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電池不要の“自家発電プロセッサ”、埋め込み医療デバイス狙い研究進むエネルギー技術 エネルギーハーベスティング

患者の体内に埋め込んで、生体信号をモニタリングし、発作の兆候を検知するといった応用が考えられる。患者の体の動きから生成したエネルギーで動作し、電池が不要になる可能性がある。

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 エネルギー効率が高く、電池からの電力供給を受けずに組み込みシステムを稼働させられる高性能プロセッサを実現する ―― そんな研究を米国のバージニア・コモンウェルス大学(VCU:Virginia Commonwealth University)のチームが進めている。同研究チームはこの研究の実施に当たり、米国立科学財団(NSF:National Science Foundation)と米国の半導体研究コンソーシアム「Semiconductor Research Corporation(SRC)」の研究プログラム事業である「Nanoelectronics Research Initiative(NRI)」から合計175万米ドルの資金提供を受けている。

 この研究は、VCUの同チームが米国の科学雑誌「Applied Physics Letters」の2011年8月号で発表にした論文に基づく。プロセッサ回路を構成するトランジスタを、デジタル情報を処理する機能を備えた特殊な小型ナノ磁石で置き換えるというコンセプトだ(図1)。これにより、理論的には熱放散を1000〜10000分の1にまで減少させることができるという。

 VCUの研究チームは、この理論を実際のコンピューティングデバイスで実証すべく、バージニア大学(University of Virginia)とミシガン大学(University of Michigan)、カリフォルニア大学(University of California)の研究者と共同でプロジェクトに取り組んでいる。

図1
図1 ナノ磁石のSEM(走査型電子顕微鏡)画像 直径は約100nm。人間の毛髪の直径の約1000分の1に相当する。出典:VCU

 VCUが率いるこの研究チームの共同主任研究員で、VCUの工学部で電気/コンピュータ工学の教授を務めるSupriyo Bandyopadhyay氏は、「この研究の目的は、デジタルコンピューティングの新たなパラダイムを確立することだ。そのパラダイムでは、極めて高いエネルギー効率を達成できるようになり、これまでのように過剰な熱の発生を懸念することなく、1枚のチップに今よりもずっと多くのコンピュータデバイスを集積できるようなる。それによりって、コンピュータの能力を現在のレベルを超えて高めることが可能になる」と説明する。

 エンジニアはムーアの法則に沿ってプロセッサのサイズを小型化してきたが、1枚のチップに集積するトランジスタの数が増えるに従って、トランジスタから発生する熱をもっと効率的に取り除かなければならないという課題が生まれた。今では、トランジスタがスイッチング時に放散する熱の量を減らすことが、この問題を緩和する最善の方法だと考えられている。

体内埋め込み型の医療デバイスに最適

 Bandyopadhyay氏と、VCUの工学部 機械/核工学科の准教授で、この研究チームの共同主任研究員を務めるJayasimha Atulasimha氏によれば、この研究は医療デバイスに適したデジタルコンピューティングシステムの実現につながるものだ。例えば、てんかん患者の脳にプロセッサを埋め込んで、脳の信号をモニタリングし、発作が起こる兆候を検知できるようになるかもしれない。そのインプラント型のプロセッサは、患者自身の頭部の動きからエネルギーを生成して動作でき、電池が不要になる可能性があるという。

 Bandyopadhyay氏とAtulasimha氏は、Applied Physics Lettersに掲載された前述の論文の他にも、関連する研究論文を「Physical Review」と「Nature Nanotechnology」で発表している。

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