SoCを分離すると顧客の期待に応えられない、3つの製品分野一体の強みを生かす:車載半導体 ルネサス インタビュー(3/3 ページ)
厳しい事業環境にある、半導体メーカーのルネサス エレクトロニクス。しかし、中核に位置する車載半導体事業の実力は、世界でもトップクラスだ。同社で車載半導体製品のマーケティング戦略を統括する金子博昭氏に、製品開発の方向性や、強みを生かすための施策について聞いた。
キットソリューションで認知度アップ
MONOist 圧倒的なシェアを握る車載マイコンや車載SoCに対して、車載A&Pの認知度はあまり高くありません。2010年4月の合併で、ルネサスは国内最大規模のアナログICメーカーになったわけですが、車載半導体ではそれをどのように生かしているのでしょうか。
金子氏 車載半導体市場全体を見てみますと、A&Pが占める割合は極めて大きいものがあります。例えば、電動パワーステアリングに使う半導体のコストを考えましょう。マイコンを1とすると、低圧アナログICに1、パワー半導体に1を使っています。ルネサスでは、このマイコン以外の残りの2を取ることに注力していなかったのです。
とはいえ、製品統合を積極的に進める必要のあったマイコンやSoCと違って、A&Pは、合併によって互いに足りない製品や技術を補完できました。この合併の効果を車載半導体事業でも生かすために、2011年4月から始めたのが、認知度の高い車載マイコンとセットで売り込むキットソリューションです。1年半の活動で、ルネサスのA&Pに対する顧客の認知度がかなり高まったと思います。正直なところ、キットソリューションを始めたときには、ルネサスが車載のアナログIC製品を持っていることさえ知らない顧客がかなりいたくらいですから。
キットソリューションのおかげで、採用案件数は年率20%のペースで増えています。ただしこれらは既存品によるものなので、これからは車載向けに新たに開発したA&P製品で伸ばしていきます。
MONOist では、A&Pでどういった新製品を投入しますか。
金子氏 EVやHEVなど、変化の大きい分野に投入します。期待しているのが、当社でいう第7世代のIGBTです(関連記事6)。車載向けのIGBTは、この第7世代から本格的に展開します。
これまで車載向けのIGBTを販売していなかったのは、耐圧が600V以上の製品がない上に、IGBTの製造プロセスで車載品質を確保する体制が整っていなかったからです。
この第7世代IGBTの投入で、当社が高シェアを確保している走行モーター用マイコンとのキットソリューションが可能になりました。現在、自動車メーカーや電動システムサプライヤは、使用するマイコンと、そのマイコンとは異なるメーカーのIGBTの間で性能を最適化するのに手間が取られています。しかし、当社のキットソリューションがあれば、その手間をかなり削減できます。
MONOist ルネサスは、SiC(シリコンカーバイド)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代パワー半導体の開発にも積極的です。車載向けにどう展開しますか。
金子氏 次世代パワー半導体は、第7世代IGBTが浸透したその後の世代の製品として考えています。
MONOist ここまでA&Pの片方であるパワー半導体の話が中心でしたが、いわゆるセンサーや信号伝達などに用いる低圧アナログICについてはどう考えていますか。
金子氏 実のところ、車載の低圧アナログICは、ほとんどがカスタム製品として納入しているのが現状です。他のアナログICベンダーも同じ状況でしょう。
ただし今後は、ISO 26262をきっかけに、ある程度の標準化が進むかもしれません。故障や不具合の可能性について、部品レベルまでさかのぼって精査するISO 26262では、現行の低圧アナログICのようにカスタム品ばかりで構成するとその安全性を証明する作業が膨大になってしまうからです。
MONOist ルネサスが汎用品向けに展開している、再構成可能なアナログIC「Smart Analog」(関連記事7)を、車載向けに展開する予定はあるのでしょうか。
金子氏 Smart Analogの存在は、車載分野でも注目されています。ただ、カスタム品を製造する必要がなくなるという以外のメリットをまだ見いだせていないのが現状です。今後も、顧客と協力して、車載分野でのSmart Analogの可能性を追求していきたいと考えています。
MONOist 車載A&Pの事業目標を教えてください。
金子氏 まずは、市場成長率を超える売り上げの伸びが目標です。ポテンシャルとしては市場成長率の2倍のペースも可能でしょう。1日でも早く、マイコンやSoCに比肩できるようになるまで育てたいですね。
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