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若きエンジニアへのエール〜入社後5年間を生き残る、戦略としての「誠実」〜「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論 ―番外編―(4/4 ページ)

「新卒から入社5年目ぐらいまでの新人、若手」という方は、たぶん社会人として最も辛く、厳しい時期にいる方だと思います。社会の矛盾、不合理、理不尽、不条理という名の弾丸が、複数の機関銃から一斉掃射される、悲惨な戦場にいるかのような、恐ろしく辛い時代です。その間の無防備な時代を凌ぐには、「戦略」が必要です。私は、新人、若手の皆さんに、「誠実」、「温厚」、「寄生」という3つの戦略を授けたいと思います。

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その他の戦略〜「技術+α」のアプローチ〜

 可能であれば、「技術+α」のアプローチを採ることをお勧めします。「α」とは、例えば、法律や経済、数学、語学、政治などが該当します。こういう「技術」とは異なる分野の知識が「技術」と結びつくと、結構なパワーを発揮する場合があるのです。

 基本的にエンジニアは、研究魂、強烈な個性、ストイック、クール、ドライ、一途、ひたむき、一生懸命、その道一筋という優れた美徳がありますが、例外なく、その分野意外のことについては「無知」です。はっきり言えば「バカ」です。ですから、他の人が知らないことを知っているだけで、あたかもその「α」の分野の専門家のように誤認されるというメリットがあり、社内で一目置かれる可能性があるのです。

 とは言え、新卒から入社5年目ぐらいまでの新人、若手の皆さんにとっては、このタスクは少々酷だと思います。今は忘れていただいて結構です。

最後のエール〜思考のパラダイムシフト〜

図
写真はイメージです

 上記の戦略を全て試みても、なお、折れた心が修復できず、疲れ果てて「もうダメだ・・」と床に崩れ落ち、立ち上がる気力も尽き果ててしまった、新人、若手の皆さんに、私から最後のエールを贈らせて頂きます。

 かなり見落されがちなのですが、エンジニアは、かなり「幸せ」な人種なのです。

 エンジニアは、課題があれば解決しようとし、解決すればその中からまた別の課題を見つけ出し、それを解決せずにはいられません。エンジニアは、「暇」という概念がなく、常に忙しく、そして、いつも無駄に疲れています。本来、恋人や友人がいないことを寂しいと感じる時間帯(ひとりぼっちの夜など)で、コーディングやシミュレーション、ハンダ付け、回路設計をしているので、「恋人や友人がいないことは寂しいことだ」と知識として分かってはいても、それを実感する時間がありません。

 いわば、通貨の概念のない未開の地において、コインや紙幣を見せられた原住民程度にしか、結婚や恋愛や友情を理解できません。これは客観的には不幸なことのようにも見えますが、当人がそれを不幸であると感じない以上、誰がなんと言おうとも不幸になることはできない ―― つまり「幸せ」であるということです。

 エンジニアは常に、未解決な課題に向って、いつでも一生懸命です。それらの問題が解決した時のエクスタシーは、酒、たばこはもちろん、SEXや麻薬すらも及びません(一部経験がありませんが)。そのような快楽を現世で体験できるエンジニアは、かなり「幸せ」な人種に分類されると思うのです。

 あなたが、「ぶか」と入力したら「不幸」と漢字変換されるくらいの立場であったとしても、「エンジニアでいられることは、それ自体が奇跡と呼べるほどの幸せである」と、パラダイムシフトができれば、 

――あなたのエンジニアとしての人生は、すでに勝ったも同然です。



本連載は、毎月1回公開予定です。アイティメディアIDの登録会員の皆さまは、下記のリンクから、公開時にメールでお知らせする「連載アラート」に登録できます。


Profile

江端智一(えばた ともいち) @Tomoichi_Ebata

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「江端さんのホームページ」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。



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