リサーチ専門会社の業務を知ろう:エンジニアのための市場調査入門(1)(2/3 ページ)
市場調査というと、企業の中のごく一部の部署だけに関係することだと考える方も多いかもしれません。しかし、市場調査の考え方や基本的な手法は、エンジニアの皆さんの日々の業務に直結する有益な情報になります。そこで、矢野経済研究所の田村一雄氏に、エンジニアのための市場調査の入門講座を連載していただくことにしました。
マーケティングとリサーチ(市場調査)の違い
市場調査と同じ意味合いで「マーケティング」という言葉を使う方も多いのではないだろうか。ここで、市場調査とマーケティングの違いについて考えてみたい。
当社に入社してくる若い人の中には(あるいはクライアントなど外部企業の方々も含め)、当社をマーケティング会社と理解している方が多い。それは、間違いではない。実際、当社のWebサイトを見ると、キャッチコピーとして「調査分析からソリューション提供まで。実力と実績のマーケティングファーム」と記載してある。しかし、私は「マーケティング・リサーチ会社」だと認識している。当社の全ての事業のベースは、リサーチ(市場調査)だからだ。
では、マーケティング・リサーチとマーケティングはどう違うのか。「マーケティングとは」という命題だけで数冊の本が書けるかもしれないが、私はシンプルに考えている。マーケティングとは「いつ、誰に、何を、どれだけ、どうやって売るか」を考える戦略であると。すなわちモノを売る上での5W1Hであると。
そうであるならば、マーケティング・リサーチ、すなわち市場調査とは何かという問いの答えも導かされる。マーケティング戦略を具体化するためのデータの収集や市場動向の調査であると。この意味においてマーケティングは、マーケティング・リサーチより上層概念として位置付けられる。当社では、調査した市場の分析結果によってクライアントのマーケティングのための幾つかの解を提案させていただくこともある。そこには、前述のコンサルティングやソリューション的な意味合いも包含している。先に紹介した当社のキャッチコピーには「この辺りまで踏み込んだ仕事をさせていただいています」ということを表現したいという思いが込められているのである。
ある市場への新規参入や撤退、新製品の事業化、事業買収などにおいて、社長の経験や直感だけでそれを行うようなケースは今どきあまりないだろうが、市場調査の必要性とは一言で言えばリスク回避である。市場調査会社の調査費用は高い、と言われることもある。しかし、当社はそう儲かっているわけではない。ある企業において人件費の高い中堅スタッフが時間をかけて自らリサーチを行ったり、事業や開発をズルズル継続したりするよりも、市場調査会社がリサーチを請け負うことにより最低限のコストで、客観的かつ効率よい経営判断の手助けをすることも可能であろう。
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