組み込み産業の発展に悩むインド、最大の課題は生産体制の構築か:組み込み開発
インドでは、組み込み産業の脆弱性が指摘されている。その背景には、どのような理由があるのだろうか。
インドでは、政府によるサポートが不十分であることや、製造施設が不足していること、ベンチャー企業が資金援助を受ける機会がほとんどないこと、協調を求め合う国民性などが、革新的な組み込みシステムの開発を阻んでいる――。インドのBangalore(バンガロール)で開催された組み込み機器関連の開発者会議「Embedded Systems Conference(ESC) India 2011」(2011年7月20〜22日)では、専門家らがインドの組み込み産業が抱える脆弱(ぜいじゃく)性についてこのように警鐘を鳴らした。
組み込みシステムの開発を手掛けるAllGo Embedded SystemsのCEO(最高経営責任者)で、Motorolaの元経営幹部であるK. Srinivasan氏は、「インドでは、製造のエコシステムが整っていない」と指摘する。同氏は、「当社がインド国内の教育市場向けにタブレット端末を設計した際、製造は中国のメーカーに発注せざるを得なかった」と明かした。
しかし、インドの技術系の多国籍企業で働く組み込み設計エンジニアは、インドの国内市場に向けた製品を開発することを切望している。こうした状況を受け、Srinivasan氏は「インドには多くの可能性を秘めた市場セグメントが存在する」と語る。
組み込みシステム設計の自動化プラットフォームの開発を手掛けるインドのSankhya TechnologiesのCEOで、Mentor Graphicsの元エンジニアであるGopi Kumar Bulusu氏は、「インドの組み込み市場は、国内の技術者が相対的に不足しているにもかかわらず、拡大傾向にある」と述べる。同氏は、「連邦政府は組み込み産業をもっと支援すべきだ。インドでは、組み込みシステム企業に対してベンチャーキャピタルモデルが機能していない」と訴える。
Forus Healthの創設者でCEOを務めるK. Chandrasekhar氏は、「インドの組み込みソリューション市場を発展させると期待される製品の1つが医療機器だ。新しい機器と組み込みソフトウェアを組み合わせた医療機器が、インドの高い失明率を減らす可能性もある」と述べる。同氏は、NXP Semiconductorsにエンジニアとして勤務していた経歴を持つ。
Forus Healthは、農村地域向けに、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた手頃な価格の視力検査装置を開発した。Chandrasekhar氏は、「この装置は、うまくいけば、インド以外の発展途上国でも広く使われるようになるかもしれない」と期待する。また同氏は、「インドの国内市場に革新的な技術をもたらすには、それを支援するコンソーシアムが必要だ」と訴えた。
Chandrasekhar氏は、「インドのエレクトロニクス産業と研究機関の間には、大きな隔たりがある。研究機関には新製品を開発する能力があるが、業界ではそれを生産できる体制が整っていない」と指摘する。実際、インドでは国内で新製品を生産することが最大の課題になっている。Indian Institute of Scienceのエレクトロニクス設計/技術センターのS.K. Sinha氏は、「インドには革新的なアイデアを形にし、市場に投入するためのエコシステムがない。この状況は過去30年間、まったくと言っていいほど変わっていない」と述べている。
Analog Devicesの元社員で、現在は業界コンサルタントとして活躍するP.V.G. Menon氏は、「インドに必要なのは、教育指導ネットワークを構築することや、政治レベルでインド企業を支援し、積極的に差別化を図ること、革新的な技術を開発したインド企業へ報奨金を交付することなどである」と述べている。
適応性や順応性を求めるインドの文化も、組み込みシステム開発の発展を阻む要因の1つだ。インドのエンジニアは、独立して大きな事業を手掛けるよりも大手企業で給与の高い仕事を得ることを好む安定志向タイプが多いという。
インドの半導体企業であるSaankhya Labsを創設したHemant Mallapur氏は、「インドのこうした国民性は変わらなくてはならない。しかし、その変化のスピードは非常に緩やかなものとなるだろう」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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