アナログの巨星が相次いで逝く、Linearのジム・ウィリアムスとNationalのボブ・ピーズ:アナログ設計
2011年6月12日の日曜日、そして18日の土曜日。アナログ半導体の礎を築き、後進の教育に力を注いだ回路設計の巨星が相次いでこの世を去った。
大手アナログ半導体ベンダーLinear Technology(リニアテクノロジー)でスタッフサイエンティストを務めていたJim Williams(ジム・ウィリアムス)氏が米国時間12日の夜遅くに死去した。63歳だった。米EE Timesの報道によれば、同氏は10日の金曜日の朝に脳卒中を起こし、重篤な状態に陥っていた(当該の英文記事)。2週間にわたる旅行から戻った直後で、エレクトロニクス技術情報誌「EDN」に寄稿した正弦波発振回路の記事が8月に掲載されるのを楽しみにしていたところだったという。
それからわずか6日後だった。ウィリアムス氏の密葬が執り行われた18日、その夕刻にもう1つの悲劇が起きた。この式に参列したNational Semiconductor(ナショナル セミコンダクター)のスタッフサイエンティストであるRobert(Bob) A.Pease(ロバート(ボブ)・ピーズ)氏が、その帰路に自動車事故で亡くなった。米EE Timesが伝えたところによると、ピーズ氏が自らハンドルを握っていた1969年式のフォルクスワーゲンビートルが丘を下る途中で道から外れ、そのまま木にぶつかった(当該の英文記事)。同氏の妻は、脳卒中か心臓発作を起こしたのかもしれないと話しているという。現地のハイウェイパトロールによれば、即死とみられる。70歳だった。
日本にもファンを抱えるアナログの伝道師
伝説のアナログ設計者――。Linear Technologyは、同社ウェブサイトに開設したウィリアムス氏の追悼ページで同氏をこう表現している。
ウィリアムス氏は、National Semiconductorのリニア集積回路部門で3年間勤務した後、1982年にLinear Technologyに入社した。その後、現在に至るまで30年近くにわたって、スタッフサイエンティストという立場でさまざまな業務に就いてきた。製品の定義や設計、サポートから、若年のエンジニアを教育する役割も担っていた。
同氏がアナログ半導体業界で貢献をたたえられる理由の1つは、Linear Technologyの内外を問わず回路設計の知見を伝える活動を続けていたからだ。アナログ回路設計に関する著作は、同社のアプリケーションノートやEDN誌への寄稿など、合計で350本を超えるという(同社がEE Times Japanのウェブサイトに掲載しているビデオ・レクチャーにも登場している)。1990年代にアナログ回路設計の書籍を2冊出版している他、この夏にも同社CTO(最高技術責任者)のBob Dobkinと共同で編集したアナログ回路設計の教則本がElsevier/Newnes Publishingから出版される予定だ。
National Semiconductorのボブ・ピーズ氏も、アナログ回路設計の権威として知られる人物だった。電圧レギュレータICや基準電圧源IC、温度センサーICなどの設計開発に従事した他、同社がウェブサイト上に開設しているアナログ技術教育ページの学長を務めたり、コラムニストとして米国の電子技術専門誌に多数の記事を寄せたりといった活動を通して、アナログ回路設計者の教育にも務めた。同社の日本法人が国内で開催するセミナーでアナログ回路設計を伝授する講師として何回か来日しており、その独特の語り口でファンを抱えていた(EDN Japan誌に掲載された同氏の来日時のインタビュー記事)。日本法人によれば、同氏の講演を目当てにセミナーに参加する技術者もいたという。
Jim and Bob, we all miss you. RIP.
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