「退任よりも再建計画の実行が自分の責任」、いまルネサス社長が掲げる4つのプラン(前編):ビジネスニュース インタビュー
米投資会社から1000億円の資金提供を受けると報道されたルネサス。その報道の数時間後、EE Timesはルネサス社長の赤尾泰氏に単独インタビューを実施。同社の再建計画について話を聞いた。前編と後編に分けて公開する。
2012年8月29日、米国の投資ファンドであるKKR(Kohlberg Kravis Roberts)が、経営再建中のルネサス エレクトロニクスに1000億円を投資するというニュースが流れた。そのわずか数時間後、米EE Times誌は東京・大手町のルネサス本社で、社長の赤尾泰氏に同社の再建計画について単独インタビューを実施した。
予想していた通り、赤尾氏は、KKRがルネサスに投資する件についてはコメントを避けた。赤尾氏は、経営難にあえぐ同社が生産工場を売却するのか、あるいは同社のSoC(System on Chip)事業がどのような方向に行き着くのかといった点についても、明らかにしていない。
だが、上記以外の質問については、赤尾氏は率直な態度で取材に応じてくれた。
赤尾氏は、ルネサスの経営破綻にまつわる憶測を一蹴することなく、慎重に言葉を選びながら、冷静な態度で丁寧に説明した。
赤尾氏は、2010年に旧ルネサス テクノロジと旧NECエレクトロニクスが合併して社長の座に就いた際、再建計画についてどのような展望を持っていたのかということをはじめ、合併以降どのように状況が変わったのか、そしてルネサスを立て直すためにはどのような戦略が鍵になると考えているのかを語った。
現在、赤尾氏は、2010年当時とは大きく異なる決断を迫られている。それは、外部からの資金注入だ。会社のオーナーが変わるということは、当然、ルネサスが目指す路線を自らではコントロールできなくなるということを意味する。
赤尾氏は当初、コスト削減を図るとともに、売上高を伸ばすことによって得た利益を利用し、内部で事業を立て直すことで抜本的な改善を図ろうと考えていた。
しかし、ルネサス エレクトロニクスの誕生から2年が経過した今年度(2012年4月〜2013年3月)は、1500億円という過去最大の赤字を計上するとみられている。この金額は、赤尾氏が再建計画に割り当てていた1550億円という金額と、ほぼ同額になる。
自力で解決することが難しくなったルネサスは、会社を存続させるべく、親会社に資金援助を要請しなければならなかった。この説得には周囲が予想していたよりも長い時間を要したが、赤尾氏は2012年8月29日、ルネサスの親会社である日立製作所とNEC、三菱電機の3社が、融資やその他の方法で計500億円の資金援助を行うことに合意したと明らかにしている。加えてルネサスは、東京三菱UFJ銀行をはじめ、その他3つの銀行融資枠を利用して、さらに500億円の資金を調達する。
だが、ルネサスが存続するために、あるいは力強く成長するために、1000億円という金額が果たして十分であるかについては、疑問の余地がある。再建計画をできるだけ速やかに進めるには、より多くの資金が必要になるはずだ。
当初、赤尾氏の頭にあった“一方的な再建計画”のシナリオは、もはや選択肢ではなくなった。
多くの業界関係者が、「KKRはルネサスに急激な改革を迫る可能性がある」とみる中、赤尾氏は退任を否定している。同氏はインタビューの中で、「社長が会社の業績に最終的な責任を負っているということは、十分に理解している。しかし、辞任という安易な方法よりも、(何かしらの結果を出すという)自分の仕事を全うすることが、社長としての義務だ」と語った。「会社を立て直すためには、まずはしっかりと再建計画を作ることが不可欠だ。それができなければ、自分に課された仕事の半分も終えていないも同然だ」(赤尾氏)。赤尾氏の言葉は冷静だが、果たしてKKR(あるいは、むやみやたらと投資したがる他の企業)が納得するのかという疑問も湧いてくる。
赤尾氏は、ルネサスの再建計画では、次の4つが柱になると考えている。
- SoC事業の整理:製品ライフサイクルが短く、ROI(投資利益率)が低いものについては、今後は新規開発を行わない
- ファブライトの戦略の実行:今後3年の間に、ルネサスが所有するフロントエンド工程の9つの製造ラインを、売却や統合によって7つに減らす
- マイコン、アナログ、パワー半導体分野に注力:マイコン事業には引き続き注力するとともに、アナログ/パワー半導体事業については、市場規模を見ながら事業比率を上げていく
- “スマート社会”戦略の強化:スマート社会への取り組みを進展させ、世界中で市場機会を探る
※訂正あり
ルネサス エレクトロニクスより申し入れがあり、SoC事業の整理の記載につきまして、本文の一部を訂正致しました。
【翻訳/編集:EE Times Japan】
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