エレクトロニクス市場を「3Dリサーチ」で捉える:エンジニアのための市場調査入門(2)(2/2 ページ)
今回と次回は、エレクトロニクス分野の材料に関する話題を例に、市場調査の基本となる考え方を解説します。材料に特化した事例が幾つか出てきますが、市場をどう捉えるか?という観点で機器メーカーのエンジニアにも役に立つ内容です。
図1の立方体のエレクトロニクスの部分から「ディスプレイ」を切り取り、「フィルム」の縦軸で細分化してみてみると、川上方面にはPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルム、PVA(ポリビニルアルコール)フィルムなどがあり、フィルムの加工製品としては偏光板、位相差フィルム、プロテクトフィルム、リリースフィルム、反射防止フィルム、拡散フィルム、輝度向上フィルムなどが浮かび上がってくる(図2)。
当社は、これらをそれぞれ「LCD関連フィルム」とし一冊の自社企画リポートとして世に問うた。2000年当時、偏光板や位相差フィルムを取り上げたリポートは存在していたが、上記のような視点で分類してそれぞれの市場および技術動向をまとめたものはなく、業界で大きな反響を得ることができた。
部材を可能な限り細分化して、それぞれについてリポートするという手法は、FPC(フレキシブルプリント基板)とTAB(Tape Automated Bonding)の基材となるFCCL(フレキシブル銅張積層板)のリポートでも生きた。FCCLは、キャストタイプ、スパッタ/めっきタイプ、ラミネートタイプと分類、さらにPI(ポリイミド)フィルム、電解銅箔、圧延銅箔と細かくカテゴライズした。2004〜2005年、このリポートも大きな反響を呼んだ。
競合材料や競合技術をしっかり把握する
市場を調査する上で大事なのは、競合材料および競合技術を押さえておくことである。上記のLCD関連フィルムにしても、FCCLにしてもメーカー間の競争というよりは、技術の競争が繰り広げられた。
偏光板位相差フィルムを例に挙げると、テレビの大型化に伴い、ワイドビュー(WV)フィルムを提供する富士フイルム、アートンフィルムのJSR、VA-TAC(N-TAC)フィルムのコニカミノルタオプトと、王者は変遷していった。現在はVAタイプのLCDテレビ向けではコニカミノルタオプト、富士フイルム、日本ゼオンが三つ巴戦を繰り広げている。
FPC/TABの場合は、ディスプレイとの配線をFPCで行うか、TABかCOF(Chip on Film)かといった違いがある。従来、FPCの原材料はキャストタイプのFCCL(主力は新日鐵化学の「エスパネックス」)だが、TABではラミネートタイプのFCCL(主力は当時の宇部興産の「ユピセル」、現在は宇部日東化成が担当)、COFではスパッタ/めっきタイプのFCCL(主力は住友金属鉱山の「エスパーフレックス」)だった。これらは当初すみ分けていたが、お互いの市場に侵食していこうとする。さらにPIフィルムを使用するかキャストか、銅箔は電解か圧延かといった3重4重の「vs(対立)構造」が現出していたのである。
当社は自社企画リポートを企画するに当たって売れるかどうかの判断材料として、市場における対立構造の有無、法規制の変化、海外動向などを重視している。「材料が変われば技術が変わる、技術が変われば材料が変わる、これらが変われば市場が変わる」。我々はこうした思想の基、自社企画リポートを制作している。
Profile
田村一雄(たむら かずお)
矢野経済研究所CMEO事業部の事業部長。1989年に矢野経済研究所に入社。新素材の用途開発の市場調査に広く携わる。その後、汎用樹脂からエンジニアリングプラスチック、それらの中間材料・加工製品(コンパウンド、容器包装材料、高機能フィルムなど)のマーケティング資料を多数発行した。現在は、デバイス領域まで調査領域を広げ、エレクトロニクス分野の川上から川下領域を統括している。知的クラスターへのコンサルティング実績も有する。ソウル支社長と台北事務所長も兼務。
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