iPhone 5を分解、新型プロセッサ「A6」の謎に迫る:製品解剖 スマートフォン(1/2 ページ)
Appleの最新スマートフォン「iPhone 5」を分解し、主要部品のサプライヤーを調査するとともに、新型プロセッサ「A6」にも迫った。A6の全貌はまだ明らかになっておらず、いくつかの謎が残されている。CPUコアの種別と数は? どこで製造されているのか? まだ解析初期の段階だが、チップの刻印を見る限り、ファウンドリは引き続きSamsungのようだ。A6のダイ写真も公開する。
Appleはスマートフォン市場のリーダー企業である。これに異議を唱える人はそれほど多くないだろう。市場調査会社のStrategy Analyticsによれば、Appleは「iPhone」シリーズ投入後わずか5年間のうちに、同シリーズの本体とアクセサリで合わせて1500億米ドルを超える売り上げを獲得した。iPhoneシリーズの販売台数は累計で1億台を上回るという。
その最新機種となる「iPhone 5」は、Appleのオンラインストアの事前予約システムだけでも200万台が販売されたと推定されている。Appleは“スマートフォンの王者”の座を他社に譲る気は全くないようだ。
iPhone 5は、既に多くのレビュアーが「歴代のiPhoneで最も革新的」と評価しており、確かに設計面で目新しい点もある。例えば、ディスプレイを4インチに大型化し、「タッチスクリーンを快適に使える範囲」としていた3.5インチを初めて超えた。
iPhoneシリーズ旧来の3.5インチからの大型化に舵を切った最初の機種として、iPhone 5は1136×640画素で解像度が326ppi(pixels per square inch)の高精細「Retinaディスプレイ」も特長として打ち出している。
2007年にAppleが初代機を発表して以来、iPhoneシリーズは“継続的な改良”のまさに代名詞的な存在だった。
初代機は、マルチタッチ対応のディスプレイを搭載し、アプリケーションをベースにした環境を採用したことで、スマートフォン市場に革命をもたらした。その後、いままで5つの世代のiPhoneがリリースされ、いずれも前世代機に改良を盛り込んできた。では、Appleが「iPhoneシリーズで最も劇的な改良」とうたうiPhone 5は、実際に前世代機とそれほど違うのだろうか? iPhone 5を分解し、部品レベルでその差異に迫ってみよう。
部品サプライヤーとの強固な関係が成功の鍵
iPhone 5には、仕向け地やキャリアごとに幾つか異なるバージョンがある。今回、当社(UBM TechInsights)が分解したのは、AT&Tが販売する、カナダのLTEネットワーク向けに最適化された「A1428」というモデルだ。
Appleの成功の鍵の1つは、部品の選択にある。かつてサプライチェーン担当のバイスプレジデントを務め、現在はCEO(最高経営責任者)の座についているTim Cook氏の指揮の下、同社はiPhoneの一番初めの機種を立ち上げるときから、部品サプライヤーとの関係を構築していた。そのサプライヤーとの関係は、iPhoneの世代が進むごとに強化される一方だ。サプライチェーンの観点では、Appleと既存のサプライヤーである半導体メーカーとの間の関係はほぼ固定化されており、これまで取引のない半導体メーカーがここに割って入れる可能性はかなり低い。
例えば、iPhoneの初代機で採用を勝ち取った半導体メーカー10社は、最新機種のiPhone 5でもそのままの顔ぶれで部品を供給している。iPhone 5を分解して基板を一見しただけでも、Samsung ElectronicsやTexas Instruments、STMicroelectronicsといった大手半導体メーカーがiPhoneシリーズの開発において大きな部分を占めていることが分かる。そして、メインの電源管理ICを供給するDialog Semiconductorや、携帯電話通信用のパワーアンプモジュールを供給するSkyworks SolutionsとTriQuint Semiconductorなども、iPhone 5で引き続き“指定席”をつかんでいる。
事実、AppleがiPhoneシリーズで主要部品の調達先を変更すれば、しばしば大きなニュースとして伝えられる。例えば、以前にベースバンドプロセッサをInfineon Technologies(後に当該事業部門をIntelが買収)製からQualcomm製に切り替えたことが話題になった。もっともAppleはこのとき、「iPhone 4」のGSM版ではベースバンドプロセッサにInfineon製を使い、同じiPhone 4のCDMA版にはQualcomm製を採用した。ただCDMA版に用いたQualcomm製のベースバンドプロセッサは、GSMにも対応していたのである。これは、Qualcommへの切り替えが差し迫ったものだったことを物語る。iPhone 5に話を戻すと、今回もベースバンドプロセッサには引き続きQualcommを採用していた。
iPhone 5は、Appleにとって4G(第4世代)の携帯電話通信に足を踏み入れる最初の端末でもある。そのiPhone 5は、LTE対応ベースバンドを同社としては初めて採用し、同社のタブレット端末「iPad」の第3世代機に匹敵するベースバンド処理能力を備えている。QualcommはiPhone 5で3つのデザインウィンを獲得しているが、いずれも同社のLTE技術に関連したものだ。そのうち最も重要度が高いのは、ベースバンドプロセッサ「MDM9615」である。28nm世代の半導体プロセス技術で製造されるチップで、FDDとTDDの両方のLTEに加えて、DC-HSPA+やEV-DO Rev-B、TD-SCDMAにも対応しており、さまざまな仕向け地のどんなキャリアにも対応できる“グローバル”なベースバンドプロセッサだといえる。残る2つのデザインウィンは、このベースバンドプロセッサに組み合わせる電源管理IC「PM8018」と、GPS付きの4バンド対応トランシーバ「RTR8600」である。これら3つのチップは、いずれもQualcommが提供するLTEのエコシステムの一部であり、その相互運用性が採用の決め手になっている。
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