有機EL=テレビではない、パナソニックの新社長が見据えるディスプレイ事業:ビジネスニュース 企業動向
テレビ向けの有機ELパネルを、ソニーと共同開発することを発表したばかりのパナソニック。ただし同社は、有機ELテレビは、あくまでも、より大きな市場である“ディスプレイの1つの形”としかとらえていないようだ。
「テレビという言葉と、ディスプレイという言葉は分けて考える」――。2012年6月28日に東京都内で行われた社長就任記者会見で、パナソニックの新社長に就任した津賀一宏氏は、こう明言した。
2012年3月期に過去最大の赤字を計上したパナソニックだが、テレビ事業については「赤字からの脱却が見えつつある」(津賀氏)という。そこで、テレビ事業は収益優先として赤字の縮小を目指す。一方で、パネルに関しては非テレビ用途への転換を図っていく。このようにディスプレイ事業については収益を稼ぐべくさまざまな取り組みを行っていく中で、今後の鍵となってきそうなのが有機ELパネルである。
パナソニックは2012年6月に、テレビ/大型ディスプレイ向けの有機ELパネルを、ソニーと共同開発することを発表したばかりだ(関連ニュース)。パナソニックは、ほぼ全ての部分を印刷技術で有機ELディスプレイを作るということに強い関心を寄せている。従来の製造技術と比較して、低コスト化が可能になるからだ。ただし、印刷技術を低コスト化の「手段」としてのみとらえるのは間違っているようだ。印刷技術を使えば、従来の製造技術では困難なサイズや形状のパネルを製造できる可能性がある。
全ての空間で活用できるところ、これが有機ELの強みだ
津賀氏もその点を強調した。「有機ELディスプレイは、薄型化/軽量化を図れるだけでなく、曲面などフレキシブルなディスプレイも実現できる。ディスプレイの進化はまだまだ続く。また、テレビというのは、住宅空間において非常に重要であるが、ディスプレイというのは、(住宅空間だけではなく)全ての空間において活用可能なものである」と述べている。このことから、有機ELディスプレイが持つ可能性や、有機ELディスプレイの広範な市場に期待を寄せていると判断される。ただし、有機ELディスプレイがそのまま有機ELテレビに直結するかというと、そうではないようだ。
有機ELテレビについては、津賀氏は「テレビというからには、価格を抜きにしては考えられない。価格をどこまで下げられるのかが最大の課題ではあるが、現状では目の玉が飛び出るほどの価格になってしまう」としており、現在の液晶テレビに近い価格まで下げることを目指すが、それには相当な時間がかかることも指摘した。「いかにリーズナブルな価格で作れるかということにフォーカスはしているが、それが1年でできるのか、2年なのか、3年なのかは、やってみなければ分からない」(津賀氏)。
2012年の夏から秋には、Samsung ElectronicsやLG Electronicsから大型有機ELテレビが発売される予定である。だが、冒頭の「テレビとディスプレイは分けて考える」という言葉どおり、パナソニックは、有機ELテレビという1つの土俵で競合に立ち向かうのではなく、ある程度時間はかかっても、“有機ELテレビはあくまでディスプレイの1つの形”として、より広範な市場で勝負を挑む。これがパナソニックの戦略であると考えられる。
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