車載ディスプレイは720pが主流に、スマホとの接続はMHLが有力候補:車載半導体 インターシル インタビュー
現在、家庭用のテレビやPCディスプレイの画素数は、フルHD映像の表示が可能な1080pが一般的になっている。しかし、サイズが比較的小さい車載ディスプレイは、今後しばらく720pが主流になる――こういった車載ディスプレイのトレンドについて、ディスプレイ制御用ICを扱うインターシルの車載半導体事業の担当者に聞いた。
これまで自動車に搭載されるディスプレイの個数といえば、カーナビゲーションシステム(カーナビ)の表示画面の1個程度だった。しかし現在は、メーター類にディスプレイが組み込まれ、後席には映画やゲームを楽しむためのリアシートエンターテインメントシステムなども搭載されるようになった。ディスプレイを5個搭載するSIM-Driveの試作電気自動車「SIM-WIL」(関連記事1)に代表されるように、今後の自動車は2個以上のディスプレイを搭載するようになるのは確実だ。
アナログ半導体メーカーのIntersil(インターシル)は、これら車載ディスプレイの動作を制御するディスプレイコントローラICの製品展開に注力している。同社で車載半導体事業を統括するオートモーティブ プロダクトライン・ディレクタのNiall Lyne氏に、車載ディスプレイのトレンドや、そのトレンドに対応した製品開発の状況について聞いた。
MONOist 自動車に搭載されるディスプレイの個数が増えています。ディスプレイを用いる車載機器にはどのようなものがありますか。
Lyne氏 代表的なのは、ダッシュボード中央部のヘッドユニットに組み込まれる、カーナビやカーオーディオなどの車載情報機器でしょう。これらに加えて、ディスプレイメーターや、バックミラーに組み込まれたバックモニター用ディスプレイ、リアシートエンターテインメントシステムなど、ディスプレイを用いた車載機器は増え続けています。また、小型プロジェクタの技術を応用した運転席用ヘッドアップディスプレイ(HUD)も、ディスプレイを用いた車載機器と考えていいでしょう。
当社は、2010年3月にディスプレイコントローラICの有力ベンダーであるTechwellを買収しました。車載用の液晶ディスプレイ(LCD)パネルや、ディスプレイを用いた車載機器では国内に有力なメーカーが数多く存在しており、Techwellの製品も広く採用されています。
MONOist 現在、車載ディスプレイにはどのような機能が求められているのでしょうか。
Lyne氏 それでは、車載ディスプレイのトレンドを、LCDパネルの画素数、バックモニター、入力インタフェースという3つのテーマに分けて説明しましょう。
まず、LCDパネルの画素数ですが、少なくとも今後3年間は720pの高品位(HD)映像を表示できる1280×720画素のものが需要の中心になるでしょう。カーナビやリアシートエンターテインメントシステムに用いるLCDパネルは8インチクラスが最大です。このクラスの中型LCDパネルで、1080pのHD映像を表示できる1920×1080画素のLCDパネルを製造できるメーカーはあまり多くありません。既に、1080pに対応するLCDパネルを搭載した車載情報機器は既に発売されているのですが、高コストのLCDパネルによって製品価格が極めて高価になっていることもあり、販売は伸び悩んでいます。一方、720p対応のLCDパネルを搭載した車載情報機器の売れ行きは好調です。Techwellブランドの車載用ディスプレイコントローラICは、この需要の旺盛な720pの表示に対応する製品を中心に開発しています。
「TW8823」を使ったカーナビの画面。左下のPIP画面内にバックモニターの映像が表示されている。また、画面右側にあるメニューボタンは、OSDを使って表示している。(クリックで拡大) 出典:インターシル
MONOist では、2番目のトレンドのバックモニターについて教えてください。
Lyne氏 米国では2014年9月から、新車へのバックモニターの装備が義務化されます。これは、自動車の駐車時に周辺にいる児童を巻き込む事故を防ぐ目的で施行された「Kids Transportation Safety Act(K.T. Safety ACT)」という法制に基づいています。
通常、車載情報機器と連携動作するバックモニターの映像は、コンポジット映像信号(CVBS)を介して車載情報機器のプロセッサで処理してからディスプレイ上に表示しています。しかし、自動車のエンジン始動時は、車載情報機器が起動するまでの間バックモニターの映像が表示されないという問題があります。当社の車載ディスプレイコントローラICは、コンポジット映像信号用のデコーダを搭載しており、エンジン始動から1秒以内でバックモニターの映像をディスプレイに表示できる機能を備えています。例えば、PIP(Picture in Picture)機能を備える「TW8823」であれば、PIPのフレーム内にバックモニターの映像を表示しながら、その背景画面で車載情報機器の起動画面を表示できるのです。
バックモニターのガイド表示の比較。左側の画面は、フォントOSDのみを搭載する「TW8816」のバックモニターのガイド表示。右側の画面は、8ビットカラー表示が可能なOSDを集積した「TW8832S」を使用している。(クリックで拡大) 出典:インターシル
MONOist バックモニターではOSD(On Screen Display)の機能も重要だと聞いています。
Lyne氏 一般的なバックモニターは、車両の後方を映した映像の上に、ステアリング動作と連動したガイドをオーバーレイ表示します。このオーバーレイ表示にOSDが利用されています。もし、OSDの表示能力が高ければ、より分かりやすく鮮明なガイドを表示できるのです。また、表示能力の高いOSDは、メイン画面上にオーバーレイ表示するタイプのユーザーインタフェースなどにも利用可能です。当社のディスプレイコントローラICは、8ビットや16ビットのカラー表示が可能なOSDを集積した製品もありますし、文字表示を行うフォントOSDについては日本語などの2バイト文字にも対応しています。
MONOist 3番目の入力インタフェースですが、これはどういったトレンドですか。
Lyne氏 車載情報機器のディスプレイの画素数はまだしばらく720pにとどまりますが、入力インタフェースについては1080PのフルHD映像に対応するデジタル方式のものが必要になります。当社の現行のディスプレイコントローラICは、デジタルRGBの入力インタフェースを搭載していますが、2012年夏にサンプル出荷する「TW8836」では、LVDS(低電圧差動信号伝送)ベースのOpenLDI(Open LVDS Display Interface)を搭載する予定です。このOpenLDIは、車載情報機器のプロセッサからの映像をディスプレイコントローラICに入力する用途で使います。
またTW8836の次世代品として、OpenLDIに替えて、Mini-HDMIやMHL(Mobile High-definition Link)を搭載した製品も開発中です。特に、MHLは、コネクタの端子数が5本と構造が簡素である上に、フルHD映像の伝送のみならず電力供給もできる点で優れています。今後の車載情報機器は、スマートフォンと接続して何らかの連携を行う機会が増えていくでしょう(関連記事2)。その有線接続インタフェースとしては、コネクタの構造が複雑なMini-HDMIではなく、MHLが有力候補になるだろうと見ています。
実は、Mini-HDMIやMHLを入力インタフェースとして搭載するディスプレイコントローラICについて、ピコプロジェクタと呼ばれる小型プロジェクタ向けのものも開発しています。このピコプロジェクタを使った運転席用HUDが、2014〜2015年に量産出荷される見込みです。
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