―実践編(パラダイムシフト)――技術英語はプログラミング言語である:「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論(6)(1/4 ページ)
本来、「言語」とは「人間相互理解」の道具であり、「民族」という単位のポピュラーな指標であり、「文化」という荷物を過去から未来へ運ぶリヤカーのような役割もあります。しかし、「技術英語」には、そのいずれの機能もありません。「技術英語」が、言語でなく、「英語」の下位概念ですらないとすれば、それは一体何でしょうか。「技術英語」とは、「図」を構成要素とする「プログラミング言語」です。
われわれエンジニアは、エンジニアである以上、どのような形であれ、いずれ国外に追い出される……。いかに立ち向かうか?→「『英語に愛されないエンジニア』」のための新行動論」 連載一覧
「英語に愛されないエンジニア」である私たちが立ち向かわなければならないものは、「英語そのもの」ではありません。英語という地平線まで広がる大草原の中にある小さな家のようなものです。それは、「技術英語」と呼ばれるものです。
「技術英語」の領域は、ものすごく「小さい」 です。どのくらい小さいかというと、主観的には図1に示す程度です。そもそも、技術英語では人間が登場しません。「ハイ、キャシー!どこに行くんだい?」、「あら、トム。今日はマイクとデートよ」という会話だけでも、既に3人が登場しますが、技術英語では、トムとマイクがけんかを始めてキャシーが「私のために争わないで!」などという、あほなセリフが登場する可能性はゼロです。
また、「ああ!左の頬も叩いてちょうだい!!」というようなマゾな教えを説く宗教説法が出てくる余地もなければ、最後の審判の絵の中に暗号を見つけるような話も出てきません。「ブルータス、お前もか」という監視義務を怠った権力者の話もなければ、「生きるべきか、死ぬべきかそれが問題だ」という、勝手に悩んでいやがれ、というような文学も関係ありません。何を考えているか全然分からない隣国の独裁国家の最高権力者の頭の中や、ギリシャのデフォルト(default)を「借金踏み倒し」と置き換える必要もなく、世界のどこでテロが発生して、どのような報復攻撃が開始されたか、という内容の英語を理解する必要は全くありません。
私たちは、真の国際人になることを期待されて、このような全分野全方向型の英語を勉強させられてきたわけですが、正直なところ、エンジニアとして私たちが使う「技術英語」には、あまり関係のないものでした。
「技術英語」の特性 〜ひたすら現実の具象のみが対象に〜
さて、もう一度、図1を見て下さい。「技術英語」では、過去の話を必要とせず、ひたすら目の前にある「有体物(以下、物という)」に限定します。そして、その「物」を特定する手段として、観念や抽象表現の入る余地はなく、ひたすら現実の具象のみが対象となります。さらに「物」の中には、非論理的で、行動予測不可能な「人間」は含まれておりません。
英語の話から少々離れますが、「技術」が、人間の日常の挙動からいかに乖離(かいり)しているかを示す、幾つかの例を示してみましょう。
- 「私の青春の思い出は、米国特許庁で公開されたあの『特許明細書』でした」
- 「この『要求仕様書』こそ、人生の座右の書」
- 「教養人必読の『要件定義書』」
- 「評論家が選ぶ:この『マニュアル』がすごい!」
- 「ミシュラン編:3つ星『三相交流モーター設計仕様書』」
- 「週間女性 特集:AKB48のメンバーが隠れて読む『インターネット標準通信プロトコル』の番号を暴く! あのアイドル○○が密かに読んでいたのは、なんとRFC959(FTP)だった!」
上記のフレーズは、全く意味を成していません。技術という分野の記述が、いかに世の中の一般的な表現方法と親和性がないか、一目瞭然で分かると思います。
英語も例外ではありません。技術英語の領域は、対象が限定的であり、表現方法にも上限があります。データで示したいところなのですが、誌面の都合上、皆さんで調べて頂きたいと思います。英文の単語を数えてくれるWebサービスやアプリケーションソフトウェアがありますので、そこに、技術文献と時事問題の英文を突っ込んで、そこに登場する英単語(特に動詞)を見比べてみてください。入試の時に必死で覚えた「試験に出る英単語」の丸暗記は一体何だったのかと、本気で泣けてきます。
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