「シリコンもグラフェンも超える」、新たな半導体材料をスイスの大学が発表:プロセス技術 グラフェン
二硫化モリブデンは、二次元方向に広がる層状の結晶構造を備えているため、結晶構造が3次元のシリコンよりも、膜状に加工しやすい。さらにバンドギャップを備えているためにグラフェンよりも扱いやすい。
スイスの大学であるEcole Polytechnique Feaderale de Lausanne(EPFL)の研究グループは、モリブデナイト(二硫化モリブデン、MoS2)を半導体材料として利用できることを発見したと発表した。同グループによれば、MoS2を用いたトランジスタは現在主流の半導体材料であるSi(シリコン)を用いる場合に比べて消費電力が10万分の1と小さい上、トランジスタのサイズを大幅に小型化できるという(図1)。
EPFLによると、MoS2はバンドギャップを持たせることが可能なため、次世代の半導体材料としてグラフェンにも勝るという(参考記事:IBM社、グラフェンFETにバンドギャップを持たせることに成功)。
図1 モリブデナイトを使った超低消費電力FET モリブデナイト(二硫化モリブデン、MoS2)を使った超低消費電力の電界効果トランジスタ(FET)である。高誘電率ゲート酸化膜(HfO2)を用いたSOI(Silicon On Insulator)基板上で、モリブデナイトがFETのチャネル部として機能する。
MoS2は地球上に豊富に存在する鉱物であり、これまでにも合金鋼や潤滑油の添加剤として使われてきた。ただしEPFLによれば、MoS2が次世代の半導体材料として機能することを確認したのは今回が初めてだという。この研究は、同大学のLaboratory of Nanoscale Electronics and Structures(LANES)が実施した。
EPFLの教授であるAndras Kis氏は、「MoS2は、トランジスタや発光ダイオード(LED)、太陽電池などを飛躍的に小型化できる現実的な可能性を秘めている」と述べる。
同氏によると、MoS2の重要な特性は、二次元方向に広がる層状の結晶構造を備えている点である。このため、結晶構造が3次元のシリコンとは異なり、MoS2は厚みの薄い膜状に加工しやすい。例えば、比較的厚い2nmのシリコン層と同程度の電子移動度を、MoS2では6.5オングストローム(0.65nm)の厚みで実現でき、比較的簡単に製造できるという。
さらに、グラフェンはバンドギャップを持たないが、MoS2は1.8eV(電子ボルト)のバンドギャップを有している。GaAs(ガリウム・ヒ素)の1.4eVとGaN(窒化ガリウム)の3.4eVとの中間に位置する値だ。このためMoS2を使えば、電子的な機能と光学的な機能の両方を備えた半導体チップを実現できる可能性もあるという。
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