原子の運動を利用した回路実現へ向けて、NISTが基礎実験に成功
脳や心臓などの生体情報を取得できるSQUIDなど超伝導を利用したさまざまな回路や装置が実用化されている。これらの装置は電子の超伝導を利用している。NISTは原子の「超伝導」を使って、電子回路ならぬ原子回路を実現しようとしている。
米国標準基準局(NIST: National Institute of Standards and Technology)によると、超流動と似た挙動を示すボース=アインシュタイン凝縮体となったNa(ナトリウム原子)の循環運動を利用して、他に類を見ない精度を備えたジャイロスコープの回転を追跡できるセンサーが実現できる可能性があるという。
4He(ヘリウム4)のような気体を絶対零度近くまで冷却すると、液化するだけでなく、超流動状態となり、粘性が0になるという現象が起こる。超伝導量子干渉計(superconducting quantum interference device: SQUID)を用いて、超伝導リングの周りにある電子を検出する手法も、この現象の原理と似ている。SQUIDのような原子装置を用いると、微小電気機械システムほどの高い精密さを備えたジャイロスコープが実現できる。
図1 原子回路の動作 超低温Na(ナトリウム)ガスで作った「原子回路」の疑似カラー画像。Na原子の密度が高い部分が赤色で示されていおり、光閉じ込めを利用した「リング」内を回転する様子が示されている。レーザーを使った障壁によってNa原子の動きが止まったところ(図左)と、自由に回転しているところ(図右)を示した。
NISTの研究チームは、メリーランド大学と協力して、超流動状態にあるNa原子の「リング」で形成した世界初の原子回路の実現を目指してきた。レーザーで制御されたバリアを用いて原子の流れをオンオフできる回路だ。今回、研究チームは、Na原子の永久運動を40秒という記録的な長さで継続することに成功した。
NISTは、次世代のアトムトロニクス時代の実現に取り組んでいる。アトムトロニクス時代には、全ての回路素子が原子スケールの構造をもつようになり、量子効果を利用することで、超伝導体や超絶縁体を製造できるようになる。今回のNISTの実証成功により、今や超流動素子が実現の域に達したのかもしれない。
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