第11回 高周波出力に対応した水晶発振器を解説:水晶デバイス基礎講座(5/5 ページ)
今回は、特定の用途に向けて仕様を最適化した水晶タイミングデバイスのうち、通信機器やネットワーク機器を対象にした品種を紹介します。
低雑音/低ジッタのSAWデバイス
次にSAWデバイスに話題を移しましょう。SAWデバイスというと、広くフィルタとして使用されていますが、SAW発振器はSAW共振子を使ったタイミングデバイスです。
水晶を使った圧電基板にくし形電極(IDT電極)を作り込み、「レイリー波」、「STW」などと呼ばれる「弾性表面波」をうまく使い高周波信号を取り出します(図8)。
SAWは、「Surface Acoustic Wave」の略で、日本語では弾性表面波と呼びます。SAWデバイスは、周波数を逓倍することなく、100M〜2.5GHz帯の周波数を直接発振させられることが特徴です。PLL回路が不要であるため、低雑音で低ジッタの発振器が製品化されてます。例えば、12k〜20MHzのオフセット周波数範囲で1psを下回る位相ジッタ特性を容易に確保できます。図9に発振周波数が2GHzのSAWデバイスの位相雑音特性を示しました。2GHzという高調波でも、優れた雑音特性を有していることが分かります。
SAWデバイスの中心周波数は、IDT電極の周期を表面波の速度で割ったパラメータで決まります。表面波の速度は、圧電材料の種類でほぼ決まりますので、IDT電極の周期を微細にすればするほどより高い発振周波数を取り出せます。IDT電極の周期を微細にすると、SAW共振子の小型化を進められるという側面もあります。
このような特徴がある一方で、難点もあります。SAW共振子は、水晶原石の結晶軸から「STカット」と呼ぶ切断角度で切り出した水晶片を使うのが一般的です。STカット型の温度特性は、音叉(おんさ)型水晶振動子と同様に2次の温度特性になります。このため、3次の温度特性になるATカット型に比べて、温度変化に対する周波数変化は大きくなってしまいます(図10)。最近では、水晶カット技術の研究が進み、SAW共振子でも、ATカット型の品種と同等の温度特性を実現した発振器も製品化されています。
参考文献
日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「小型水晶振動子利用ガイド」、1994年12月
日本水晶デバイス工業会技術委員会編、「水晶デバイスの解説と応用(第5版)」、2007年3月
吉村和昭、倉持内武、安居院猛、「図解入門 よくわかる最新 電波と周波数の基本と仕組 み」、秀和システム、2004年12月
宮澤輝久ほか、「Design Wave Magazine2007年2月号 論理回路の要 水晶発振回路の設計&実装」、CQ出版社
滝貞雄、「人工水晶とその電気的応用」、日刊工業新聞社、1974年5月
品田敏雄、「水晶発振子の理論と実際」、オーム社、1955年
岡野庄太郎、「水晶周波数制御デバイス」、新技術開発センター、1995年12月
宮澤輝久、菊池尊行、八鍬恵美、「電子材料2010年7月号 水晶MEMSジャイロセンサ」、工業調査会
宮澤輝久、「エレクトロニクス実装技術2009年1月号 弾性表面波技術を応用したGHz帯高精度SAW共振子及びSAW発振器」、技術調査会
Profile
宮澤輝久(みやざわ てるひさ)氏
セイコーエプソン 経営戦略本部 経営企画管理部に所属。1991年にセイコーエプソンに入社。水晶デバイス事業部にて、水晶発振器の設計・開発に携わる。その後、1999年から2004年まで、同社欧州(ドイツ)現地法人に赴任し、マーケティングとビジネス開拓に従事した。帰国後、水晶デバイス事業全般の商品戦略と商品企画業務に携わる。2005年、セイコーエプソンの水晶デバイス事業部と東洋通信機が事業統合したエプソントヨコムに異動し、商品戦略部立案及び新規ビジネス開拓を推進した。2011年4月よりセイコーエプソンに出向し、将来の事業に向けた調査活動や、事業部の事業支援に携わっている。
「水晶デバイスは、振動工学や伝熱工学、流体力学、材料力学、機械要素などの機械工学や、電子回路設計などの電気工学、雑音を抑制するための電磁気学、エッチングなどの金属加工、さらに化学など、あらゆる分野の技術が組み合わされて、製品化されるものです。水晶デバイスに携わることは、世の中のあらゆる技術に触れる機会が多く、驚きと発見、勉強の毎日です」(宮澤氏)。
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