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技術の使い回しでは勝てない米International Rectifier 高橋敏男氏(1/5 ページ)

欧州、中国、インド、日本。これらの地域に共通する課題がある。機器の消費電力削減だ。欧州は省電力に関する法制化が進み、中国は政府によるインセンティブが実施されている。インドはやむにやまれぬ電力不足が背景にある。日本はいわずもがなだ。半導体企業ができることは何か。パワー半導体に取り組むほとんどの企業は「技術の使い回しが目立ち、問題解決の方向に向かっていない」――こう主張するのは米International Rectifierのベテラン技術者だ。

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技術の使い回しでは勝てない
高橋敏男氏

 将来の総エネルギー需要はどの程度伸びるのか、そのときエネルギー構成をどうすればよいのか――日本国内では原子力や再生可能エネルギーの位置付けと合わせて議論が沸騰している。

 エネルギー政策については他国も真剣に取り組んでいる。例えば欧州は総エネルギー需要をこれ以上増やさない、しかし産業は伸ばすという「矛盾した」政策を推進中だ。

 どうすれば実現できるのか。電力を使う全ての機器の消費電力を引き下げればよい。節電ではなく、機器側の省エネ化だ。中国は総エネルギー需要が年間10%前後の伸びを示している。ここでも機器の消費電力をいかに下げるかがカギを握っている。

 世界各国で進む政策の変化、市場の変化を先取りできれば、エレクトロニクス産業の未来がより明るく開けてくるのではないだろうか。

インバータで自動的に省エネ化

 機器の消費電力を引き下げる取り組みはさまざまだが、効果的なのは電源の高効率化だ。具体的にはモーターを使う機器の電源をインバータ化し、さらに機器の電力消費パターンに合ったインバータを設計することが必要だ。インバータに必要な条件は性能(効率)だけではない。さまざまな環境下で使われる多数の機器に適用できることはもちろんだが、安価であること、量産性が高いこと、さらに製造工程が単純化できることが必要だ。

 このようなインバータの姿とはどのようなものなのか。米International Rectifier(IR)の省エネルギー機器事業本部モーター制御製品デザインセンターで部長を務める高橋敏男氏に話を聞いた(図1)。


図1 米International Rectifierの高橋敏男氏

EE Times Japan(EETJ) インバータ市場は今後成長が著しいようだ。どの程度の市場規模を見込めるのか。

高橋氏 世界的にインバータ需要が急速に高まるとみている。欧州は2013年から出力125W以上の全てのポンプやファンをインバータ化しなければならないというEU指令が適用される。こうした機器を製造する欧州の企業は日本国内の巨大電機メーカーと比較すれば小規模だ。それでも、永久磁石モーターを使ったファンやポンプを1社当たり年間数百万台製造しており、このような企業が20社程度ある。つまり2000万台の新規市場が見込める。

 それぞれのファンやポンプにはインバータを内蔵しなければならない。モーターとインバータを合わせて例えば20米ドルと単純に見積もると、4億米ドルの市場だ。EU指令は今後もさらに厳しくなる方向で改訂されるだろう。各企業はこれを見込んで、40〜50W品についても電源をインバータ化する方向で進んでいる。つまり市場はさらに大きくなるということだ。

 中国ではエアコンのインバータ化が加速度的に進んでいる。中国政府が2012年5月にインセンティブプランを発表したためだ。アプライアンス機器(冷蔵庫、エアコン)に対して、EER(Energy Efficiency Rate)を定めており、達成度に応じて補助金が出る。エアコンを製造する大メーカーは2社あり、合わせて年産5000万台規模だ。現在はまだ1500万台分しかインバータ化されていない。日本市場の年産700万台と比べるといかに巨大な市場なのかが分かる。

 インドはエアコンよりも天井に設置するシーリングファンの市場が大きく、これを可変速制御にすることで省電力化を進めるという政策が進んでいる。やはりインバータがカギを握る。

EETJ 電源関連の企業が高効率なインバータを続々と投入している。さらに高効率化を目指すのか。

高橋氏 高効率化よりも大事なことがある。世界各国の巨大市場を狙うには相手のニーズに合わせなければならない。よいものを作れば売れると言うことではない。ボリュームゾーンであって、価格を抑えなければならない。相手の望む価格帯に合わせられることが重要だ。では、他社が顧客のニーズにあったインバータを提供できているかというと、できていない。

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