「これは新概念の組み込みハード基盤」、ザイリンクスがARM集積FPGAの詳細を発表:プログラマブルロジック FPGA
ザイリンクスは2011年3月1日、アームのプロセッサコア「Cortex-A9 MPCore」をハードマクロとして集積するFPGA製品群「Zynq(ジンク)」を発表し、同製品群の第1弾となる4品種の詳細を明らかにした。
「これはFPGAでも、プロセッサでもない。両者の『いいとこ取り』をして生まれた、新たな概念の組み込みプラットフォームである」(ザイリンクスでワールドワイドマーケティング担当シニア バイス プレジデントを務めるVincent Ratford氏)(図1)。
図1 Vincent Ratford氏 ザイリンクスでワールドワイドマーケティング担当シニア バイス プレジデントを務める。Zynqの発表に合わせて来日し、東京都内で開催した報道機関向け説明会に登壇した。
ザイリンクスは2011年3月1日、アームのプロセッサコア「Cortex-A9 MPCore」をハードマクロとして集積するFPGA製品群「Zynq(ジンク)」を発表し、同製品群の第1弾となる4品種の詳細を明らかにした。同社はARMコア集積FPGAのコンセプトやアーキテクチャを「エクステンシブル プロセッシング プラットフォーム(Extensible Processing Platform:EPP)」と呼んで2010年4月にすでに発表していたが、具体的な品種構成や各品種の詳細な仕様についてはその時点では「2011年前半に発表する」として明らかにしていなかった。
今回発表したのは、「Zynq-7000ファミリ」の4品種である。いずれもプロセッサ部の回路構成は同じだ(図2)。すなわち、デュアルコア構成のCortex-A9 MPCoreを中核とし、その周辺に各種機能を統合したプロセッササブシステムを集積した。プロセッササブシステムとしては、メモリインタフェースに加えて、イーサネットやUSBなどの外部インタフェースを搭載する他、アームが規格化している広帯域幅のインターコネクトAMBA 4の「Advanced eXtensible Interface(AXI4)」をFPGA部とのチップ内接続に向けて備えている。
図2 Zynqのプロセッサ部 デュアルコア構成のARM Cortex-A9を中核とし、周辺にプロセッササブシステムを統合した。FPGA部とはAXI4で接続する。FPGA部とのインターコネクトの本数は3000本を超え、その総帯域幅は最大規模品で100Gビット/秒に達するという。
4品種の違いは、FPGA部に備えるユーザープログラマブル論理(FPGAファブリック)の規模やDSPブロックの処理性能、パッケージの入出力端子数などである(図3)。FPGAファブリックの規模の小さい方から順に、ASICゲート換算で43万ゲート相当の品種「Z-7010」、同130万ゲート品「Z-7020」、同190万ゲート品「Z-7030」、同350万ゲート品「Z-7040」である。これらのFPGAファブリックについては、ザイリンクスが28nm世代の半導体プロセス技術で製造する次世代FPGA製品群「7シリーズ」のものをそのまま流用した。DSPブロックの処理性能は、Z-7010が58GMAC、Z-7020が158GMAC、Z-7030が480GMAC、Z-7040が912GMACである(いずれも対称FIR処理を実行した際のピーク性能)。この他FPGA部には、4品種ともに、分解能が12ビットでサンプリング速度が1Mサンプル/秒のA-D変換器も2個集積した。
FPGAでもプロセッサでもない
Zynqの実体は、前述の通り、FPGAとプロセッサを1枚のチップに集積したものだ。ただしザイリンクスはZynqを「FPGAでも、プロセッサでもない」(Ratford氏)と表現する。これは次のような理由だという。
Zynqに電源を投入するとまずプロセッサ部が立ち上がる。この部分は、一般的なFPGAとは異なり、電源投入時にユーザーが定義した回路を構築するコンフィギュレーションは不要である。電源投入後直ちにFPGA部とは独立にOSを稼働させられる。FPGA部は、その後で必要に応じてプロセッサ部からの指示でコンフィギュレーションすればよい。Zynqはこのように動作するため、Zynqで実行するソフトウエアのプログラミングモデルについては、「ARMコアを集積する一般的なマイコンやSoCとまったく同じだ。ARMが分かればZynqが分かる。Zynqを手にしたその日から、アプリケーションのコードを書くことが可能だ」(Ratford氏)(図4)。
一方でZynqのFPGA部は、プロセッサ部の周辺機能を拡張する回路を実装する用途だけでなく、プロセッサ部のソフトウエア処理負荷をオフロードするハードウエアアクセラレータとしても使える。「Zynqの典型的な活用法はこうだ。まずARMコアに向けてアプリケーションソフトウエアを記述する。次に、そのソフトウエアでボトルネックになる処理を見つけ出す。そして、その処理をハードウエアで実行するアクセラレータを設計してFPGAファブリックに実装する。こうした使い方は、一般的なマイコンやSoCでは実現できない」(Ratford氏)。
図4 Zynqを使った組み込みシステムの開発フロー プロセッサ部で実行するソフトウエアと、FPGA部に実装するハードウエアそれぞれの開発を同時並行的に進められる。ソフトウエア開発環境はARMコア向けに各社が提供する豊富なツール群を利用可能だ。Zynq向けに専用のツールを新たに導入する必要は無い。一方、FPGA部についてはザイリンクスのFPGAと同様に、同社の統合開発環境をそのまま使える。
高性能を求める組み込みシステムに好適
Zynq-7000で想定する用途は、「高い処理性能を求める組み込みシステム」(Ratford氏)である。具体的には、自動車に搭載する運転支援システムや、FA機器、放送用カメラ、高機能の監視システム、軍事用無線通信機器、医療用画像装置、オーディオ/ビデオ/放送(AVB)分野のルーター装置やスイッチ装置などである。
例えば車載運転支援システムでは、比較的小規模な品種であるZ-7010とZ-7020が適するという(図5)。「この用途に対応するハードウエアプラットフォームには、車載カメラが出力する大量のビデオデータをリアルタイムに処理する必要があり、DSPとメモリに高い性能が求められる。また、カメラインタフェースの標準規格や運転者支援アルゴリズム技術は進展が速い。そのため、それに追従できる柔軟性も必要だ。さらに、機器メーカーが高いコスト効率で独自の機能を実装できるように、価格も適正なレベルに抑えなければならない。Z-7010とZ-7020は、これらの要件すべてに応えられる」(Ratford氏)。
価格については、例えば最小規模品のZ-7010は百万個規模の大量購入時に15米ドルを切る単価で供給するという。「既存のあらゆるASSPと比べて、競争力のある価格だ」(Ratford氏)と主張する。
早期の採用を検討するユーザー企業に向けてZynqの評価に向けた情報を提供する「アーリーアクセスプログラム」を2010年4月に開始しており、200社以上が登録しているという。このプログラムに登録するユーザー企業に向けて、最初のサンプル品を2011年の後半に出荷する予定だ。一般ユーザーに向けたエンジニアリングサンプル品の出荷は2012年の前半になるとしている。
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