MEMSが巻き起こすセンサーフュージョン、ソフトウェアベースの手法を米社が提案:センシング技術 ソフトウェア
現代のモバイル機器には、数多くのMEMSセンサーが搭載されている。そこから得たデータを使って高度な認識機能を実現する、いわゆる「センサーフュージョン」への注目が高まりつつある。そこで課題になるのが、そのデータ処理をどのように実装するかだ。それ次第で、システムの消費電力や性能が大きく左右されてしまう。
モバイル機器に搭載されるMEMSセンサーの数が増える中、MEMSを設計する際の焦点は、個別部品としてのMEMSセンサーから、MEMSセンサーからのデータをいかに統合するかに移りつつある。
米国の新興企業であるSensor Platformsでエグゼクティブバイスプレジデントを務めるIan Chen氏は、「複数のセンサーからの生データを、いかに融合するか、そしてどのように解釈するか。それによってシステムの消費電力やアプリケーション性能が大きく変わってくる」と述べる。
Sensor Platformsは2012年3月26日、センサーからのデータを処理するソフトウェアアルゴリズムとミドルウェアのライブラリを発表した。同社によると、このライブラリは、モバイル機器に搭載された複数のセンサーから取得したデータを用いることで、“エンドユーザーの意図”を解釈できるように設計されているという。
センサーフュージョンをソフトウェアで実現
現在、市場で販売されているスマートフォンやタブレット端末には、加速度センサーや磁気センサー、気圧センサーなど、さまざまなMEMSセンサーが搭載されている。
複数のMEMSセンサーを統合し、そこから得たデータを処理して高度な認識機能を実現する、いわゆる「センサーフュージョン」への注目が高まりつつある。
これらのセンサー群を単一のモノリシックデバイスに統合するアプローチを探る企業がある一方で、Sensor Platformsはそれとは異なるアプローチを選択した。複数のセンサーから取得したデータを、ハードウェアではなくソフトウェアを使って統合するというものだ。
Sensor Platformsは、「当社のソフトウェアは、シングルコードベースで、さまざまなプラットフォームに横断的に用いることができる」と主張する。例えば、1つのアプリケーションプロセッサもしくは1つのセンサーハブの上で稼働させたり、システム内に分散させて動作させたりすることが可能だ。
このようなソフトウェアベースのセンサーフュージョンには、柔軟性という大きなメリットがあるとChen氏は言う。「当社のソフトウェアを使えば、システム設計者はさまざまなセンサーを単一のベンダーから調達しなければならないという制約から解放され、種別ごとに異なるベンダーから調達できるようになる。センサーの価格や性能はベンダーごとに異なるので、このように調達先に柔軟性があるというのは、大きなメリットだ」(同氏)。
消費電力も大幅に低減
他にもSensor Platformsが提供するソフトウェアには、センサー群の消費電力の増大を抑えられるというメリットもあるという。
モバイル機器に搭載されるセンサーの数を増やすのと、それに伴って増える消費電力を抑えるのは別問題だ。
Chen氏は、「センサーの使用時には、最大で10mWの消費電力が加わる」と述べる。Sensor Platformsのソフトウェアライブラリ「FreeMotion Library」には、低消費電力化を実現する同社独自のアルゴリズムが搭載されており、センサーの電力消費を90%低減することが可能だとしている。このアルゴリズムは、エンドユーザーの動きがゆっくりしている期間、ジャイロスコープのように消費電力の大きなセンサーをオフにして、そのセンサーの機能を別の低消費電力のセンサーを利用して代替する役割を果たす。
では、信頼性はどうなのだろう。Chen氏によると、あまり知られてはいないが、スマートフォンに搭載されているコンパスの中には、校正(キャリブレーション)しても方角が90度もずれるものもあるという。同氏は、「全てのセンサーにおいて、データ品質を維持するには、キャリブレーションを頻繁に実施する必要がある」と述べた。同社のFreeMotion Libraryは、信頼性の高いサンプリングや、センサー間の継続的なキャリブレーションを実現するアーキテクチャで構築されており、信頼性の高いセンサーデータをアプリケーション開発者にもエンドユーザーにも提供できるという。
求む、ソフトウェア開発ツール
単一のシステムにたくさんのMEMSセンサーを単に詰め込むだけでは、システムの電力消費やシステム設計における柔軟性、センサーのデータ品質や信頼性、さらにはアプリケーション性能などを十分に改善できない。
「さて、データは集まった。しかし、システム設計者はまだそれを有効に活用できていない」。こう指摘するのは、Semico Researchの技術部門でチーフを務めるTony Massimini氏だ。「まだ業界の取り組みは初期の段階にある。システム設計者の多くにとってMEMSは新しい技術であるため、何らかのソフトウェア開発ツールが必要になる」(同氏)。
ソフトウェア開発キット(SDK:Software Development Kit)を必要としているのはシステム設計者だけではない。アプリケーション開発者も、モバイル機器に搭載されたセンサーから取得するデータを新たなアプリケーションに活用するために、SDKを求めている。
Sensor PlatformsのChen氏によると、同社はFreeMotion LibraryのAPI(Application Programming Interface)を発表する予定だという。「アプリケーション開発者は、このAPIを介して、FreeMotion Libraryが提供する精度と信頼性の高いデータを活用できるようになる」(同氏)。さらに同氏は、「モバイル機器のアプリケーションでは、ユーザーの位置や、動いている方向の変化だけではなく、ユーザーに関する情報やコンテキストも必要になる」と付け加える。「FreeMotionのSDKによって、センサーの生データから読み取ってアプリケーションで活用可能な情報の幅が広がる」(同氏)。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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