最適な仕様を決められることが、同社の強みだという。
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