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太陽電池の製造コストはどうなる――プラスチック製には勝機があるのかエネルギー技術 太陽電池(1/3 ページ)

有機薄膜太陽電池は、Si(シリコン)を使わず、2種類の有機材料を混ぜ合わせて塗るだけで発電できる。軽量であり、量産性に優れていると考えられている。しかし、何十年も先行するSi太陽電池に果たして対抗できるのだろうか。産業技術総合研究所は、有機薄膜太陽電池の製造コストを見積もり、どのような技術改良が必要なのか指針を示した。

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太陽電池の製造コストはどうなる――プラスチック製には勝機があるのか
長さ22mの太陽電池

 国を挙げて太陽光発電システムの普及に取り組む日本。こうした中、新規に太陽電池ビジネス(製造ビジネス)に参入するべきか、止めるべきなのか。海外企業との競争が激化する環境下で、各社は難しい判断を迫られている。

 特に難しいのがSi(シリコン)などの無機材料「以外」を使った太陽電池だ。新規太陽電池は量産段階に入っておらず、材料コストや製造コストを見積もりにくい。このような新規太陽電池の候補は色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池などだ。

 有機薄膜太陽電池の変換効率は、単結晶Si太陽電池(20%以上)の半分にすぎない。それでも有機薄膜太陽電池に期待がかかる理由が2つある。1つは、軽量で柔軟な太陽電池を実現できる可能性があること*1)、もう1つは製造コストを大幅に引き下げられる可能性があることだ。

*1) 有機薄膜太陽電池は、全ての太陽電池の中で最も(発電層が)薄い。約0.1μmである。有機材料は比重が小さく、曲げに強い。従って薄く、軽く、曲がる太陽電池を実現しやすい。Si太陽電池が不得意なビル壁やガラス窓、強化していない屋根などに適した太陽電池と考えられてきた。

 製造コストを引き下げられる理由はこうだ。有機薄膜太陽電池は、太陽光を受け発電する半導体部分に有機物(プラスチック)を使う。p型の性質を示す有機物(ポリマーなど)とn型の性質を示す有機物(フラーレンなど)を溶液中で混ぜ合わせ、透明電極上に塗布し、下部電極を付けるだけで発電可能だ。製法として塗布法を使い、印刷と似た工程によって大量生産できる。セル製造時やモジュール製造時に真空条件や高温プロセスが不要であり、これが製造コスト引き下げに効いてくる。

どのような製造条件を考えればよいのか

 それでは、有機薄膜太陽電池の製造コストはどの程度なのか。太陽電池の製造コストを計算するには、材料コストはもちろん、量産規模や製品の変換効率、どの程度の寿命を持たせる必要があるのか、などさまざまな変数があり、製造コストが1つの値には決まらない。

 産業技術総合研究所 太陽光発電研究センター研究顧問の小西正暉氏によれば、有機薄膜太陽電池を製造ビジネスとして成功させるには、安価に製造できるといわれる同電池の持ち味を最大限に引き出す道筋を明らかにすることが第1歩になるという。具体的には、技術開発の優先順位を洗い出し、いつまでに何を実現すべきかを明らかにすることだ。Si太陽電池が先行するなか、「新規の太陽電池ビジネスで他国に勝つためには、まずメジャーマーケットを狙う必要がある。そうすれば量産効果によって低コスト化できるからだ」(小西氏)。世界市場でのメジャーマーケットは太陽光発電所であり、太陽光発電所に求められる条件は「モジュール変換効率10%、寿命20年」だという。

1W当たり29円という製造コストの意味

 「太陽光発電所に使う有機薄膜太陽電池の変換効率や寿命などさまざまな前提条件からモデルケースを作り、コストを積み上げた結果、1W当たりの製造コストは29円になることが分かった*2)。米エネルギー省(DoE)が推進する太陽電池の戦略計画『SunShot計画』では2017年時点の有機薄膜太陽電池のシステム価格として1米ドル/Wという値を目標値としている。この内訳は「製造コスト」が0.5米ドル、設置コストが0.5米ドルである。ただし、米エネルギー省の製造コストには利益やオーバーヘッド、管理費も含まれており、いわゆる製造時のコストは0.39米ドルになる。為替相場にもよるが、30円程度が実現できなければ、米国には勝てないということだ」(小西氏)。

*2) 2012年5月24〜25日に産業技術総合研究所が開催した「太陽光発電工学研究センター成果報告会2012」で発表した。産業技術総合研究所と富士電機、富士フイルムの共同研究の結果である。

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